スイート・ビター・スイート | ナノ
ちらちらと粉雪が舞う、二月。今日はこの立海大附属高校で過ごす最後の日だ。
case.77
式が終わって卒業証書を受け取った後、私たち卒業生は中庭や昇降口で各々の時間を過ごしていた。先生と喋ったり、地元を離れる友達との別れを惜しんだり、部活の集まりがあったり。そんないつもと違う雰囲気が、いよいよここを卒業するのだということを実感させる。私も皆と同じように写真を撮ったりお喋りをし、最後の時間を楽しんでいた。
そんな中、聞き慣れた声が響く。
「美桜ーっ!」
「ななちゃんっ!」
部活の集まりへ行っていたななちゃんが私を大声で呼び、飛び付いてきた。驚きつつも、それに答えるように私もぎゅっと腕を回す。
「なんか、さみしいね」
「ね、大学でまた会えるのにね!って美桜、何泣きそうな顔してんの!」
「な、泣かないよ…!」
春休み中も会おうと思えば会えるし大学も一緒だからこれでお別れということはないけれど、なぜだか寂しい気持ちでいっぱいになる。それはきっと、ここでななちゃんと過ごした三年間が私にとってとても大切な時間だったからだ。視界を滲ませる私の頭をいつものように撫でながら、ななちゃんは笑う。
「美桜」
「ん…?」
「私、美桜に会えてよかったよ。三年間、すっごい楽しかった!恋バナもたくさん聞けちゃったしね」
「ななちゃん…」
「大学行ってもよろしくね、美桜」
「…っ、」
「えっ、ちょ、美桜!?うそっ、やだ、泣かないでよー…」
「ごめ…っ、」
ななちゃんの笑顔と、嬉しすぎる言葉に涙腺が緩む。ダムが決壊したようにどんどん溢れ出す涙に、最初は焦っていたななちゃんも今や困ったように笑いながらハンカチで溢れ落ちる涙を拭いてくれている。
ななちゃんはいつもこうやって笑顔で私に言葉をくれて、優しさをくれて、そして楽しかった高校生活をくれたのだ。
「ななちゃん、」
「ん?まだ泣く?」
「ちがっ……私もね、ななちゃんに会えてよかった。高校から立海に入って不安だったとき、ななちゃんが声掛けてくれたことすっごく嬉しかったんだよ」
「美桜…」
「いっぱい愚痴とか聞いてくれたし、相談にも乗ってくれて本当にありがとう」
「う、ん」
「ななちゃん大好き」
「…っ、美桜のバカっ!私まで泣かすなー…」
お互いに抱き合って涙を流す私たちはちょっぴり滑稽だっただろう。でも、少しの別れなのにこんなにも名残惜しくて、寂しいと感じるような友情を築けたことを本当に嬉しく思う。
「美桜、春休み遊ぼうね。幸村くんとのこと、また聞かせてね」
「うん、メールするね!」
「私もする!…あ、今日、幸村くんとは?」
「今は部活の方に行ってると思うけど、最後だし一緒に帰る約束してるよ」
「ん、そっか!」
ななちゃんはもう一度部活の集まりへ行くらしい。私の言葉に満足そうに笑うともう一度私にハグをした。そして手を大きく振って、走っていった。
ななちゃんがいなかったら、きっとこんなにも楽しい学校生活は送れなかっただろう。大袈裟かもしれないけれど、本当にそう感じるのだ。それくらいななちゃんは私にとって大きな存在だったし、きっとこれからもそうであり続けると思う。
ななちゃんに、出会えてよかった。