スイート・ビター・スイート | ナノ
「落ち着いた?」
次々と溢れ出て止まらなかった涙もようやく枯れ始め、ななちゃんの声ではっと気付く。私は一体どれだけ泣いていたのだろうか。
窓の外を見ると太陽はほとんど沈み、空は藍色に染まり始めていた。
case.71
「…ごめんね、ななちゃん…折角ケーキバイキング誘ってくれたのに…」
「いいって、また今度行けばいいんだし!それよりまず涙拭いて!ほらっ」
「…ん」
すっかり濡れて役に立たなくなったハンカチで、言われるがまま目の周りを拭く。泣きすぎたのとハンカチや手で擦りすぎたためか、目の周りはヒリヒリと痛かった。
先程までは突然の仁王くんの言葉にただただ混乱するばかりだった。でもようやく気持ちが落ち着き、冷静に考えることが出来る。ますまは大きな問題が一つあるのだ。
「精市くんに、言った方がいいのかな…」
「告白されたこと?」
「うん…」
「…うーん……」
精市くんは私が仁王くんに関わらず他の男の子と関わることを嫌がる。以前他校の男の子に告白されたことがあるけれど、その時も不安や焦りを感じさせてしまったようで私は申し訳なさでいっぱいだった。そして仁王くんの恋愛の仕方に良い印象を持っていないこともあって、とりわけ関わってほしくないということを言われていた。
私にとってみればそう言われることは嫌でなかったし、むしろ好かれているということを実感できたのだ。
でも、だからこそちゃんと話して、不安も焦りも、すべての感情を精市くんと共有したかった。
「…やっぱり、言うべきかな」
「…うん…黙っていてもいずれは分かることじゃない?それならちゃんと幸村くんに話して、仁王くんにも同じように、自分の気持ち伝えた方がいいと思う…なんか、上手く言えないけど…」
「ううん、そんなことない……でも、ね…」
「ん…?」
仁王くんは精市くんのチームメイトであり、友達であり、そして仲間だ。精市くんは仁王くんの恋愛の仕方に関してあまりよく思っていないようだったけれど、それでも最近の様子については心から心配しているようだった。
「精市くんと仁王くんの仲が壊れたら…どうしよう…っ」
こんなの私の単なる我が儘だということは分かっている。それでも、もしも精市くんと仁王くんの仲が壊れてしまったらと考えると、このまま何事もなかったことにして終わらせてしまった方がいいのではないかという考えすらも浮かぶ。そんなことあるはずがないとは思うけれど、どうしようもない不安が私を襲うのだ。
「美桜」
「…う、ん」
「そうなることを、仁王くんは覚悟して告白したんだと思う」
「…覚悟…?」
「そんな本気の告白を、美桜は幸村くんにも仁王くんにも、自分の気持ちにも嘘吐いて終わらせるの?」
「…っ、 !」
ななちゃんの言葉が胸に突き刺さる。はっと目が覚めたような感覚がして、先程までの不安な気持ちも、どうしていいのか分からない迷いも消えていくような気がした。
ちゃんと精市くんに話そう。そして、仁王くんにも自分の気持ちを伝えよう。そうすることできっと一番、私の真摯な気持ちを見せられる。