スイート・ビター・スイート | ナノ

仁王くんは事あるごとに私に関わってきた。ある時はからかうようなことを言い、かと思えば励ますようなことを言ってきたり、正直仁王くんの本質がよく分からなかった。

最後に話をしたのは夏休みの前。今思えば私と精市くんが関係を深められたのは、その時の仁王くんの言葉がきっかけだったのかもしれない。それ以来仁王くんとは喋っていない。危険人物には変わりないから、近付くに越したことはないのだけれど。

でもなんとなく最近の仁王くんは以前とは何かが違う気がしていたし、精市くんもおそらくそれを見抜いているようだった。


case.67


今日は放課後にななちゃんとケーキバイキングに行く約束をしていた。ななちゃんがお父さんにもらったという招待券を私にもくれたからだ。

「美桜、おまたせ!じゃあ行こっか」
「うん!」

掃除を終えたななちゃんを待って、いよいよ楽しみにしていたケーキバイキングだ。最近甘いもの食べてなかったし楽しみだな、なんて思いながら下駄箱で上靴を脱ぐ。同じように上靴を脱いでローファーに履き替えていたななちゃんが「そういえば」と口を開いた。

「今日のこと幸村くんには言ったの?」
「あ、うん!楽しんでおいでって」
「なーんだ、美桜とられて妬いてるかと思ったのに」
「まさか、それはないよぉ」

ななちゃんが残念そうな表情をするけれど、これは楽しんでいる時の表情だ。お互いに顔を見合わせて笑って、校舎を出た。
そして私は精市くんの話題が出て、メール返してなかったことを思い出した。携帯どこに入れたっけ、と鞄の中を探す。

「あれ…?」
「どした?」
「携帯がない…」
「あらら、教室?」
「んー、多分……ちょっと探してくるね!」
「一緒に行こうか?」
「大丈夫!ごめんね、待ってて」
「はーい」

ななちゃんの気の抜けた返事を背に、小走りで校舎へと戻る。今日はほとんど教室での授業だったし、最後の時間だけ視聴覚室へ行ったからきっとどちらかの部屋にあるはずだ。とりあえずここから近い視聴覚室を探しに行こう、と階段を掛け上がった。


「はぁっ、…あるといいなぁ…」

急いで階段を掛け上がって乱れた息を、歩きながら整える。そして視聴覚室の前に着き、鍵が開いたままになっていることを確認して中へ入った。

けれど、今この部屋に入ったことを私は死ぬほど後悔することになる。

部屋の中は、電気は点いていなかったけれど窓から差し込む太陽の光で充分明るかった。だからこそ扉を開いた瞬間広がっていた光景が嫌でもはっきりと目に入った。

「っん、雅治…あぁ っ」
「黙りんしゃい…声出すなって、言うとるじゃろ…」
「あ、んっ、 んんっ」

机の上に仰向けで寝転ぶ女の子と、そこに覆い被さる仁王くん。何をしているかは私でも分かった。
驚きのあまり一瞬だけ時が止まったようにフリーズしたけれど、はっと我に返って急いで踵を返し部屋から出ようとした。

しかしそれは、仁王くんの声によって遮られる。

「美桜ちゃん、」

少しだけ熱の籠った声が、扉に掛けた私の手をぴたりと止める。一刻も早くこの場所から逃げ出したかった。どくん、どくん、と緊張したように鼓動が速くなって、なぜか恐怖さえ感じていた。

「そこで待ちんしゃい…すぐ終わるから…」
「んんっ…っ、…!」
「…っ、は」

女の子の口を塞いでいるのだろう。くぐもった声が一際大きくなって、それと同時に仁王くんが小さく息を吐くような声も聞こえた。
やっぱり逃げよう。そう思って扉を開けるけれど、やはり仁王くんの声が私を逃がしてはくれない。

「美桜ちゃん、待ちんしゃい」

――怖い。仁王くんが、怖い。
有無を言わさない声色に、私はその場に立ち尽くすしかなかった。

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