スイート・ビター・スイート | ナノ

精市くんは、何でこの人が私なんかの彼氏なのだろうと思ってしまうほど格好よくて、綺麗で、そしてとんでもなくモテる。その紛れもない事実を私はどうやら忘れていたようだ。


case.63


「美桜ちゃん美桜ちゃん!」

朝、教室に入ったらすぐにクラスの女の子が私の元へとやってきた。何やら神妙な面持ちをしているけれど、どうしたのだろうか。

「おはよう。どうしたの?」
「あっ、おはよう。…あのね…美桜ちゃんの彼氏って、幸村くんだよね…?」
「えっ?うん…」

精市くん?どうして彼女の口から精市くんの名前が出るのだろう。よく分からないけれど、ということは精市くん絡みの話なのだろうか。
そう不思議に思っていると、彼女はとても言いにくそうに少しだけ小声で言った。

「私見ちゃったんだけど…昨日の夕方、幸村くん駅で告白されてたよ」
「…えっ…?」
「この学校の子じゃなくて、他校の制服だった…何言ってるかまでは分からなかったけど、あの雰囲気は告白だよ絶対…」
「そ、そうなんだ…」
「一応美桜ちゃんに言った方がいいかなって思って…お節介だったらごめんね」
「ううん、そんなことないよ…ありがとうね…」

笑顔で答えるも、内心は驚きと焦りでいっぱいだった。
この学校の中では、精市くんのことを好きな子がいたとしても、近付いてアタックする子はあまりいないと感じていた(多分前に喧嘩した時、精市くんが教室しかも大勢の前で牽制してくれたからだと思う)。
だから忘れていたのだ。精市くんはとてつもなくモテるということを。同じ学校でなければ、きっと私という恋人がいるということも知らないはず。

――だから、告白されたんだ…

―――う…胸、痛い…

私はいつの間にこんなに嫉妬深くなってしまったのだろうか。ずっと前に精市くんが女の子に告白されているのを見てしまった時は嫉妬どころか、そんなにキツい言い方をしなくても、なんてお人好しと思われても仕方のない感情を抱いていたというのに。
久しぶりに精市くんのモテっぷりを見たような気がして、焦りを感じる。どんな子に、どんな風に気持ちを伝えられたのだろうか。聞きたいけれど、どういう風に聞いたらいいのかもよく分からない。

そんな曖昧な感情のまま、放課後を向かえた。




「美桜、お待たせ。帰ろっか」
「…うん」

精市くんの顔を見ると、可愛くないことを言ってしまいそうであまり口を開きたくなかった。やっぱりこんな風に嫉妬している自分は知られたくない。
けれどそう思いつつも気になるものは気になる。そう思い、不安と焦りと、ほんの少しの好奇心を抱いて私は口を開いた。

「せ、…」
「あのさ」
「え?」

精市くん、とそう呼ぼうとした名前は精市くん自身の声に遮られた。少しだけ眉根を寄せ、何だか申し訳なさそうな表情で私を見る。

「昨日、――」
「幸村くん!」

今度は精市くんの声が遮られた。思わずその声が聴こえた方を振り向く。透き通った声で精市くんを呼び、そして精市くんの言葉を遮ったのは私の知らない女の子だった。

「あ、昨日の…」
「えへへ、昨日ぶりっ!」

何となく、分かってしまった。この子が昨日精市くんに告白をした女の子だろう。
立海の制服じゃない、他校の制服。それを纏った、女の私から見ても可愛らしいこの子が精市くんに告白をしたのだ。

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