スイート・ビター・スイート | ナノ
試験最終日の朝、最後の勉強会が終わった。教室へ向かう途中、赤也くんは自信満々に笑う。
「本当にありがとうございました美桜先輩!俺今回は何とかなりそうな気がするっス!」
「赤也くん頑張ってきたから、きっと大丈夫だよ」
「結果が出たら一番に知らせますね!」
「ん、期待してるよ!」
上機嫌で手を振る赤也くんに私も手を振り返す。短い期間だったけど、弟ができたみたいで楽しかったな、なんて教室へと歩いていく赤也くんの背中を見て思った。
case.56
試験が終わった次の日、今日は精市くんと一緒に帰る約束をしていた。今朝来たメールで少しだけ部活に顔を出すと言っていたから、私はいつも通り図書室で待つことにした。
――誰もいない……
試験期間が終わったばかりだからだろう、いつもはちらほらと人がいるはずの図書室も、今日は私以外に誰もいなかった。さすがに私も勉強するという気分にはならなかったので、窓際の陽当たりのいい席に座って外を眺めている。
――そういえば、精市くんがあの時言ったこと…本気なのかな。
先日電話をした時に言われた言葉を思い出す。俺の相手してもらうから覚悟しといて、って…そんなこと、言われても。私は一体どうすればいいのだろう。
どうしたら精市くんを満足させられる?そして、精市くんは私をどうしたい?
そんなことをぼーっと考えながら、時折入ってくる気持ちのいい風を肌に感じる。
「ふぁ、…ねむ…」
試験期間中の寝不足のツケがここに来て回って来た。きっとまだ精市くんも来ないだろうし、少しだけ寝てしまおう。そう思って私は机に突っ伏した。
「…美桜、…美桜」
「………ん…?」
「美桜、起きて」
肩を揺すられて、優しい声で名前を呼ばれる。夢なのか現実なのか分からないくらい心地いい。この声は、
「んー……あ、…精市くん」
「うん、そうだよ。ごめん、待たせたね」
「んーん」
眉を下げて申し訳なさそうな表情で私を見る精市くんに、心臓がドキドキと鼓動を速める。半分寝惚けていたからだろう、思わず精市くんをじっと見つめると、同じように私を見つめる精市くんと視線がぶつかった。
そして徐々に覚醒し始めた頭で、やっと気付く。――これ、キスされる!
「せ、………んっ、」
精市くんの綺麗な顔が近付いてきたと思ったら、そのまま口付けられる。いくら人がいないと言っても、ここは図書室。いつ誰がやって来るかも分からないし、何より急にキスをされたここで私の頭は沸騰しそうだった。優しく啄むような口付けに思わず酔いしれそうになった所で、ゆっくりと唇が離れた。
と、思ったら間髪入れずまた口付けられる。今度は、先程よりも強引なキスだ。
「ん、っ …!」
なんでこんなところで!と言いたくても完全に唇を塞がれていて、出てくるのは情けない声ばかり。精市くんは場所なんてお構いなしに、あろうことか私の制服に手を掛ける。背中のファスナーが下ろされた所で、私は一気に我に返った。
「…っちょ、待って…っ!」
「なんで…?」
「何でって、ここ学校だよ…!?」
キスをするは嫌じゃないし、触れてもらえるのは嬉しいけれど、いくらなんでも学校でこういうことをするのはやめて欲しい。そんな意味も込めた私の言葉に精市くんは少しだけ考える素振りをしたあとそれはもう、いい笑顔で言い放った。
「じゃあ学校じゃなければいいんだ?」
「……え?」
「美桜に俺の相手、してほしいんだけど」
「……っ、でも、ここじゃ…」
「俺の家なら?」
「……ずるいよ、精市くん」
嵌められた。私が拒否出来ないことを分かっていて、敢えて聞くのだ。精市くんはいつも私の何枚も上手を行く。けれどそうと分かっていノーとは言わない私も私だ。にっこりと笑って私の手を取る精市くんにつられて、私も思わず笑顔になる。
そして久しぶりにお邪魔した精市くんの部屋で何をしたかというと、それは恥ずかしいから誰にも秘密。