スイート・ビター・スイート | ナノ

キスマークに気付いたその次の日。未だ赤く色付く首筋を隠すために、昨日と同じように絆創膏を貼って家を出た。


case.41


放課後、私は図書室で一人精市くんの部活が終わるのを待っていた。そろそろ始まる頃だろうか、と窓の外を見るとちょうど精市くんがテニスコートに入っていった所だった。

さて、私も本でも読もうかな、と席を立つ。放課後の図書室には人はほとんどおらず、しんと静まり返っていた。私は何か興味を引かれる本はないか探そうと、本棚に囲まれた細い通路に入った。

「ん、」

ん?ふいに小さく聞こえた声はおそらく女の子のもの。か細い声だったけれど、確かに耳に届いた。思えばこの時わざわざ気に留めなければよかったのだ。けれどこの時の私はどうしてか、その声が聞こえたと思われる方向へと、角を曲がってしまった。

その先にいたのは、壁にもたれる男の子と、その首に腕を回しキスを交わしている女の子だった。

――え…っ!?

驚きすぎて声が出なかった。衝撃のあまり隠れることも忘れて、私はその場に固まる。
キスシーンなんて初めて見た上に、よく見たら男の子の方はよく知った顔だった。あの銀髪は、

「に……っ!」

仁王くん!思わず叫びそうになったけれど、すぐに両手で口を覆ってその場を逃げ出した。

人のキスシーンなんて、初めて見た。つまりさっき聞こえた声はあの女の子のもので、今その子とキスをしていたのは仁王くんで、ていうかまず仁王くんって彼女いたんだ!
と、私の脳内はまさに混乱状態。とりあえず鞄を置いたままの席に戻って、驚いて一気に熱くなった体を落ち着かせようと、手でパタパタと顔を扇いだ。




「美桜ちゃん?」
「ひっ…!」

突然呼ばれた名前に、びくりと体が跳ねる。私を呼んだのはさっきまで女の子を抱き締めて、そしてキスを交わしていた張本人だった。いつの間に私の背後にやってきたのかは分からない。ただ私が先程見てしまったことにきっと彼は気付いているに違いない。

「覗き見はいかんのう」

ほら、やっぱり気付いている。私を見下ろすその口許は、弧を描いている。

「覗き見じゃないよ…!?あれは、ただ…」
「分かっとる。たまたまじゃろ?美桜ちゃんに覗き見なんてする度胸あると思えんし」
「う、うん…?」

信じてもらえたのはいいけれど、何だかバかにされているような気がするのは本当にただの私の気のせいだろうか。
なんて思っていたら、仁王くんの手が私の首もとに伸びる。そして昨日の精市くんと同じように、しっかり貼った絆創膏を一気に剥がした。

「痛っ…な、何!?」
「やっぱり」

仁王くんの指に摘ままれた絆創膏がヒラヒラと揺れる。咄嗟に手で首筋を隠したけれど遅かった。今度は仁王くんの手が、私の腕を掴む。

「わざわざキスマーク隠しとるような子が人のキスシーン覗き見するなんてできんじゃろ、ってこと」
「…っ!」
「おーおー、真っ赤な痕じゃなぁ」
「離してよっ!」

仁王くんが笑う。ただでさえ苦手な人なのに、さらにじろじろと首筋を見られて恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。

もう何が何だか訳が分からなかった。運が悪いにも程がある。どうして私はこうも、仁王くんに遭遇するのだろうか。

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