スイート・ビター・スイート | ナノ

あの時の精市くんの表情が頭から離れない。耳や首筋に感じた生暖かい感触、そして思わず飛び出した自分のものじゃないような声。

いつまでもキス止まりでいるわけにはいかないということは、頭では理解している。けれどそれに気持ちが追い付いていないのだ。精市くんともっと近付きたいと思う反面、昨日のように私じゃない私になるのが怖くて。


case.39


「美桜、起きなくていいの!?もう遅刻するわよ!」
「…んー…?……う、わぁぁぁ…!」

お母さんの声で目を覚まし、時計を見て絶望。昨日の夜ベッドに入ってからもずっと悶々と考えていたせいでなかなか寝付けず、そのせいでかなりの寝坊をしてしまったのだ。

いつもの私にしてみればありえないスピードで着替え、朝ご飯も食べずに家を飛び出した。きっと変な寝癖がついているだろうけど、直していたら遅刻をしてしまう。仕方がないから学校へ行ってから直そう。と思って、鏡を見なかったのが間違いだった。




「おはよっ、ななちゃん…!」
「おはよ。何でそんな息切れてんの?」
「寝坊、しちゃって…遅刻しそうだったから猛ダッシュしてきた…」
「美桜が寝坊なんて珍しい……あはっ、寝癖ついてるよ」

教室に駆け込んで、前の席のななちゃんに声を掛けた。やっぱり寝癖ついてたんだ。ななちゃんは笑いながら私の髪に触れる。
けれどその瞬間、ななちゃんの笑顔が固まった。

「え、美桜、あんた…」
「え?」
「ちょっとこれ!」

と言って鏡を取りだし私に向ける。そんなにひどい寝癖ついてるの?とドキドキしながら鏡を覗く。けれどそこに映っていたのは、寝癖なんかよりももっと驚きのものだった。

「え…っ!?」
「キスマーク、でしょ?それ。そんなに真っ赤につけられて、いくらなんでも目立つって…」
「う、わぁぁ…!どうしよう!」

鏡に映った私の首筋には、真っ赤な痕がついていた。これがいわゆるキスマーク、らしい。
思い当たる節はひとつだけ、昨日の精市くんの行動だ。首筋をきつく吸われたことにびっくりしすぎてまさかキスマークをつけていたなんて思っていなかった。
どうしよう、これ。こんなに真っ赤な痕、絶対に目立ってしまう。

「とりあえず、絆創膏で隠す?さらけ出してるよりはいいと思うんだけど…」
「うん、貼ってくる…!」

ななちゃんに絆創膏を貰ってトイレへ走った。
首筋に貼られた絆創膏はかなり違和感があったけれど、ななちゃんの言葉通りこんな真っ赤な痕をさらけ出しているよりはまだいい。

キスマークなんて、もちろん初めてつけられた。精市くんがつけてくれた痕。びっくりしたけれど、少しだけ嬉しいと感じてしまう私はおかしいだろうか。
でもそれと同時にいよいよ先へ進むということが見えて来た気がして、恥ずかしいような戸惑いのようなよくわからない気持ちで胸がきゅっと締め付けられた。

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