スイート・ビター・スイート | ナノ
case.36
「わ、かわいいー…」
「美桜の好きそうなものばかりだね」
「うん!」
その雑貨屋さんはレトロな雰囲気で、私好みの小物が沢山置いてあった。全部ほしくなってしまうくらいどれも可愛くて、先ほどまでの恥ずかしさなんてもうどこかへ行ってしまっていた。
それまで繋いでいた手は自然と離れ、私はゆっくりと店内を見て回る。あちこち移動する私の後を精市くんは何も言わずに着いてきてくれている。こういう時精市くんは私に気を使ってか、一歩離れたところで私の傍にいてくれるのだ。
「これ、美桜に似合いそう」
「え?」
ふと聞こえた精市くんの声。私はそれまで見ていたネックレスを置いて振り返った。
精市くんが手に持っていたのは綺麗な刺繍が施されたバレッタだった。
「可愛い!」
「うん、絶対似合うと思う」
そう言って精市くんは私の髪にバレッタを当てる。自分では見えないけれど、精市くんがにっこり笑ってくれたからなんだかとても幸せな気持ちになった。
そして精市くんは私の髪に当てていた手を戻し、そのままバレッタを持ってレジへと向かう。
「え?精市くん?」
「これ俺からのプレゼントね」
「え!?悪いよ…!自分で買うよ!」
「いいの、俺があげたいんだから。ちょっとそこで待ってて」
有無を言わさない微笑みでそれだけ言うと、精市くんは私を置いて行ってしまった。どうしよう、嬉しい。きっと私今、物凄くみっともないくらいにやけているんだろうな。こんなにも幸せでいいのだろうか。
しばらくして戻ってきた精市くんに手を引かれて外に出た。そして買ったばかりのバレッタを取り出して、私の髪に着ける。精市くんに髪の毛を触られると、くすぐったいけれどとても幸せな気持ちになるのだ。
「ん、やっぱり似合う」
「あの…ありがとう!すっごく嬉しい」
「ふふっ、どういたしまして」
満足そうに精市くんは笑う。それにつられて私も笑った。
「これからどうしよう?」
「うーん、まだ帰るには早いし…俺の家来る?」
「いいの?行きたいっ!」
再び手を繋いで駅に向かって歩き出す。ふと見たウインドウに自分の姿が映って、もらったばかりのバレッタがきらきらと輝いて見えた。