スイート・ビター・スイート | ナノ

「今日一日空いたんだけどさ、デートしない?」

朝一でかかってきた電話の向こうから聞こえた声は、それはもう清々しくて。その声に、まだベッドで微睡んでいた私は一気に飛び起きた。

そんな、とある日曜日の朝。


case.34


「おはよう、美桜」
「精市くん、おはよ!ごめんね遅くなっちゃって…!」
「そんなに待ってないから大丈夫だよ」

久しぶりのデートということでいつも以上におしゃれに気合を入れていたら遅刻しそうになって、猛ダッシュで駅に向った。
上がってしまった息を整えて改めて精市くんを見ると、思わず見惚れてしまいたくなるほどの笑顔が私を出迎えてくれていた。久しぶりに見る私服だってとっても似合っていて、本当に格好いい。
精市くんはそんな私の手を自然に取り、「行こうか」と笑う。少しばかり胸を高鳴らせながら、いつもより人の多い街に向かって歩き出した。

「どこか行きたいところある?」
「うーん…」
「なければ映画とかどうかなって思うんだけど。美桜、前観たいのあるって言ってたでしょ」
「あ、うん!じゃあ映画行きたいな!」
「よし、決まり」

そう言って精市くんは笑う。
私は自分が言ったことを覚えてくれていたということが嬉しくて、口許が緩むのを抑えることができなかった。精市くんに見つかると笑われそうだから、と隠すように立ち並ぶウィンドウに目をやった。




「はい、ハンカチ」
「う、ありがとう…」

私たちが観たのは、本来結ばれてはいけないはずの男女が様々な苦難を乗り越えて愛を誓い合う、というベタな恋愛映画だった。それでも私は妙に感情移入をしてしまって、エンドロールが流れる頃には涙が止まらなくなっていた。我ながら恥ずかしいしバカみたいだと思う。それでも優しくハンカチを差し出してくれる精市くんの優しさに、更に涙が溢れた。

そうしているうちにエンドロールが終わり、場内が明るくなった。周りと同じように立ち上がって出口に向かう。場外に出た時にはすっかり正気に戻り、泣いていたことが一気に恥ずかしくなった私は精市くんの顔をまともに見ることが出来なかった。

「なんでそんな方向いてるの?」
「う、だって泣きすぎて変な顔だし…」
「そんなことないのに」

精市くんが笑いを噛み殺しているのが分かる。絶対今、物凄くいい笑顔をしているに違いない。それでも、ポンポンと頭を軽く叩かれればそちらを見ないわけにはいかず、私は再び精市くんと目を合わせる。ああ、やっぱり笑ってる。

「笑うなー…」
「ごめんごめん、美桜が面白すぎてさ」
「もう…」
「目真っ赤だし」
「う、もうやだ精市くん…!」
「ふふっ、ごめんって」

何なんだこの人!人をからかって楽しんでる!と、分かってはいるのだけれど私は反撃することができない。なんだかんだ言って精市くんの言動には愛情のようなものが感じられるし、それが最近心地よかったりするからだ。

「昼ご飯食べに行こうか」

そう言って私の手を取る精市くんの笑顔にまたもやドキリと胸を高鳴らせ、映画館を出た。

「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -