スイート・ビター・スイート | ナノ
「ねぇ、美桜…」
「うん…」
「なんか最近、あんたの彼氏いつも以上にモテてない?」
「………うん」
case.24
精市くんがモテている。
いや、精市くんがモテるのは昔からなんだけれど、なんだか最近は特に、だ。まるで私と付き合う前のように、いつも以上に精市くんの周りには女の子がいる。何かの手違いがなければ私は彼女のはずなんだけれど、その私の存在なんて女の子たちはお構い無しのようで、全く眼中に入っていないらしい。
精市くんの不機嫌メーターを上げない程度に、でもあからさまに、女の子たちは精市くんに寄っていく。だから私は精市くんとあまり学校で話すことができない。もともと学校では、クラスも違うこともあってあまり話すことはないのだけれど、いつもに増して、だ。
「あれだね、美桜がこの前体育の時間に倒れたのが原因だね」
「なんで!?」
「幸村くん美桜のこと運んでいったじゃん?お姫様だっこで。あれ目立ちすぎてたからなぁ。学校ではあんたたちほとんど一緒にいないわけだし」
「うっ…で、でもそれとこれとは話が…」
「ま、大方、『あの子が幸村くんの彼女だなんてやっぱりおかしいわ!私の方が幸村くんに釣り合ってるのに!』ってな感じでしょ」
「ななちゃん、何気にひどいこと言ってるよね…」
「ん?そう?」
あくまで推測だけどねー、ってななちゃんはあっけらかんと笑う。それに釣られて私も思わず笑う。ななちゃんのことだ、この状況を楽しんでいるに違いない。それでも、何かあった時には絶対助けてくれるから私も安心して笑っていられるのだけれど。
「今日は一緒に帰る約束してるんでしょ?」
「うん…でも最近いつも以上に部活見に来てる子多いし、きっと終わるの待ってる子だっているよ…」
「そんなん関係ないじゃん!美桜は彼女なんだし。『私の精市くんに触らないでー!』くらい言ってやればいいじゃん」
「そ、そんなこと言えないよ!」
そう言えたらどんなにいいだろうか。精市くんは私の彼氏だから、私以外の人に触られたくない。こんな独占欲の塊をぶつけてもいいのだろうか。消えたはずの暗い気持ちが胸の奥で燻っているのを感じて、精市くんにどんな顔をして会ったらいいのか分からなくなった。