スイート・ビター・スイート | ナノ

夕日が差し込む図書室で、私は一人本を読み耽っている。理由は簡単、精市くんの部活が終わるのを待っているからだ。精市くんと一緒に帰る約束をしているときは、こうして図書室で時間を潰すことにしている。

「もうすぐ終わるかな、精市くん」

誰に言うわけでもなく小さく呟く。昨日あんなこと(例の、仁王くんとの出来事だ)があってから、精市くんとは初めて顔を合わせる。なんとなく後ろめたい気持ちと、「なんなのあの人!」と愚痴をこぼしたいという気持ちの間で揺れ動いて、なんとか前者に軍配が上がっている。
だって、精市くん絶対怒るし。と、最近自意識過剰になってきたかなあ、とか思いつつも彼の反応は容易に想像できる。だから、さわらぬ神に祟りなしということで私からは何も言わないことにする。

――そろそろ行こうかな。たまには待ち伏せてみたりして、びっくりさせちゃおっと。

いつもは部活を終えた精市くんが迎えに来てくれるのだが、今日はもう本にも飽きてしまったし、たまには驚く顔も見てみたい。そう思ってまだオレンジ色に染まる空の下、私は校舎から出た。


case.18


中庭のベンチに座り、空を見上げる。ここからなら部室棟の方から校舎へ向かう人の姿も確認できるし、精市くんを発見したらダッシュで近づいて飛びついてやる。と、彼の驚く顔を想像して一人にやける。我ながら幼稚だと思いつつもたまには私が彼を驚かせてみたい。
と、その瞬間ベンチに座る私の足元に、影が落ちた。見上げた先にいたのは、

「また会ったの」
「……に、おうくん…」
「昨日ぶり、じゃな」

彼の銀色の髪が夕日に照らされてキラキラと輝いている。もう部活は終わったのだろうか、制服姿で大きなカバンを肩にかけている。そして隣に座るでもなくしゃがむでもなく、彼は私を見下ろしたまま笑う。

「幸村のこと待っとんの?」
「そうだよ」
「健気じゃなあ」
「なっ、バカにしにきたの!?」
「いやあ、素直な感想じゃ。健気で、可愛いなと思って」
「っ…ま、またそんなこと…」

なんなんだ、この人は本当に。仮にも部活仲間の彼女にまで、こんな甘い言葉を軽々と言うのか。驚きとともに、正に危険人物だという認識が強まる。

「なんでそんな警戒しとるんじゃ」
「だ、って、仁王くん危険だもの」
「危険とか、心外じゃなあ」
「危険すぎるよ!だって昨日とかさ…!」
「昨日のは出来心じゃ」

とか言いながら私の頭をポンポンと叩く。もうやだ本当にこの人、意味が分からない。と半泣きになっていた私は、仁王くんの背後に近づいてきた足音に気付いた。

「昨日って何?なんで美桜と仁王が一緒にいるの?」

顔を上げたらそこには、飛び切りの笑顔で負のオーラを放つ精市くんがいた。

「説明、してくれるよね?」

有無を言わせない強い口調に思わずびくりと肩が跳ねる。
いや、私はこれっぽっちも悪くはない。悪いのは全部、この状況でさえも笑顔(しかも何かを企むような)でいるこの男の方だ。

だから精市くん、その刺すような笑みをやめてくれないかな!

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