スイート・ビター・スイート | ナノ

「何をそんなに緊張してるの?」
「そ、そんなことないよ?」
「………そう?」

緊張?そんなの、勿論していますとも。ただいまわたくし、緊張が最高潮に達しております。


case.14


先日ななちゃんと交わした会話――いわゆるキスのその先をしたいかどうかっていう話。
この話をしてから、どうも精市くんのことをいつも以上に意識してしまっている。今日だって折角お休みが出来てこうして精市くんのお家にお邪魔しているというのに、謎の緊張が自然な会話を妨げる。

「どうしたの、こっちおいで?」
「あ、うん…」
「ほら、ミルクティー冷めないうちに飲みなよ」
「ありがと…」

精市くんは様子がおかしい私を心配してくれている。私が勝手に緊張しているだけなのに…と申し訳なくなってやっとカップに口をつければ、精市くんは安心したように笑った。

どうしよう、聞いてみてもいいのかな。女の私からこんなこと聞くって、変じゃないかな。

何せ恋愛に関する経験値が低すぎるものだから、何が正しくて何が間違っているかがいまいち分からない。でも精市くんの本当の気持ちを知りたいって、一人前に思ってしまっている自分もいるのだ。
ええい、聞いてしまえ。女は、度胸だ!

「あの、ね、精市くん」
「ん?」
「いきなりなんだけど、ちょっと聞きたいことが…」
「聞きたいこと?」
「うん……あの、引かないでね…?」
「何?」
「んと、精市くんは…その………し、したい…?」
「……は?」
「あ、あの、するって言うのは、…」
「……わかってるよ」

精市くんは私の問いかけに一瞬驚いたように少しだけ目を見開き、それから小さく息を吐いた。やっぱり聞くんじゃなかったかな。と不安が募り始める。やはり私は聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
精市くん、お願いだから何か言って。

「俺も男だし、したくないって言ったら嘘になるよ」


「……え?」
「実際かなり自制してるし」
「っ、私、我慢させてる…?」
「美桜がそんな顔する必要ないよ。俺が我慢したくて我慢してるんだから」
「え…?」
「中途半端に手出して、傷付けたくないんだよ。ちゃんと、大切にしたいから」
「っ……精市くん… 」

精市くんは、本当に私を大切にしようとしてくれているのだ。今まで何度も思い知らされてきた事実が、改めて胸に突き刺さる。
真摯な眼差しが、私も真剣に向き合わなければという気持ちにさせる。精市くんの真っ直ぐな瞳、透き通った声、すべてが私を幸せにさせる。精市くんは私をこんなにも暖かい気持ちにさせてくれるのだ。だから私も真っ直ぐ向き合いたい。そう思って言葉を紡いだ。

「…あのね、精市くん」
「ん?」
「私ね、…そうなる時は絶対、精市くんとがいい」
「っ、………お前、俺をどうしたいの」

少しだけ掠れた声が聞こえたと思ったら、精市くんに抱き締められていた。そしてその腕が緩んだと思ったら、今度は目の前に精市くんの美しいお顔が広がっていた。口付けられている。そう気付いたのは驚きのあまり固まった私の唇を精市くんの舌が割って、口内に侵入してきた時だった。

「んっ…!?」

頭が、沸騰する。
こんな大人みたいで恥ずかしいキスは勿論生まれて初めてだ。いつものような唇を合わせるだけのキスとは違う、荒々しくて熱くて、だけど優しいキス。

「んんっ……っ、ふ」

上手く息継ぎをすることができなくて、思わず変な声が出てしまう。自分のものじゃないような声に、私はさらに熱くなる。
いよいよ苦しくなってきて精市くんの服をきゅっと掴めば、小さな音をたてて唇が離れた。

「は、っ…精市、くん…っ」
「…今のは美桜が悪い」

掠れた声でそう呟いた精市くんの表情は、どこか色っぽくて、それでいて憂いを帯びていて。その熱い眼差しに私の心臓は締め付けられる。
そして最後の最後に、精市くんは爆弾を落とすのです。

「今はまだこれくらいで我慢するけど、いつか全部もらうから」
「…!?」
「覚悟、しといて」

そう言われた時の挑戦的な瞳から、私はどうしても視線を反らすことができなかった。

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