まずった。

 顔から血の気が引いていくのを感じる。
 柱に括り付けられた身体を捩ってみても微塵も動けない。こんなか弱いレディを力一杯縛り付けるなんて。これ絶対に縄の痕が付いちゃってんでしょ。
 そんな風に直に縄が触れている腕の心配をしてみるけれど、本当に今危ぶまれるのはどう考えても我が身、我が命なのだ。

 目の前に山賊がいる。

 額にバッテンの傷がある長身の男が1人と、その周りにわたしを囲うような形で同じような服装の男達が1、2、3、4……とりあえずいっぱい。
 隣のおばちゃんのぎっくり腰のお見舞いにあげる花を、よせばいいのにわざわざ山の奥の方まで取りに来てしまったのだ。ちょっと見栄を張ろうと思ってしまったのだ。ちくしょう、小一時間前のわたしめ、絶対庭に咲いてるタンポポでよかったよ。

「こんな山奥に何しに来たんだァ?なァ、お嬢ちゃん」
「ひぇ……あの、お花を摘みに来ました」
「わざわざ山賊のいる山にか?花なんて村にも咲いてるだろう」
「わかります、そう思います」
「わけのわからねェことを言う女だな……いいか、命が惜しけりゃおれを怒らせるな。おれを怒らせた奴は過去56人みんな殺してきたんだ」

 えっ数えてるんですか、なんて野暮なことはもちろん口には出さない。そんなこと言ったら間違いなく殺される。





----------
2019年3月執筆

prev / back / next

top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -