オアハカの死者の日を彷彿とさせるような、派手でおしゃれなバルーンがカラフルな光を輝かせながら風に揺れる。この町で過ごすようになって早いことにもう数日が経つけれど、改めて家々の積み重なったこの街並みはやはり夜空に映えると思った。
仲睦まじく腕を組む男女を見送りながら、わたしも慣れないヒールで覚束なく1人歩く。踵が低めのものなら何度か履いたことがあるけれど、こんなふうに10センチくらいもある、それも細ヒールを履くのは生まれてはじめてだ。ビジューのたくさんついた真っ白な厚底パンプスは、純白のパーティドレスと揃いでメフィストさんがくれたものだ。
ちら、と自身の服装に視線を落とす。ホルターネックとオフショルダーのパフスリーブは肌触りのいいレースで、フィッシュテールのチュールスカートは綺麗なAラインがとても華やかだ。色からかウェディングドレスが思い浮かぶものだから乙女心を擽られる。素敵なパーティドレスを贈ってくれたメフィストさんには感謝感謝だ。
服装に合うように、跳ねる癖毛はなんとか編み込んで押さえつけ、アップスタイルに纏めた。お母さんから貰ったパールのイヤリングが耳元で揺れる。
今日は待ちに待ったダンスパーティだ。
集合場所の正十字学園遊園地、通称メッフィーランドのエントランス付近まで来たところで辺りをくるりと見渡した。混雑が予想される時間から少し外したつもりだったけれど、さすがに人が多い。この中から竜士くんを探すのは難しそうだ。
「……あ!」
人混みの少し先にその人を見つけた。向こうもちょうどこちらに気がついたらしくぱちと目が合った。コツコツとヒールを鳴らし、その近くへ歩み寄る。
「わ……!」
人の壁がなくなり見えた竜士くんの正装に、思わず双眸を瞬かせた。
黒のワイシャツに白のベストとパンツを合わせた竜士くんの服装は一見シンプルだけれど、髪色やピアスの派手さを良くひきたたせている。髪型も、いつもよりきちんと固められたオールバックが雰囲気を違って見せた。
「かっこいー……!!」
うっかり零れ出た言葉に、はっと両手で口元を押さえた。無意識にこんなふうに呟いてしまうなんて、わたしってばどれだけ竜士くんに見惚れていたんだろう。だらしない表情をしていなかっただろうか、恥ずかしい。
ふと、わたしがそんなことを口走ったのに竜士くんから何もアクションがないことを不思議に思った。いつもならきっと照れ臭そうに何言っとんねん、なんて笑ってくれるのに。
「竜士くん?」
顔を見上げると、どうやら珍しく空けていたらしい、かけられた声にはっと意識を取り戻した。
「ああ……すまん、なんや?」
「ううん。ぼーっとしてるの、珍しいね」
そう指摘すると竜士くんは気まずそうに視線を泳がせて、じんわりと顔を赤く染めた。
「いや……見惚れてもうてたわ。よう似合うとるな」
「えっ!あ、ありがとう……!えへへ、竜士くんもすごくかっこいいね」
なんだかむず痒い空気にお互い笑い合いながら、どちらともなく自然と入場ゲートへ歩き始めた。