My pretty girlfriend!


※ 柔造×蝮の存在しない世界線です。








「蟒さま!今そこで花巻さまが探されてましたよ」
「そうか、わかった。ありがとうなあ、名前」
「えへへ、いえ!じゃあわたしはこれで失礼します!」

 そう済ませ、にこにこと頬を緩ませながらこちらへ駆けてくるのは他でもない、俺の彼女だ。心なしかその周りには花が舞っているように見え、思わずため息を吐いた。

「柔造〜!見てた?!蟒さまとお話しちゃった!」
「見とった見とった」
「何それ!適当なんだから〜。蟒さま、今日もすっごくかっこいいね……!」
「ほうかほうか」
「も〜〜!」

 話の内容に関心を示さない俺に名前は頬をぷくと膨らませいじけた素振りを見せたが、またすぐに「あのスキンヘッドがたまらない」「目つきが鋭くて素敵」などと語り始めてしまった。

 あんなぁ名前、いじけたいのは俺の方や。

 なんて口に出しかけた言葉を飲み込んで、代わりに再びため息を漏らした。

 名前はこの春に東京支部からここ京都出張所に転勤してきた中一級祓魔師エクソシストだ。任務を共にするうちにお互い惹かれ合い、先月こうして交際を始めたわけなのだが……。

「あとねあとね!さっき和尚さまと偶然会っちゃって!和尚さまってすっごく優しいよねえ」

 そう、名前は歳上ーーもとい中年男性が好きな、所謂"枯れ専"なのだ。
 俺がそれを知ったのはつい最近のことで、付き合い始める前は到底気付きもしなかった。確かに上層部のおっさん、いや男性らと話しているところはよく見かけていたが、ただ仕事熱心なのだとばかり思っていた。
 それが付き合い始めてからは誰と話しただの誰がかっこよかっただの、今のようにしょっちゅう自慢げに伝えてくるのだ。しかし普通、交際している男に他の男がかっこいいなんて話をするだろうか。

(まったく……俺はこいつとほんまに付き合うてるんか?)

 名前の"おじさま語り"に付き合うたびにそう不安になるのだが、外で偶然俺を見つければ必ず駆け寄ってくるからやはり間違いなく交際しているのだろう。だから蟒や和尚様が素敵だと話す彼女に何も言えないでいるのは……惚れた弱みというやつだ。

「ちょっと柔造、聞いてる?」
「ああ、聞いとる聞いとる」

 ほんまは名前のかいらしい表情を見つめるばっかりで何も聞いとらへんかったけど。

「えへへ、実は昨日八百造さまとお茶したんだ」
「お父と?」
「うん!それでね、ここには素敵なおじさまがいっぱいいるけど、やっぱり八百造さまが一番いいな〜って」
「一番……?」
「うん、だってね…………わっ?!」

 俺は落ち着いて話をしようと、名前の顔のすぐ横の壁に手をついて、視線を合わせるように前屈みになった。
 壁に追い詰められた名前は驚いたように目を見開いている。

「じゅ、柔造……?近いよ?」
「そうか?まあ俺ら恋人同士やし問題ないやろ」
「えっ……うん、それはそうなんだけど。いきなりどうしたの?」

 キョトンとこちらを見つめる名前がひどく愛らしくて、俺はほぼ反射的に彼女の小さな唇に薄く口付けた。

「えっ?!な、ど、なになに?!」
「落ち着きい、名前があんまかいらしかったもんでつい、な」
「へ……?!」

 顔を真っ赤に熱らせた名前の頬をそっと撫ぜてやり、再び口付けようかと試みたが、ふと本来の目的から外れていることに気がついた。
 あかん、名前のかわいさに絆されるとこやった。

「ちゃう。こないなこと言いたかったんやない」
「……ええと、違ってたらごめんね。柔造もしかして怒ってる……?」

 恐る恐る問う彼女の愛くるしい上目遣いから目を逸らしながら、コホンとひとつ咳払いをした。

「怒っとるいうか……せやって名前にとっての一番は俺やのうてお父なんやろ?少し腹立っただけや」
「怒ってるじゃん!ていうか勘違いしてるよ、柔造。わたしが一番す……好きなのは、柔造だよ」
「せやけどついさっきお父が一番や言うてたやろ」
「やだ、違うよ!確かに出張所にいるおじさま方の中では八百造さまが特に素敵だなとは思うけど。なんでだと思う?」

 彼女が自分以外の男(仮に父親だとしてもだ)を素敵だという理由なんて考えたくなくて、俺が「わからん」と答えれば彼女は困ったように顔を一層真っ赤にさせ、それはもう林檎のようだった。
 すると羞恥心からかふるふると小さく震えながら、彼女は消え入るような声でこう呟いたのだ。

「だって……八百造さま、柔造にそっくりなんだもん」
「……はあ?」

 想定外の告白に思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。というか、お父が俺に似とるんやのうて俺がお父に似とるんやろ。なんて野暮な言葉は彼女の声の続きを聞くために胸にしまい込んだ。

「今の柔造ももちろんかっこいいし大好きだけど、八百造さまを見てると柔造は将来きっとこんな風になるんだなあって考えちゃって……だから八百造さまとお話できるのがすごく楽しくて……ああもう、恥ずかしい!」

 一気にそれだけ言うと彼女はわっと手で顔を覆い隠した。

「なんや、それ……」

 つまり、嬉しいことに名前はずっと俺のことを考えていたというのに、その裏で俺は父親相手に虚しく嫉妬心を燃やしていたというわけで。ああ、顔が熱くなるのを感じる。
 というか、それにしてもだ。

「なんなんや名前、かいらしすぎるやろ……反則やわ」

 こんなにも俺ばかりを想ってくれているこんなにもかわいい彼女に少しでも腹を立ててしまったことが非常に悔やまれる。そうだ、今度の休みには2人でどこか遠くにでも遊びに出かけよう。
 俺は未だ顔を伏せたままの名前をそのままぎゅうと抱きしめ、髪に口付けを落とした。


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