宿泊スイート?


※メインストーリー3章後編公開前に書いた、中編最終話(13話)のその後の小話です。
※女監督生です。








 ふと目が覚めた。

 頸を撫ぜた風にぶるりと身震いする。いつも窓はきちんと閉めて寝るはずなのに、どこから風なんか入ったんだろう。
 半身を起こし辺りを見回す。薄暗いその部屋はもうすっかり見慣れてしまったオンボロ寮の自室とは全く違うものだった。

 ──そういえばアズールさんとの契約でオンボロ寮を担保に取られて、今夜はレオナさんの部屋をお借りしたんだった。

 隣に敷かれた布団に目を移す。涎を垂らしながらよく眠っているグリムが、わたしの掛け布団まで巻き込んで暖を取っていた。寒くて起きたのはそのせいか。
 取り戻そうと布団の端を掴んで引っ張るけれど、これがびっくりするほど動かない。グリムめ、寝ながらどれほど強い力で握り締めてるんだ。
 諦めてそのまま横になったけれど、再び吹き抜けた風に思わず小さくくしゃみをした。
 ぐっすりと眠るグリムを恨めしく見つめる。残り3日のうちにアトランティカ記念博物館から写真を取ってこないとアズールさんの下僕になってしまうというのに、風邪でも引いたらどうするんだ。
 はあ、とため息を吐けば、不意にギシとベッドのスプリングが軋む音が聞こえた。

「……おい、うるせえ」

 はっとその声の方を振り向く。どうやらレオナさんを起こしてしまったらしい。
 そんなに大きなくしゃみはしていないはずだけど、おやすみ3秒だったレオナさんはおはようも3秒なんだろうか……なんて呑気なことを考えている場合じゃない。部屋を貸してもらえる代わりに、レオナさんの睡眠を妨げたら追い出されるという条件を思い出したのだ。こんな夜中、しかも風が冷たい日に野宿となってはいよいよ身体が保つ気がしない。すぐさま謝ろうとしたけれど、タイミング悪く風立ってまたくしゃみをしてしまった。ああ、おしまいだ。

「……チッ、寒いなら布団くらい被って寝ろ」
「その……そうしてたんですけど、グリムに取られちゃって」

 恐る恐るそう言えば、レオナさんはハア、とため息を吐くだけだった。

「……? あの、追い出さないんですか?」
「あ?追い出されてえのか?」
「いや……!ここに居させてほしいです」
「俺は眠いんだ。今からお前ら草食動物どもの相手なんてダルいことやってられるか」

 眉間に皺を寄せたレオナさんは再び眠るためかベッドに横になりつつ、自身に掛けた布団を片腕で広げてみせた。

「オラ、こっち来い」
「へっ?」

 思わずおかしな声をあげてしまった。こっち……って、レオナさんのベッドに?
 どうすればいいかわからず黙りこくっていれば、そんなわたしの内心を察したらしいレオナさんが「夜通しうるさくされちゃ敵わねえ」と煩わしそうに話した。
 たしかにこのまま布団で寝ても寒いのは変わらないだろうし……。いや、でも、レオナさんと同じベッドで?レオナさんの隣に寝る?
 やっぱりちょっと良くないのではないのだろうかと思いつつ、わたしには他の改善策を提案することはできないし、何よりこうしてモタモタしているとレオナさんをより苛つかせてしまいかねない。大人しくお言葉に甘えることにした。

「えっと……じゃあ、失礼します」
「くれぐれも俺の眠りを妨げるなよ」

 念を押したレオナさんはわたしがベッドに入るや否や寝息を立て始めた。やっぱりおやすみ3秒だ。
 レオナさんのベッドは広いとはいえ、こうして2人並ぶとさすがに距離が近い。すぐそばにレオナさんの顔があるなんて、なんだかすごく不思議な状況だ。
 今まであまりきちんと見たことがなかったけれど、こうして見てみると色の黒い肌や長い睫毛がすごく綺麗で、レオナさんって顔立ちが整っているんだなあ、なんてしみじみと思った。
 そんなふうに考えている間にも幾度か風は吹き抜けていたけれどもう寒いことは全くなくて、わたしは気がつけば深い眠りについていた。


 翌朝、レオナさんを起こしにきたラギーさんに2人同じベッドで寝ているところを見られて散々からかわれることになるのだけど、それはまた別のお話。


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