「可能性…、チームが、勝つために…」

「そう。なまえは何のことを考えて走ってる?」

「え、何って……それは…。」

「自分のソウルのこと? チームが勝つこと?」

「っ…」


何でだろう。チームのためにソウルを出したいと思ってた。…でもそれってつまり前者、…なのかな…。
上手く答えられない。…そんな私に、お兄ちゃんは穏やかな口調で話し続けた。


「ソウルを出せたから、って、必ず勝てるわけじゃないよね。…僕もさ、正直化身はソウルに適わないと思ってたんだけど」

「え…」

「白竜君たちがやってくれたからね。可能性はどこにでもある。あるんだよ、なまえ」


私に何かを伝えようと必死に話してくれるお兄ちゃんに、暖かさを感じた。
可能性…。私がソウルを出せる可能性。…いや、ソウルに頼らなくたって、勝てる可能性?
事実、チームのためと言いながらソウルにこだわってた。今思えば、あの時…瞬木さんや神童さんにパスをだしていれば、ソウルか化身で1点を取ってくれたかもしれないのに。


「さっき、少し聞いちゃった。陸上部11番の彼が言いたかったのは、そういうことじゃないかな」

「え、それって、……瞬木さんとの会話、聞こえてたの!?」

「なまえの声ならどこに居たって(8割ぐらいは)聞き逃さないよ」

「……」


地獄耳……正直ちょっと引いたけど黙っていよう。立っていた場所、あんなに離れていたのに。あんまり大きな声でもなかったのに。ぞっとするよお兄ちゃん…


「だからさ、なまえは全部1人でやろうとしないで、……ってあれ? なまえ?」

「えっ、あぁ、うん…」


いけない。どうでもいいことに気を取られてぼーっとしてた。お兄ちゃんの地獄耳には本当に驚いてるよ。
私はわれに返って、彼の言葉に耳を傾ける。


「10人もフィールドに仲間がいるんだ。なまえ1人が背負うこと、ないよ」

「でも…私はFWなのに…」


ついごちゃごちゃと言い返してしまう私に、別の声が入ってきた。


「フィールドでは、共にゴールを守ってくれる仲間がいる。」

「! 神童さ…」

「点を取るのもまた、同じようにな」


神童さんからこんなことを言ってもらえるなんて。驚いたけど、何より、その言葉が。
フィールドには、共に…点を…。


「あまり、自分が点を入れることにこだわるようなら…、」

「…?」

「お前のことを、これからは「昔の井吹」ってあだ名で呼ぶぞ」

「えぇ!?」


昔の井吹さんって…それあだ名にもなってない気が…、ん、あれ? 真顔で冗談(?)を言われ驚いたけど、それでアジア地区決勝戦の事を思い出した。

〈っ…〜神童、頼む――…ッ!!〉

あの時、井吹さんが神童さんを頼ったのは。

〈そうか…、そうだったんだ! このチームに足りなかったもの、答えは簡単じゃないか…!〉
〈みんなで1つになること、それだけだ!〉

あの時、天馬キャプテンが放った言葉の意味は。

〈何度も言わせるな、強いだけでは勝てないと〉
〈っ強さ以外に何が必要なんですか!?〉

前に、白竜さんが私に伝えたかったことは。

〈だって役たたずなんて居ないよ? このチームにはみんなが必要だから!〉

…いつも天馬キャプテンが、言ってくれていた…あの言葉は…。



「チームって…全員で、1つ、なんですか」


同じユニフォームを着ている人間は、みんなで、1つ? …個人個人が1つ1つの点…じゃなくて? みんなで、1つの円…?

私の自信の無い弱々しい声に、お兄ちゃんがぽんっと肩に手を乗せてくれた。神童さんは「やっと気がついたか」なんてため息を。
2人の微笑が、「正解」と言っていた。

大切、なのは。「私が」点を取ることじゃなくって、アースイレブンという「私のチーム」が点を取ること、…そうなんだ。
そう思うと、何故か心が軽くなった気がした。
そのために、私に何が出来る? 私がすべきことは、何。


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