●なまえ視点
何、話してるんだろう……。
天馬キャプテン、お兄ちゃん、シュウさんに白竜さんの4人がしばらくゴール前でたむろっていた。何を話していたか分からないけど、井吹さんに注意されて各自がやっとポジションに戻る。
…いけない。人の事を気にしている場合じゃない。私は、私は…ソウルを何とかしなきゃ。
お兄ちゃんは一緒に手伝ってくれる、って言ってたけど、ソウルを出すのに一緒も何もあるんだろうか。…いや、あの言葉は本当に嬉しかった。
だけどさ、ソウルって…自分自身の問題、だよね…。
自分が考え込んでいる間に試合が動いていた。ボールを追うどころか、ぼうっとしていたせいでパスを逃してしまう。い、いけない…!
「すいませ…っ」
謝りきる前に、私が逃してしまったボールを瞬木さんが取った。よ、よかった……と思った瞬間に、こちらに向けられる物凄い視線。
う……
「何やってんだよ」
すみません、と謝るのも申し訳なくなるような、キツイ視線。私は「気をつけます」と小さく謝る事しか出来なかった。
するとこんな事を言われた。
「なんでお前って、いつも自分の事しか考えてないんだよ」
「なっ…」
それは瞬木さんに言われたくない。言われたくなかった。チームのために私はソウル出したいのに。
「私はチームの事を考えて…!」
「お前にソウル出してもらいたいのはお前だけじゃねーんだってば!」
「!」
みんな待ってんだよ、と続ける瞬木さん。…あれ、…ひょっとして励まされてる?
「下向いてないで、とにかく動けよ」
「っ、」
そんなに、俯いていただろうか。気がつかなかった。ぼうっとしていたのは反省する。
「…頑張ります」
小さな声でそう伝えて、私は前線に走っていった。
「馬鹿め…」
瞬木さんがそんな事を呟いたのも、露知らず。
*****
一進一退という言葉が相応しい。攻めたり攻められたり。中々得点に繋がらない中、こんな状況で私にパスが回ってきた。
どうしよう私が決めるべきだよね…座名九郎さんだってせっかくスタメン譲ってくれたんだから、このぐらい…チームに貢献したい…!!
「クレセント!!」
渾身のシュートだった、けれどホーリーロードで決勝戦を戦った千宮路さんには歯が立たない。
「シュートブレイク!」
いとも容易く、私の全力は止められてしまった。
「っ…、」
入らない、か。こんなもんじゃまだまだ、だな。もっと…
実力者との差を思い知らされて、軽く舌を鳴らす。そんな私の舌打ちは気にせず、天馬キャプテンが後ろから声をかけてくれた。
「惜しかったよ! 次は行ける!」
「天馬キャプテン…」
ー…惜しかった、かな。今の…。
…っていけない、好きな人の言葉すら疑いかけていた。あぁもうシャキっとしよう自分!
ぶんぶんと首をふっていたら、今度は前から声がかかった。
「中々いいシュートだったぞ、妹」
「え、」
ドヤ顔でシュートを止めた千宮路さんだった。
「あ、ありがとうございます。」
千宮路さんからそう言ってもらえるとは予想外で、ちょっと緊張した。ていうかなんで私って妹って言われてるんだろう…確かに妹だけど、ちゃんとなまえって名前が……まぁいっか。
ただ、本来なら勝負どころのシュートシーンでも、彼は化身を発動させなかった。そう、必殺技だけで私のシュートを取れる自信があったんだ。
そりゃぁ…そうだろうけど…。せめて私にソウルが出せたら。出せたらきっと。
なんて思いながらも、軽く頭を下げお礼を言って、キックオフの位置まで戻る。
とその時、自陣ゴールの方から大きな声が響いて肩が跳ねた。
「なまえー!!」
「っ!? い…井吹さん?」
なんだろう。今日はやけに人から話しかけられるな。
ていうか井吹さん…そういえばあんまり話したことなかったうえにラトニークでのオウンゴールが頭をよぎる。
うわぁ何言われるんだろう! 何言われたって私に原因があるんだけどちょっと怖い。
内心びくびくしながら、緊張して後ろを振り向くと、彼から叫ばれたのは予想外の言葉だった。
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