翌日、私は深呼吸でもしてこようと思って外に出た。あまり眠れなくて気分が悪かったから、新鮮な空気を吸いたいなーなんて。
ラトニークは空気が新鮮だ。排気ガス以前に自動車すら見かけないし。
辺り一面が緑。そんな世界に居ると、命を感じるっていうか、気持ちが安らぐ。酸素っていいなぁ…。


「あ、れ…」


大きく伸びをしていたら、ふと視界に「それ」が映った。…あぁ。あれは昨日の…。


「マドワシソウ…、」


昨日のマドワシソウ。もう紫色が滲んで、とっくに生気は感じなかった。


「ごめん、ね」


小さく呟いたってもう誰にも届きはしない。
この植物だって自分の子供を育てるために、精一杯生きてた。それを分かってるバンダさんが1番辛かったと思う。襲われておいて何言ってんだとは思うけど、申し訳なくなった。
…こんなにしちゃって、ごめんねって。もう1度口に出す。
ラトニークにいると、いつもの数倍、生について感じさせられる。みんな同じ「生きてる」んだなぁ…って…どんな生き物だって、同じ。
ぐちゃぐちゃに折れてしまったマドワシソウに、自分の愚かさを痛感させられた。
どうして騙されたんだろう。もう解決したはずだったのにな。自分って思ってる以上に脆いものだ、あんな簡単に騙される、なんて。


「ん? なまえか?」


マドワシソウの方ばっか見ていたら後ろから声をかけられた。


「九坂さん?」


珍しい。そういえばあまり話したこと無かったような。


「何だか眠れなくってよー…」

「…ですよね」


頭を掻きながら、こちらに歩み寄って来て私の隣に並んだ。2人でマドワシソウを見つめる。
九坂さんは小さく呟いた。


「…が、…ければ、俺は…。」

「?」

「いや。バンダが居なければ、俺はこいつに食われてたんだよなって。考えたら、情けなくてよ」

「九坂さん…」


情けない、か。九坂さんはそんなことないと思うけれど、でも、そっか。私と同じなんだ。
九坂さんもまだソウルを―…。


「ソウル、どうやったら出るんでしょうか」


足元の、植物の残骸を見ながら話してみた。九坂さんも項垂れていた。


「さあなぁ……やっぱり俺は皆より劣ってんのか…」

「それを言うなら私だって…」

「いやお前はそんなことねぇよー」

「いやいや九坂さんこそ劣ってませんって」


って何言い合ってるんだろ…。
こほん、と小さく咳払いをしてここでようやく九坂さんを見る。そして気がついた、かなりしゅんとしているこの人。らしくない。皮肉じゃなくて、本当に不良には見えない。それほどヘコんでる。
私もこんなふうに落ち込んでたのかな。
確かに心配になる。みんなに心配させちゃ悪いな、あまり落ち込んでる素振り見せないように気を付けよう。


「九坂さん、昨日はオーラ出てましたもん。きっともうすぐ出せますよ!」

「そうか? だといいよな、…ってかなまえこそ、サンドリアスの時ぐらいに前兆でたって言ってなかったか?」

「……。」

(しまった地雷だったかこれ)


結構、前の話だ。初めてソウルの力を掴んだと思った。だけど今の今まで私にはなんの変化もなかった。強いて言うならソウルと会話できるようになったことぐらい。笑えない。使えない。嬉しくない。
ダメだなぁ…。
なんてまた溜息をつきそうになって、慌てて飲み込んだ。いけないいけない、チームの皆さんは優しいからため息の1つなんて、そんな些細なことすら心配してくれる、かもしれない。
これ以上余計な気を使わせたくはないな。


「とっとにかく、お互い頑張りましょうね!」

「あぁ、そうだな!」


元気を装った。九坂さんはぐっと拳を作って笑顔だった。たぶん、作り笑顔だったと思う。私もちゃんと笑えていたかどうかわからない。
ただ、落ち込んでいてもしょうがないから嘘でも前を向こうって思ったんだ。そうやってくうちに、本当に成功するかもしれないし。分からないけど。

『お前などに出来るものか』

だから、自分の中に眠る獣のそんな呟きも、聞こえないフリをした。


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