「天馬キャプテン!! みなさん…っ、」


声を頼りに行き着いたその場所で、私は信じられない光景を目の当たりにした。
…いや、信じられない、っていうよりも、信じたくない、の方が正しい。
だって5対5のミニゲームで、天馬キャプテン達がぼろぼろになってしまっていたから。


「みなさ…」

「なまえ!? 来ちゃダメだ!!」

「えっ、」


そう叫ばれた時には、もう既に自分よりも頭2つ分以上大きい人たちに囲まれてしまっていた。


「なんのつもりですか……、」


私も私で構えるけど、両サイドから囲まれちゃってるから何の意味もないんだろう。天馬キャプテンや葵さんが私の名前を叫ぶぐらいにはこっちのほうが不利だ。
…天馬キャプテン達の怪我の様子からして、この人たちの目的は歴然としている。


「こういうの不正行為、って言って…厳重に処罰されると思いますけど……」


恐る恐る、でも、隙は見せないように。
言ってやると、彼らはニタリと不敵な笑みを浮かべた。


「お前たちの星では、な」

「!!」


言われてようやく気がつく。そうだ、ここは自分たちが住んでいる星とは全く違う、異星なんだ。自分たちの「当たり前」が通じるはずがない。
この人たちが私に何をするつもりか分からないけど、とりあえず葵さん同様逃がしてはくれないだろう。
……だったら。


「私もあのゲームに出たいです。そこを通してください。」

「なまえ!?」


みんなの視線を感じつつ、私は真剣に言ってみた。そもそもこのユニフォームを着てる時点で、私にだってその権利はあるはず。
すると、サンドリアスの人達は面白そうに天馬キャプテンらを指差して言った。


「あいつらでもあんななっちゃってんだぜ? あんたみたいなのが出ても変わんないだろ」

「なめてもらっちゃ困ります…、」

「……ふん。面白いじゃねーの、まとめて潰してやろうぜ」


潰してやる、か。(「潰す」のレベルが違うにしろ、)白竜さんにも言われた事あったけど、私、今も潰れてはいないし。なんとかなるんじゃないかな。

意外とあっさりとそこを通してもらうと、真っ直ぐにフィールドへ。
けれどすぐに天馬キャプテンがこちらに走り寄ってきて、強い声でこう言ったんだ。


「なまえは葵と見てて。すぐ1点取って終わらせるから。」

「でも、みなさん怪我、」

「大丈夫だから! 試合は明日なんだ、これ以上みんなを巻き込むわけには行かない…!」


って。両肩に乗せられた手にも力がこもっていたけれど、でも、天馬キャプテン……そんな怪我して言っても、説得力、無いです。


「出してください。何でもいい、チームの役に立ちたい…!」

「だったら明日に備えるんだ、」

「1点取れば終わるんでしょう? 私、きっと取れます。元気な人がすぐとって終わりにしたほうがいいじゃないですか!」

「…っ、なまえ……あの柱が見えるよね。」


天馬キャプテンが目線で促した方を見ると、周りに比べ1本だけ折れてしまっている柱がある。
コンクリート…? とにかく硬そうだ。はらりと今も破片が落ちているから、さっき壊れたばっかりなのかな。
それがどうしたんですか、って聞くと、天馬キャプテンは。


「サンドリアス人が頭で壊したんだ……。」

「っえ…!?」


頭で壊した、って、う、嘘。そういえばオズロックさん言ってたっけ、過酷な環境で進化したサンドリアス人はどうのこうの。
それから天馬キャプテンの声のトーンが低くなって、事の重さが伝わってきた。


「こんな危険な試合になまえを出すわけには行かない。ねぇ、すぐ終わるから待ってて!」

「っイヤです、だったら尚更イヤです!!」

「なまえ…、」


わがままだとは思う。だけど、


「私だってアースイレブンの一員じゃないですか!! 仲間が傷ついてくの黙って見てるなんて、そんなの嫌です…!!」


天馬キャプテンの真剣さに、私も同じくらい、いや、それ以上に真剣に、熱心に。
必死に言えば、天馬キャプテンは少し悩む。


「……けど…、本当にすぐ俺たちで、」

「いいんじゃない、天馬。なまえちゃんならきっとやってくれる。」

「葵…、」


ここで声をかけてくれたのが葵さん。彼女も同じく真剣だった。


「状況を変えなきゃ何も変わらないわ」

「葵さん…」

「けど絶対ムリはしちゃだめ。絶対だから、ね?」

「はい!」


葵さんの許可が降りればもう天馬キャプテンに許してもらったも同然。…と思う。
天馬キャプテンはあまり納得していなかったけど、葵さんの指示で1番重症の九坂さんと交代。…お腹、痛そう……真正面から攻撃喰らっちゃったんだろうな。

試合と違ってミニゲームは5対5で気軽って言ったらそうだけど―…その怖さは、正式な制限時間がないところ。両者が納得するまで終われない。それがミニゲーム。
この場合は1点を取るまで―…。

キックオフの際、瞬木さんにこっそりお願いをした。


「お願いします、ボールを私に集めてください」

「…それは俺たちをかばうため?」

「っ、?」

「あーいや、わかったけど…本気で気をつけろよ。当たれば骨折じゃ済まないから」

「瞬木さんは大丈夫なんですか……」

「男は丈夫なんだよ」


あ、今、軽蔑した。したでしょ。
それとその質問はどういう意味なんだろう。みなさんをかばうため以外に自分にボールを集める理由。
……多少は、ある。チームの役に立つために、目立ちたいとか。
でも今はそんなことを考える余裕はなくって、


「行くぞ!」

「っあ、れ…」


さっそくパスをもらったものの、…なんか、軽くない? ボールも自分自身も軽い。……すごく、簡単に動ける。
不思議に思っていると、後ろから信助さんの声が響いた。


「なまえちゃん! この星は地球より重力が弱いんだ!」

「そっか、だから……。分かりました!」


なるほど重力。まだ勉強してないけど体感できてすぐにわかる。
足元にボールがあると尚更速く走れる気がして、調子に乗れた。


「なまえ…? 速、い…」

「環境の変化に対応してる…どころか利用してんのか! すげぇな…!」

「今来たばっかだろ? もうそんなことできんのかよ…」


皆さんが驚くぐらいにはスピードが出ているらしい。
……あぁ、なんだか。気持ちがいい。こんなに速く風を切ったのは人生で初めてだ。
すり抜ける風を感じながら、相手のDFも難なく突破。
あれ? 私、結構できるんじゃない?


「クレセント!」


失敗しないように、全身全霊を込めてその技を蹴り込む。
―…さぁ見せてよ。私の技がどれだけ宇宙で通用するのか。
蹴った直後からボールがGKの手に触れる瞬間まで、緊張が走る。心臓の音がやけに大きく聞こえるその瞬間、勝ったのは……


「うわぁぁッ」

「はい、った……やった、得点成功ですね!」


やった。できた。何だかすっごく調子がいい。
そして、得点に成功するといつも必ず1番に駆け寄ってきてくれる人がいて。頑張りたくもなっちゃうよね。


「なまえ…! すごいよ、なまえが入ってくれて正解だったみたいだな」

「よかった…、ありがとうございます。」


ほっと一息。さっきわがまま言ったかな、って、試合終わったら謝ろうと思ってたけど、怒っていないようで良かった。
嫌われたくない、って気持ちよりも、守りたいって気持ちが先に出てきてしまってたから。

とりあえずこれで帰れるはず―……なんだけど、どうにもサンドリアスの方々は顔が重い。


「負けたまま終わってられるか……!」

「っ、」


そう言って強くこちらを睨みつけてくる。


「ここでお前たちを潰せば、地球代表は大会に出場できない……どんな手を使ってでも潰す!」

「っやっぱり最初からそのつもりで…!」

「私たちの星は私たちが守る! 自分たちのやり方でね!!」


言ったと同時に彼らは全力で、それも3人係でこっちに突っ込んで、来る。とたんに天馬キャプテンや私の名前を叫ぶチームメイトの声が耳の中で混ざる。
本能から思わず目をつぶった時、隣にいたはずの人が目の前に動いたような、そんな気配がした。


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