「後はお前たちが決めることだ。」
そう言うと、豪炎寺さんたちの説明が終わった。
……獣。俺たちの中に眠る、大きな力……。混乱でいっぱいのその場で、1人だけギラギラと目を光らせている人がいた。なまえだ。
決勝に出れなかったのがよほど悔しかったんだと思う。
自分の中に可能性が眠っていると監督に言われ、今にも動き出しそうなぐらいにうずうずしてるのがよくわかる。
一方で神童さんが冷静に話しかけてきた。
「今度の戦いはこれまでと背負う物の重みが違う。地球の未来がかかっている…、」
「地球の……未来…。」
「負けることが絶対に許されない戦いだ。…どうする、天馬。」
自分の中で、答えは見えている。みんなが自分の言葉を待っているのを感じて、俺は立ち上がった。
「サッカーで地球を救えるなら、俺たちのサッカーが地球の希望になるなら! 行くしかないよ、宇宙へ!!」
もうその意思は変わらない。
大規模過ぎてまだ理解できてないところもある。不安もある。けど、ここにいられることを俺は嬉しく思うんだ。
地球の運命を背負ってみんなでここにいられること。かしこまった言い方をすれば、「光栄」だ。
だからこそもっと先にも行ってみたいって思う。……みんなで。
「ここで俺が、何とかなるさって言ってもみんなの不安は無くならないと思う」
「天馬キャプテン……、」
「でも俺は、みんなと一緒になんとかする道を探したい。」
だってそうやってここまで来たんだから。いくら状況が変わったとしても、これからだって―…きっと。
そう言ってもみんなの不安そうな目は相変わらず。ここで黒岩監督が話す。
「お前たちに求められるのは、勝利し続けることだ。」
勝利し続けること。負けることが許されない。それは、今までだって同じだったはず。
いくら重みが違ったって勝利を求められるのは、代表として「当たり前のこと」。
俺が頷くと、今度は神童さんが黒岩監督に言う。
「しかし…。たったこれだけのメンバーで、地球を救えというのですか…?」
「いや。これだけではない」
「では補充メンバーがいると?」
「そ、それって…、」
誰、と聞く前に開かれる扉。そこには、
「円堂さん…!? もしかして、補充メンバーって円堂さんですか!?」
「え、いや俺じゃぁない、」
違うんだ。でも久しぶりに円堂さんの顔を見たらそれだけで元気づけられる気がする。さすが円堂さん!
そこにいるだけでみんなの雰囲気変えちゃうもんなぁ…俺もいつかこんなキャプテンになれたら、なんて思ったり。
すると、円堂さんの後ろにもう1人いるのに気がついた。
「お前たちの仲間に加わるのは…こいつだ」
…あ、れ。どっかで。見たことあるなって思ったらその人は自己紹介をする。
「私は、市川座名九郎と申します。皆様と一緒にサッカーをやらせていただくことになりました。」
それから礼儀正しい挨拶をする彼、どっかで……やっぱりどっかで見たことがある。どこだっけ。
思い出せないってことはそれほど自分の中で重要じゃ無かった、ってことなのかな。…そんなはずはないと思うんだけど……うーん。
「彼は一体…、」
聞いてみれば、答えたのは皆帆。
「市川座名九郎。歌舞伎の名門、市川家の人間…中学生ながら、ものすごく活躍している歌舞伎役者だよ。」
「えぇ!? 歌舞伎役者!?」
なんでまたサッカーに。あぁでもバスケ選手でも陸上でもボクシングでも新体操でも(以下略)ここまでサッカー上手くなれるし監督が選んだって言うなら…まぁいいんだけど……驚きが隠せない。
「歌舞伎役者ってマジかよ…!?」
「まさかこんなところで会えるなんてねー」
みんなも驚き半分嬉しさ半分。たぶん有名人に会えたって意味で後者のほうが強いかもしれない。
そんな中、彼、座名九郎は相変わらず礼儀正しくお辞儀をした。
「歌舞伎役者とは言っても…私如き、名も無き小市民ですから。」
いや、正確には名前はあるのですけど。なんて。
そのセリフに俺はつま先から鳥肌が立った。デシャヴ…!! あー思い出した。思い出したよ。
200年後の未来に行った時のあいつだ。あいつに似てる。
監獄から逃げ出したっていうけど、礼儀正しい座名九郎とは全然違うから中々思い出せなかった。
ここまで似ているとなると祖先……?
先祖代々このセリフが受け継がれてきたのだと思うとそれはそれで怖いけど、まぁ、血が繋がってるなら似てるのもうなずける。
…全然関係ないけど、200年後の未来には俺にそっくりの子もいたし。
もしもあの子が俺の祖先だとしたら、俺は結婚して子供産んでるってことに……誰と!? 聞いておけばよかった! それどころじゃなかったから仕方ないけど!
ここで後ろを振り返りそうになったのは、なまえを見ようとしたわけじゃない。きっと。
あぁでも祖先じゃなくって生まれ変わり、って可能性も……。
だとしたら俺、生まれ変わった姿で世界征服しようとして前世の自分に止められるの? すっごい複雑。
まぁこんな事考えるぐらいには状況がまだ理解できていないのかもしれない。けど、とりあえず。
俺達が世界を、地球を救えるっていうことだよね。
自分にそれが出来るなら、実感はないけど…やれるだけのことはやりたい。大好きな、サッカーで。
挨拶を済ませると、九坂や他の人と絡んだりしてとっても好印象の座名九郎。
なんでも彼にも獣の力が眠っているらしい。
とりあえず新メンバーだし、力を試してみようってことで、いつの間にか雨も止んでいたことだし俺たちはグラウンドに出た。
*****
「百聞は一見にしかず、お見せいたしましょう。…よろしくお願いいたします」
鉄角とさくら2人を相手に、座名九郎は華麗なボールさばきを見せつけてくれる。
す、すごい。さすが円堂さんの特訓に耐えただけある。
……って言ったら、そう言うと思いましたよって言われて俺はまた鳥肌。あ、あぁ、そのセリフも遺伝……いやなんでもない。もう気にしない。
「この13人で戦うんだ…!」
まだ、超えるべきものは超えてないかもしれない。けど実力は揃ったはずだ。
それでも未だみんなの不安は消えていないようだった。
「俺たちにやり遂げられるのか? 絶対に負けられないんだよな…」
「地球の運命が、俺たちの手にかかってるって…」
「荷が重すぎんだろー…」
いつも強気な井吹、それに瞬木や鉄角まで。
「みんな…、」
なんとか。まとめられないかな、どうすれば。俺はキャプテンとして、どうすればみんなの不安を取り除ける?
考えていたら先に言葉を発したのは円堂さん。
「なぁ、お前たち。サッカーは好きか!」
そんな言葉に、みんなは思い思いのことを話す。
楽しいと思うようになったとか。夢中になれるものを見つけたとか、理論を出せば必ず答えに…どうのこうの、ごめん。難しくてよく分からなかった。
けど、
「それってサッカーを好きになった、ってことだよね。」
「!」
尋ねてみれば、さくらや鉄角たちは顔を見合わせる。
そこに円堂さんの満面の笑み。
「大切なのは、サッカーがどれだけ好きかって気持ちと、必ず勝つっていう気迫だ。」
それから自分の胸に手を当て、今までの試合を見ててここで感じた、と円堂さん。
「お前たちは誰よりもその思いが強い! どんな困難でも必ず乗り越えられる! 絶対地球を救うことができるさ。」
そのすごい説得力に、あぁ円堂さんだなぁって、久しぶりの円堂さんだなぁって思ってしまった。
憧れてる人にさ、お前ならできるーって言われるのってすごく嬉しい。嬉しいと同時に、心の底から勇気が湧いてくる感じ。
今なら何でもできそうだ。
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