あぁ〜…天馬キャプテンに笑われてしまった。クスって。そんな笑い方にもドキドキしてしまったわけだけど。
何だかんだ言ってどこか照れくさそうなそんな彼も素敵だったけど、……て違う!
これからはボールに集中して、あまり天馬キャプテンのことを見ないようにしようと心に決心。あぁもう恥ずかしいなぁ…。

それにしても昨日は不思議なことが起きたな、なんて思い返す。…新必殺技。
クレセントならむしろ十八番ぐらいに思っているけれど、他にもう1つや2つあってもいいと思っている。
それに「FWはシュート技の他にドリブル技も覚えているといいよ!」ってお兄ちゃんも言っていたし。ところでどうしてそれを剣城さんには言わなかったんだろう。いや、今はそんなこといいんだ、とにかく私の新必殺技を…!!
なんてごちゃごちゃ考えながらも練習。

すると好葉さんが急にこっちに駆け寄ってきたものだからびっくりしてみれば、その先には…


「九坂さん…、」


思い切り避けられている。(思わずとはいえ)イラつくーなんて言っちゃったもんだから、ずっと昨日からこんな調子。
ただ……、


「……可愛い…」

「へぇっ!?」


私を盾にして、後ろ足に捕まって隠れる好葉さんが可愛いのだ。ホントに。
しゃがみこんでノリのまま頬を人差し指で触ると、とっても柔らかい。ほっぺ柔らかい…!! ほんっとに柔ら(以下略)
気にせずツンツンしていると好葉さんはくすぐったそう。


「あ、あまりツンツンしないでーっ!」

「ツンツンとか可愛い…! 妹に欲しいです…」

「妹はお前だろ」

「というかなまえちゃん、森村さんはマスコットじゃないって」

「そうです、遊んじゃいけませんよ」

「す、すいませんつい」


あまりにも可愛いもんだからそっちに集中していたら、隣で練習していた剣城さん、皆帆さん、真名部さんにツッコミを入れられてしまった。
だ、だって可愛いんだもん。なんというかマイナスイオンを放っている気すらしてくる。
好葉さんと言えばちょっと困ったような顔していたけれど、嫌ってわけでもないらしく逃げたりはしなかった。
…私たちからは。




*****

好葉さんが思い切り九坂さんを避けている。
それがチームメイトに知れ渡った頃、好葉さんと九坂さん仲直り作戦が実行された。
本当に仲直りして欲しいのと(実は面白半分もあって)天馬キャプテンとその様子を伺っていたのだけれど…、頭脳派組が手を凝らしても失敗に終わる始末。

結局夕方になりみんなが諦めて宿舎に戻る中、天馬キャプテンだけはグラウンドに残っていた。そんな彼を見て、食堂に向かうはずだった私の足もUターン。
誰も居なくなった静かなグラウンドで、考え込むようにリフティングをする天馬キャプテンに話しかけると、重たげな顔が上がった。


「なまえ……。九坂と好葉、どうしたらいいかなぁ」


やっぱり2人のことが気になるみたいで。確かにこのままじゃ何かイヤだけど……、


「本当、天馬キャプテンは皆のこと心配してるんですね」


なんて言ってしまえば、彼は平然とした顔で「キャプテンだしね、」なんて。


「私だけじゃないんだよね」

「っ、?」


小さく呟いた言葉は、どうやら天馬キャプテンには聞こえなかったみたいで。
ていうか聞かれなくてよかった。もう本当、勝手に口が動くものだから…つい、って怖い。
…みんなに優しいとか、深く関わってくれるとか心配してくれるとか。自分だけじゃないって分かってるけど、どこかちょっと気になって。
でもやっぱりそういうところも含めて好きなわけであって…えっと、つまりこの気持ちは隠しようがないわけであり。
隠し通したいのに、どこか気がついてもらいたいような感じがする今日この頃。
そんな思考を断ち切って、私は提案をする。


「あ、あの、私もちょっと策を考えてみたのですが…、」

「え、なになに!?」


話に食いついてくれるのをいいことに、私は作戦内容を話し始めた。

その1、私と好葉さんが一緒に食堂でご飯を食べる
その2、そこに九坂さんと(カモフラージュで)さくらさんが同じテーブルに着く
その3、さりげなく謝る

という至って単純なもの。


「ちょうど夕食の時間なので、どうかなぁ〜と…」

「うん、いいよ! やれることなんでもやろう!」


天馬キャプテンが喜んでくれたから、それだけで嬉しかった。





*****

「好葉さん、一緒に食べていいですか?」


作戦その1を決行、…すると好葉さんは小さく頷いてくれた。よし。
それから、ウサギは耳がタレてる派だとか、馬は白いのが好きだとかそんな他愛ない話をしていると、作戦2が順調に進んでくる。


「好葉、なまえ〜、ここで食べていい?」

「えッ」


さくらさんというよりも、その後ろにいる九坂さんに対して過敏なほど反応する好葉さん。フォーク落としちゃってるし。
その様子を遠目で見つめる天馬キャプテン。
何かを察したのか、みんな違う会話をしながらも何となくこっちに視線が集まってる。
九坂さん1人だったら断ったんだろうけれど、さくらさんも居るもんだから悪いと思ったんだろう、好葉さんは特に何も言わなかった。
わ、私がフォローすべきだね、うん。


「っじゃ、じゃぁ4人で食べましょうか!!」





*****

なんかさくらさんと私しか喋ってない気がする。これでいいのだろうか。
問題の九坂さんは本当に思いつめたような顔で食事してるし。顔上げてもう謝っちゃえよ! と、じれったくなるぐらい。
さくらさんもその思いは同じようで、ひと言話し終えるたびに隣の九坂さんを小突いていた。バレる、それバレるよ好葉さんに。わざとらしいよ。
そんなことを考えていたらやっと九坂さんの顔が上がる。
よし…!! と思ったら今度は隣の席の子が立ち上が……え。


「あのっ…ごちそうさま」

「えぇ好葉さん、全然食べてないじゃ」

「それじゃ、お、おやすみなさい!」


走って自室へ行ってしまった。
その背中を見ながら九坂さんは声にならない声でうなだれる。
さくらさんと言えば残念そうに苦笑していた。私も思わず頬杖をしてしまう。
好葉さんが扉を出てしまうと、みんながしーんとなった。


「もうちょっとだったのにねー…」

「やっぱりこの問題は難問ですよ」

「僕や真名部君すらできなかったからね〜…」

「中々手ごわい、です」


みんながっかりモードだったけれど、その中でも九坂さんの落ち込みようといったら半端なかった。もう見るからに負のオーラが出てる。
むしろ怒髪天モード?、とかいうマジギレした時の前兆みたいになってる。悪い意味で怖いですよ九坂さん。
するとここで、そんなみんなを励ますように天馬キャプテンが立ち上がった。


「まぁまぁ九坂! きっといつかは仲直りできるって!」

「お前が「いつか」、なんて使う日が来るとはな…」

「あは……」


神童さんや天馬キャプテンすら苦笑だ。
早く仲直りしてほしいな。ほんのちょっとの事だとは思う、きっと。


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