「すみませんでした…!」
「え…?」
「勝手なことばっか言って、好葉さん傷つけてしまって…本っ当にごめんなさい!」
どこか泣きそうな顔で、ばっと頭を下げるなまえ。
とにかく気持ちを伝えたかったのか、その後にたくさん言葉が続いた。
「でも私、ただ好葉さんとサッカーやりたいだけなんです! 何でいきなりこんな事いうのかっていうと、イナズマジャパンの人たちは集められたメンバーなんだなって今更気がつき始めたから…!! 誰1人、いなくなっちゃダメなんです! 誰かいなくなったらそれはイナズマジャパンって言えないと思うんです!! だからっその…その、一緒に頑張っていきたいです!!」
「なまえ、ちゃん…」
「えっと、だから…自分には無理、とか、そんな悲しいこと言わないで…っ」
すごい早口だったけど、それほど好葉の事心配していた証拠だと思う。
なまえの思いは伝わったのか、もう好葉に怯えてる様子は無かった。
それからきゅっと口を閉じて頭を下げ続けるなまえに、好葉は遠慮気味に話す。
「あ、あの…なまえちゃんのせいじゃ、ないから…」
「っでも、」
「ウチが役立たずなのは本当だし…」
「そなことは、」
なんとか好葉をフォローしようとするなまえだけど、好葉が謙虚すぎるせいか少し困っている様子。
俺もその隣に腰を下ろして、少しうさぎに触れてみることにした。
「動物ってホント可愛いよね〜」
なんて俺が急に呟くものだから、2人の視線をちょっと感じる。
え、何その「意外…」みたいな冷たい目線は。俺だって動物好きだよ!?
「俺の家にもサスケっていう犬がいてさぁー」
それからちょっとサスケについて語ってみた。俺が5歳の頃は子犬だったあいつも、今じゃ立派な老犬。…でもドリブルの相手はたまにしてくれるけどね!
なーんてしばらく語ると、好葉はまた1匹うさぎを抱いて、ポツリ。
「ウチは違う……、」
そんなセリフに聞き覚えがあるのか、なまえの表情が強ばった。
「よかったら話してくれない、かな。今まで何があったか…。」
キャプテンとしてチームのみんなのことを知っておきたい、そう伝えると、好葉は何か言おうとしてやっぱりためらう。
それを見て、なまえがそっと立ち上がろうとする。気を使ったのかもしれない。
更にそんななまえを見て、好葉は慌ててなまえを引き止めた。
「あ、あの…話し、ます。」
「! 聞かせてもらってもいいんですか…?」
恐る恐る尋ねるなまえに、好葉はうんうんと精一杯縦に頷いた。
「ウチを見ているとイラつく、って、みんなが言うんです……。」
それから好葉の口から語られることは、俺の思っていた以上に深刻だった。
なまえも俺と同感だったらしく、特に言い返すでもうなずくでもなくたまに相槌をうつくらいだ。
聞く話によると、好葉は今まで周りにいじめ、られて―……
…それならば、「女の子を怖がっている」と伝えてくれた水川さんの情報の意味も分かる気がする。
「キャプテン達もやっぱり、ウチを見るとそうですか…、?」
「そんなわけ無いだろ…っ」
「でも。ウチの顔はね、」
みんなをイラつかせる、って。前に好葉をいじめてた子が言ったみたいだ、イラつかせるお前が悪いんだ、って。…そんなのあんまりじゃないか。
「っ俺もチームの中の誰も、好葉を見てそんなこと思うやつなんて居ない…!」
そう俺が断言しても、好葉は下を向いたまま。
「なんで監督がウチを選んだのか、今でも分からない…っ」
それから顔を膝に埋めてしまう好葉に、なんて声をかければいいか迷ってしまった。
なまえの時も思った。みんな、なにか辛い過去があるんだって。
でも例え1人じゃダメでもみんなでなら超えられるはずだから、どうかチームメイトを信じて欲しいな、って。
そんな時、ふとなまえが視線を上げたのが気配でわかる。
何だろうと俺も顔を上げる、と。
「なぁ、ぐたぐた言ってねぇで俺たちを信じろよ!」
ベンチで座っていたはずの九坂が、しびれを切らしたのか好葉を励ましに来た。
*****
“イラつく。”
そんな、うっかり言ってしまった九坂の言葉が、好葉の傷を抉ってしまった。
「やっちまった、か……。」
九坂がそう呟く頃には虚しく、もう好葉の姿は見えない。
その後を1番で追ったはずのなまえには、入園口付近で追いついてしまった。
「なまえ、好葉は、」
「それがこの人ごみで……」
あいにく動物園は大盛況。ここらでは珍しい無料動物園だから、子供や家族連れがたくさん集まって、身長の小さい好葉を探すのは厳しいものがあった。
「私、もう1度話してくる…!」
「私も行きます」
「…うん、皆でまた探そう。」
その一方で、頭脳派組がFFIV2における「とんでもない事」に気がついてしまったなんて露知らず、俺たちはまた好葉を探すために街中を走り回った。
*****
「いた…っ好葉ちゃん!」
「森村ぁ!」
好葉を見つけたのは歩道橋の上でだった。
下を歩く好葉の所に行こうとしたところ、その対向車線で猫を発見する。
…何気ない、ように見えたんだけど。
「あ、の……なんかヤバくないですか、あの猫さん、」
「だよね…!?」
信号が赤から青に変わろうとしてるその瞬間、猫が好葉の方に向かって横断を始めてしまったのだ。
それに気がついた好葉も、猫を守るために飛び出す。…横からトラックが来ているにも関わらず、に。
マズいと思ったものの、あまりの緊急事態に身動きがとれない俺たち。そんな俺らを他所に、隣に居たはずのなまえが、好葉と猫を守るためにいつの間にか全速力で歩道橋を駆け下りていた。
け、ど……
「あぁっ間に合わないッ」
葵が叫ぶ。目を塞ぎたくなるような光景をただ見ることしかできない、俺。
「ダメ、だ…っなまえ!!」
つい咄嗟に叫んだ言葉が、何故か好葉でも猫のことでもなく彼女の名前だったのは何でだろう、俺にもわからないけれど。
頭の思考回路が止まりそうになった、そんな時、2つの奇跡が重なった。
―…猫をかばった好葉、その好葉を猫ごと抱えて道路に突っ込んだなまえは、何か突風のようなものを起こし対向車線へと飛ぶ。そこにもう1段階強い風が後押しし、2人と1匹が歩道側へと転がり込んだ。
わずか2、3、秒の出来事だ。
多少カスリ傷は出来たかもしれないけれど、トラックに跳ねられることがなくて心から息をつく。
「なまえ! 好葉!」
九坂と葵と、大慌てで歩道橋から降りて2人の元に向かう。
猫を逃がした後、彼女達も自分で自分に驚いている、そんな感じだった。
「ねぇ、今の、なまえちゃん……?」
そんな葵の問いに、なまえはふるふると首を振る。
「確かに助走は私が起こした風だったかも、だけど……命を救ってくれたアレは、」
そう言って好葉を見つめるなまえ。
好葉自身も驚いているようで、むしろ状況がよくわかってないみたいだった。
「とにもかくにも! 2人…と、猫! 皆が無事で良かったよー…」
ほっと安堵の息を漏らすと、葵や九坂も頷いた。
それから葵が好葉の悩みに気がつけなかったことを謝ると、またなまえも謝ったりして。
更に、やっぱりまだチームに留まって欲しい、となまえ、九坂、葵、俺、と4人係で頼めば好葉は迷っているようだった。
そんな彼女に、なまえは少しためらいながらも、ゆっくり好葉に話し始める。
「あ、の…好葉さん、」
「っ?」
「もしも、また前みたいになったら、って悩んでるんだったら……。私なんかは除外してくれたっていいけれど、天馬キャプテンや葵さんのこと、今まで会ってきた人間と同じだって思ってますか……?」
そんななまえのセリフに、好葉はぶんぶんと首を横に振る。
…同じじゃない、って、俺たちはイラつくとか、そう思わないって伝わった…の、かな……?
まだ半分半分な気がするけど、でも、まぁ。
「なら良かったです」
そう言って優しく微笑するなまえが見れたし、まぁいいのかな。
……あれ? なんか喜ぶところ間違ってない?、俺。
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