途中監督に会い、一緒に九坂さんを迎えに行った後。
九坂さんの身元は監督が預かる、ということで一件落着(?) …は、したのだけれど。
宿舎に戻ると、部屋には葵さん始めみんなが集まっていた。


「天馬……、」


心配そうに私たちを見つめる、みんなの姿。どうやらコーチが漏らしていたのを聞いてしまったらしく、九坂さんの警察ざた事件を知っていたようだ。
そこに真名部さんが話し始める。


「彼、ここら5つの学校を束ねる不良みたいですよ」

「え…っ、」


予想通りといえば予想通りなその情報。それから真名部さんはどうやって調べたのか、ペラペラと九坂さんの詳細情報を話す。
…いや、本当プライバシー侵害なんじゃないかってくらい詳しかった。チームメイトの情報だからいいけど、自分の情報調べられたくないなぁと心から思った瞬間だった。

一通り真名部さんが話し終わると、九坂さんはやめさせたほうがいいんじゃないか、という声が上がり始める。
…そりゃぁ近くに不良が居たら普通は怖いけど、でも九坂さんは―…
ふっと、この前の九坂さんを思い出す。…1人で練習していた彼を。きっと根は真面目なんだと思う。どうして不良って言われるかはわからないけれど―…。
たぶん同じ光景を思い出していたであろう天馬キャプテンが、必死に九坂さんのことをかばっていた。
そんな彼にしびれを切らしたのか神童さんが尋ねる。


「天馬。どうしてそこまで九坂をかばうんだ?」

「どうして、って…」


何か思い出すように少し間が空く天馬キャプテンの言葉。
練習していたとは言え、1人目立たないようにやっていたことを思ってか天馬キャプテンは九坂さんが練習していたことを話しはしない。


「とにかくコーチの所に行ってきます!」

「あっ、天馬!?」


神童さんが止める間もなく、天馬キャプテンは真っ直ぐにコーチの所へと行ってしまった。
取り残される残りのメンバー。
ふと、神童さんが今度は私に話しかけてきた。


「…珍しいな。天馬の後を追わなくていいのか?」

「え」


それっていつも私が天馬キャプテンにピッタリくっついているから、って意味なのかな…
思い返すとかなり一緒にいた気がする。うわぁ思い返せなきゃよかった恥ずかしい!


「出遅れただけです」


まぁ天馬キャプテンに託してる、っていうのもあるかもしれない。
神童さんは「そうか」、なんて言葉で口を閉ざしてしまう。…九坂さんのこと、これからどうするか考えてるんだろうな…それは皆も同じ、だけれど。
しんと静まり返るその空気に耐えられなかったのか、ふと、勝手に。本当に勝手に、口が動いた。


「天馬キャプテンってすごいなぁ……」


別に誰に語るつもりもなかったのだけど、状況が状況のためよく響く。あ、あれ、そんな大きな声で言ったつもりなかったんだけどな。
そしたらさくらさんにからかわれた。


「なぁに、惚れた弱み?」

「ちがっ…ていうかそういうこと言うのやめてもらえますか!」

「平気よ〜みんな知ってるから」

「……。」


絶句。まさにその2文字。たぶん目が大きく見開いていたと思う、私。
みんな知ってるってやっぱり知ってるんだ。やっぱりとは思うけどそんなに私って分かりやすいんだ。あぁもうみんなは知ってるんだとか思うと尚更天馬キャプテンとどう接していいか分からなくなっちゃうじゃんか!
とにかくフリーズしてしまう私を他所に、皆帆さんがぽつりと言葉を返してくれた。


「ま、キャプテンすごいっていうのは僕も思うかな」

「どうしたんだ、急に」

「だって普通、あそこまで他人のこと考えられるかな?」


そんな言葉に、集まっていた視線が皆帆さんに行く。
…そう。それ、それ言いたかったんだ。何よりも話題がずれて嬉しいとか思ってしまうけど。
みんなの注目を浴びていることを確認して、皆帆さんは調子よく話し始めた。


「ここにいる大半は今、九坂くんのこと考えていたと思うけど…それは自分たちに影響があるから、だよね?」

「だって不良なんて怖いじゃない…。」

「そうそう、それが普通。…だけどキャプテンは違うようだね」

「…?」

「不良とかどうとか以前に、彼自身のことを見ようとしてるんじゃないかな。」


九坂さん自身を。
思えばそれに当てはまることはある気がする、だって私の時だって―…。
考えてたら瞬木さんに先を越された。


「それは俺も感じた。誰かさんが俺を疑った時も逆に心配してくれたし」

「その件はちゃんと謝ったはずですが」

「例えただけで気にはしてないよ、全然」


全然、を強調するあたりちょっとは気にしているらしい。
そういえばそんなことあったな…と思い返すとこのチームに来てまだまだ日は浅いんだなーって気がつく。


「出会ったばかりで信用も実績も無い俺らをさ。本気でチームメイトだって信じてくれてんだよね」

「…何だかキャプテンを疑うような言いっぷりだね」

「やだなぁ、そんなんじゃないよ。だから俺もキャプテンに応えたいって思っただけだって」


そんな瞬木さんに私も同意。…だと思うけど、皆帆さんはしばらく彼を見つめていた。
何だかんだでようやくフリーズ状態から回復した私は、さりげなく話してみる。


「あんなに他の人のことを心から想えるの、天馬キャプテンの素敵なところだと思います」


だってそれによって救われた人がいるのだから、…私みたいに。
私の発言に、隣に居たさくらさんからため息が漏れたのを感じた。


「ってなんでそんな残念そうな顔するんですか」

「だってなまえが言うとノロケに聞こえちゃうんだもの…」

「どうして!?」


のろけ!? のろけって惚気!? どうしてそうなってしまうんだ。
それじゃぁ私、天馬キャプテンのこと語れないじゃないって思ったけどそもそも語る必要もないかと1人自己完結。
……もうやめよう本当に恥ずかしい。好きな分だけつい視線で追っちゃうから、それだけ相手のこと知っちゃって話すネタも自然と増えちゃうんだと思う。うわぁ自分で言ってて恥ずかしい。
お口にチャック、そんな感じで黙ると、皆帆さんが簡単に話をしめた。


「まぁつまりは、キャプテンがいる限り誰も脱落はできないだろうねってこと」


もちろん九坂くんもね、と付け足す皆帆さん。
そんな言葉に神童さんが重いため息をついた気がしたけど、たぶん、天馬キャプテンの性格を考えてのことだと思う。
確かにそうだな、って。だから今は、誰がチームに不必要とかじゃなくって、ただ、皆でできる改善方法を探そう、って。
探せば答えはどこかにあるはずだし、私も天馬キャプテンの力になりたいし。まずはシャムシール戦を頑張って勝ち抜くことからだよね。…みんなで。


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