お兄ちゃんの病室を訪れたら、既に先客がいたようだった。


「あ、なまえちゃん…!」

「っま、つかぜ、さん……な、なんで!」


なんで? 自分で言ったあとに思い出す、そうだこの人はお兄ちゃんの……親友。居てもおかしくない。
驚く私に、お兄ちゃんがガバっとベットから跳ね上がってこっちに寄ってきた。
うわぁもう元気じゃん。むしろ「元気」以外の表現方法が見つからないよ。


「なまえ! 忙しかった? 寂しかったなぁ〜最近来てくれなくなっちゃって」

「自分が送ったくせに…」

「まぁそうなんだけどさ」

「……それよりも。また抜け出したんだってね」

「げっ…冬香さん情報?」

「病院中みんな知ってるよ」

「……。」


全く。病人なら病人らしく部屋で大人しくしているべきだと思う。そもそもお兄ちゃんはもう病人でもない気がするんだけど……
何か言ってやろうと思ったら、先にお兄ちゃんがわざとらしく松風さんの肩を叩いて楽しそうに言った。


「あっそうだ、天馬。なまえどう? 練習サボったりしてない?」

「え、えぇっと……」


うわぁ本人の前で言いにくそう。韓国戦後は思い切りサボったからなぁ…ていうかそのこと最初に聞かなかったのか。今まで2人して何話してたんだろ…ひょっとして松風さん、今さっきここについたばっかなのかな。なんかそんな風には見えないけど……とにかく。
そんなこといいでしょ、って言おうと思ったらまた遮られる。


「ねぇねぇ、ちょうどいいしなまえの話でもしてよ〜」

「何その三者面談みたいな状況!」

「……、」


狭い病室の中、つい松風さんの事を忘れて、…いや忘れたわけじゃないんだけど、つい。
イナズマジャパンで保っていたはずの冷静がどっかに飛んでいく。
思いっきりツッコミをする私に、お兄ちゃんはにたりと楽しそうな笑みを浮かべて。
あぁもうこの顔は何か面倒事が起こる前兆だ。


「いいじゃん、それとも話せないようなことしちゃったわけ?」

「どんなこと考えてるの……普通にしてるってば」

「え〜…ホント? 天馬」

「え、う、うん。」

「怪しいなぁ」

「……もういいよ、私、帰る」

「まぁそう言わずにさ! 何? 天馬の前で緊張でもしてるの?」

「っそんなわけ…! ていうかなんで私が!」

「ほら照れちゃってまたぁ〜」

「いい加減…怒るよ…」

「ごめんごめん、冗談だって」


本当に冗談がすぎる。もう笑いながら謝られたって何とも思わないんだけど……
はぁ、と思わずため息を漏らす私とは対照的に、相変わらずにっこり笑顔のお兄ちゃんは愉快に話し続ける。


「さて天馬、本当にどう? こう見えて寂しがり屋だからそこら辺よろし」

「別に!! 1人の方が気楽でいいし!!」


なんてこと言ってくれるんだ。誰が寂しがり屋だ、それお兄ちゃんの方なんじゃないの。知らないけど。
それからあぁだこうだ2人で言ってると、不意にクスッと笑い声。……振り返ると松風さん。


「太陽となまえちゃんって、2人だといつもそんな感じ?」


なんてこっちも楽しそうに。
我を忘れて必死に言い返していたのが何だか無性に恥ずかしくなって勢いが収まった。
だって言い返さないとお兄ちゃん勝手に話し進めていくし…もう……
松風さんの問いに、お兄ちゃんもお兄ちゃんで本っ当に楽しそうに話す。軽いなぁ。


「うん! 大体こんな感じ。僕がからかってなまえが本気で怒る〜…みたいな」

「分かってるならやめてくれない……」

「何だか2人とも元気でビックリしちゃったよ」

「あは…まぁ僕はともかく、なまえは何? イナズマジャパンではクールキャラとか?」

「きゃ、キャラっていうか…」

「今のでぶち壊しだねぇ」


乗せられた。ここで気がつく。
別にクールキャラとかそういうつもりは無かったけど、速くサッカーやめたかったしあまり他の人と関わる意味も無いかな、って。あ、現在進行形で。
まぁ松風さんとか葵さんとか…お世話になった方もいるけど……

そんな私に、松風さんは相変わらず微笑しながらこんなことを。


「なまえちゃん、太陽の前だと結構話すんだね。」


だってさ。
そこにすかさずお兄ちゃん。


「え、天馬の前だとあんまり話さない? ていうかやっぱり?」

「べ、別にそんなことは」

「でも太陽といる時の方が楽しそうだなぁって思うよ」

「ふぅん……やっぱ緊張、」

「してません!!」


いや、本当はかなりしている。
けど本人の前でさ緊張してますなんて言いたくないっていうか言えないっていうか……お兄ちゃん何考えてるんだ。
そもそもあまり話したことない人の前でさ、緊張しない人なんていないと思う。…いたとしたらお兄ちゃんぐらいなんじゃないの。
何だか居た堪れなくなってきて、何のために来たんだろうと思いつつも部屋を出ていくことを決意する。
……まぁ、お兄ちゃんが元気なの(知ってたけど)見れて良かったし。


「も、もう帰るから」


だからさっさと帰ってやると思ったのに。


「ストップなまえ。もう遅いから天馬と仲良く帰ってね」

「あ、ホントだ、いつの間にこんな時間……」

「あー…あの、私、商店街で肉まん買って帰ろうと思うので別々に…」

「えぇ! 同じ方向なんだし一緒に帰ってよ! ぼく心配で今夜眠れないって!」

「なんで!?」

「うん、確かに女の子が夜1人で歩くのは俺も危ないと思う」

「……ってまだ夕方ちょっとすぎたぐらいじゃないですか…塾帰りの子とかいっぱいいるし…」

「それにちょうど俺も肉まん食べたかったし! 一緒に帰ろう?」

「……。」


あぁもう。イナズマジャパン合宿が終わるまで、お兄ちゃんのお見舞いにはもう絶対に来ないんだから。


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