俺が頭をフル回転させて何か言おうとしている間に、なまえちゃんは早口で話した。


「世の中おかしいことばっか。非力な人間が日本代表だったり、同じ家族なのに全然違ったり」

「なまえちゃ…、」

「お兄ちゃんが来ればよかったのに」


そこまで言い切ると、それ一切口を閉じてしまう。
……同じ家族なのに全然違う、…?


「非力かどうかはともかく、家族と違うのは当たり前だと思うけれど。」

「えっ?」


やっと言葉が出てきた。
一応考えながら言葉を選ぶ俺に、目の前で瞳を丸くさせて驚いた顔が映る。そのせいか表情が和らいで話しやすい。


「そもそも非力な人なんていないと思うし、同じ人間なんてのも居ないって俺は思う。みんな違うからこそ、それぞれの良さがあるんじゃないかな」

「……!」

「もちろんその逆もあると思うけど。だからこそお互いカバーし合って…」


1人じゃできないから皆で助け合う。それがサッカー、……だと思う。俺は。
話している感じだとなまえちゃんはそんな風には思ってないみたいだけれど。


「カバ―…し合う…?」

「うん。フォローっていうか……だってそのために11人もフィールドに居るんじゃない? ポジションまでちゃんと決まっててさ」


まぁ、別に俺がサッカーの何を知っているわけじゃないけどさ。
少なくとも今までやってきたサッカーはそうだったな、なんて。ポジション同士はもちろん、控えもマネージャーも…いっそ観客も。
全員が一体になってやるのがサッカー。1人1人が違うからこそ集まる意味が出てくる。
だから面白いんじゃないか。

ここで、前に言われたなまえちゃんの言葉が頭に浮かんだ。


「だから。フィールドに立ったら1人、なんてこと絶対に無いよ!」


それはキャプテンの俺が保証する、…なんてね。いやいや、本気で保証するけど。
すると何を思ったんだろう、僅かに和らいだと思ったなまえちゃんの顔がまた険しくなる。


「……嘘つき」

「ぇ…っ、」

「韓国戦。序盤、瞬木さんとか省かれてたんじゃないんですか」

「! あれは、」

「それに試合だって松風さん達3人で進めたでしょ。結局、実力が無いとボールすら回ってこない競技じゃないですか」


実力……。確かに序盤、瞬木にパスが回らなかったことは本当だ。
だけど、


「違う。あれは皆で掴んだ勝利だ!」


つい勢いでなまえちゃんの両肩を掴んでしまった。驚かれても無理はない。
さっきまで言葉すら悩んでいたのが全部無駄になった気がするけど、それでも伝えたかった。


「実力があるとか無いとか関係ない。みんなの勝ちたい、って気持ちが勝利に繋がったんだ、」

「…っ」

「神童さんのブロックと、真名部の正確なパス、それと瞬木のスピードと……みんなの力が合わさってこそ勝ち取れた勝利だよ」


ハッキリと、迷いなく、真っ直ぐに。俺の気持ちは伝わっただろうか。
何か反論しようとしていたなまえちゃんだけど、そのうち肩の力が抜けてきて、そっと俺の手を振り払った。


「そんなの…貴方に充分な実力と素質が備わってるから言えることじゃないですか」

「っえ、」

「それに信頼できる仲間までいて。そんな松風さんに分かるわけない、実力がどれほど物を言うか。どんなに好きだって才能すらなければ何の意味もないんです」


強い眼光が俺を捉える。
でも、それに怯むことは無く俺も負けじと言い返す。


「好きだからこそ上手くなれるんだよ…!」

「だから…っ、貴方に才能があるからそんなこと言えるんであって、」

「じゃあ何、教えてよ。なまえちゃんが言う才能って一体なんなの…?」

「……、簡単に難題をこなせる、とか、」

「そんな人居ない。みんな努力してる、なまえちゃんだって分かってるんじゃないの…? 才能なんて関係ない、努力でいくらでも―…」


努力でいくらでも補える、否、努力しているからこそ出来る。

そこまで言って自分の声がだんだん大きくなっていた事に気がつく。
我に返って、とりあえず落ち着いて。俺はなまえちゃんを練習に誘いに来たんだ、言い合いをしにきたわけじゃない。ないのに。
力になりたいって思う分、言われた事1つ1つを真剣に考えてしまう。
…結果、言い返してしまうと。少し落ち着け俺。

ふぅ、と自分が落ち着くためについた呼吸を、なまえちゃんがどう受け取ったかは分からなかったけれど―…
相変わらず、目の前の彼女の顔は暗いままだった。


「……、貴方は皆で掴んだ勝利って言いましたが、」

「そうだよ!」

「あの試合、フィールドに居ながらも1度もボールに触れていない人がいます」


そう言われて試合のことがフラッシュバック。
そんなことない、とは言えない。だって神童さんがブロックしておかげで勝てたわけだけど、それはつまり…。


「井吹……」

「……11人も居るんだから全員、なんてあるわけない。絶対誰かが外れる。その『誰か』が、今まで貴方じゃなかっただけの話しです」


それに大体ボールをキープしていたのは同じ人じゃないですか、なんてスラスラと言葉を続けていくなまえちゃん。
確かにボールに触れた、と言っても極わずかな子だっている。全員で取りに行った、なんて無理があるかもしれない。
1人1人がまだチームに馴染めていないのも現状だ。


「……分かった、認める」

「っ、」

「全員が全員、同じ気持ちで取りに行った勝利ではなかったかもしれない。けど、皆がいてくれたおかげで勝てたんだ」

「……別に松風さんたち3人だけでも、」

「ううん。これは絶対。……それにいつかしてみせるよ、みんなも同じ気持ちに!」


契約とか条件とか。よくわからないけど、誰だって勝ちたい気持ちはあるはずだ。
だからみんなにサッカー好きになってもらって、同じ勝利を目指して頑張れるように。そんな風になって欲しい、いや、してみせる。
なんとかなるさ!


「雷門の時みたいに皆で楽しくサッカーやりたいんだ」


きっと出来る。だからここで宣言しておこう。俺がみんなをサッカー好きにさせてみせる!

俺が1人意気込んでもなまえちゃんの表情が変わるわけではないけれど。きっとなまえちゃんも笑顔にしてみせる、サッカーで!
だってサッカーって楽しいものだから。


「……、それにしてもよく見てるんだね」

「へっ?」

「チームのこと。」


ベンチにいながらもちゃんと見ていてくれたのは嬉しい。
素直にそう言うと、なまえちゃんは「ベンチ暇だったから」なんてちょっと無理やりな理由を付け加えた。いや、無理やり……でもなく正論な気もするんだけど……ま、まぁ。

やりたくない、って言っていたけど、本当はなまえちゃんだってサッカー好きなんじゃないのかな。
好きじゃなきゃこんなに熱心に言いあえない、と思うし。


ここで1度、軽く息を吸ってー吐いて。
落ち着いてゆっくりとなまえちゃんに尋ねてみた。


「ね、一緒に練習、やらない?」


その俺の問いに、なまえちゃんはふるふると首を振り「すみません」とだけ言って……また、ドアを閉められ俺は強制的に追い出されてしまった。
……どんまい、俺。でも諦めないけどね。

と、とりあえずもう少し時間を置いてまた来てみよう。うん。


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