ぬるいキスに溺れた
▽白竜視点
「は、白竜…」
「…、」
「手が痛いよ…っ」
泣き出しそうな声で訴えるなまえを無視して、彼女の手首を強く掴みながら、俺はただ自室を目指して早足で歩いていた。
苛立っているせいか、かなり手に力がこもってしまったらしい。だがこのぐらいしっかり握っていないとなまえはどこかに行ってしまうだろう。あぁいっそなまえ用の鎖でも首輪でもあればいいのにといつも思う。足かせでも何でもいいのだが、俺の部屋につなぎ止めておきたいものだ。
なんて手を引くこと数分、ようやく部屋に着いた。とりあえずなまえを引きずるように中に入れ、掴んでいた彼女の手首ごとドアに押し付ける。その際に見えたなまえの、痛みに耐えるような、歯を食いしばる一瞬の表情も俺は好きだった。
が、今は苛立ちでそんなことに見惚れている余裕もなく。
「あいつと何を話していた」
顔を近づけて、低い声でなまえの目を見ながら問えば、なまえは、本当に怯えた顔で俺を見つめ返す。
「な、何って…」
「随分と楽しそうだったが」
…いつもなまえはそうだ。俺の恋人だという自覚が足りていない。
誰とでも仲良くしようとするし、誰とでも話すし、その笑顔だって誰にでも見せてしまう。それは俺だけのものにならないのだろうか。いや、なるべきだ。そうだ、だってなまえは俺を好きだと言ったじゃないか。俺だってなまえが好きだ。愛しているとも。ならばその全てを奪える権利が俺にあるはずだ。
「大したことじゃ、ないよ」
ふっと視線を逸らして、なまえは言う。大したことじゃない? なら何故言えない。
「言え、なまえ」
先ほどよりも強く言ってみれば、なまえの瞳が揺れた。あぁ、今にも溢れてしまいそうだ。俺はただなまえがあいつと何を話していたかを聞きたいだけなのに何故泣くんだよ、でも、そんな顔もやはり好ましい。
男ばかりのゴットエデンでなまえの存在は目立っていた。当たり前だ。なまえは「友達」だというけれど、少なからずなまえを異性としてみる人間もいるだろう。まぁ、そういう奴は俺が気が付く範囲で、ミスに見せかけて足を潰してここから追い出してきたわけだが。もちろんなまえはそれを知らない。
自ら失態を演じるというのは気分が悪かったが、なまえが俺以外の人間と仲良くする方がよほど不愉快だったのでかれこれ数十人はこの島から追い出したと思う。それでもまだ、こうして未だに苛ついてしまうのだ。
つまり鈍感なんだ、なまえは。学習能力が欠けているかもしれない。俺はこんなにお前を愛しているのに。
こんなやりとりは付き合い始めて何度目だろうか。なまえが優れているのはサッカーの腕前だけだ。もちろん、どんななまえも好きだが、少しぐらい学んでもらいたいものだな。
その瞳が俺以外を映すなど、許せない。
「…言えないのか」
「え、や、そういうわけじゃ…」
「…もういい」
「ま、待って、…んっ、」
しびれを切らして、俺はなまえのその薄い唇に自分のを重ねた。
あぁなまえ、好きだ、愛している、なのにどうしてお前は俺だけを見てくれないんだ。
何度口付けても物足りなくて、浅く長いキスを数回繰り返す。怯えながらも、なまえの頬はほんのりと赤くなっていた。
「…は、なまえ…、」
ようやく口を離してやるとお互いの吐息が当たる。苦しかったのか、それとも俺が怖いのか…なまえの瞳は潤んでいた。
「なまえ」
「な、何…?」
「お前は俺だけを必要としていればいいんだ」
だから俺以外の誰とも話さないで欲しい。俺以外の誰にもそんな顔を見せないでくれ。いや、もういっそ俺以外の誰とも会わないで欲しい。
…この狭いゴットエデンの中でそれは無理だろうな。せめてこの部屋にでも閉じ込めておければ良いのだが…あいにく教官が合鍵を持っている。
どうすればなまえを独り占めに出来るのだろうか。どうすれば俺だけのなまえに―…
そうだ、また印をつけておこう。もう何度も何度もつけたせいでなまえの白い首筋はすっかり赤くなってしまっていたが、それでも未だ足りない。
抵抗することを諦めて、どこか不安げな目で俺を見るなまえの首元に、唇を這わせた。
(俺しか見えなくなるよう、)
(君に愛を囁こうか)
題◇Mr.RUSSO様
一部文章◇原生地様
星羅様
リクエストありがとうございました! 遅くなってしまい申し訳ありません…;;
ヤンデレ…になっているでしょうか?(汗)
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。ありがとうございました(*´∀`)