終末少年、最終少女


▽夢手視点

今日は何日だったか。
薄暗い部屋の中、吊るされた腕が怠かった。腕ってずっと上げてると疲れちゃうんだよね、ってまぁ、縛られてるから自分で降ろすことができないのだけど。
こんな薄明かりの中でも、日光にしばらく当たっていない自分の肌が如何に白いか、目で見えた。
日光って大事だったんだなぁ。外に出ていた頃は、眩しすぎてうざったくも感じたけれど。


「お腹、空いた…」


ぐーと場に似合わないような、心地よさそな音でお腹が鳴る。おやつの時間。そろそろ彼がこの部屋にやってくる。


私がこの部屋に監禁されてからもうしばらくの時間が経ったはずだ。
何故こうなったのか? 理由は簡単。私が人間じゃなかったから。おかしいな、小学校まではニンゲンとして暮らしてたのにな。
ある日突然だった。体が何か得体の知れない力でいっぱいになって、気がついたら周りで人が死んでいた。
…悪夢だった。


「なまえ」

「!」


ふと、コンコンとノック音が響く。私が答える前に、ノックをした本人がドアを開けて入ってくる。


「食事、持ってきたぞ」


そう言いながら、なんの戸惑いもなく私の目の前に食事を広げるのは、白竜。この島、ゴットエデンのトップ選手だ。
可哀想に、私に愛されてしまったために世話係として毎日3回、ここにご飯を運んでくれる。
私だって自分が人間じゃないと分かっていれば好きになんてならなかったのに。それでもやっぱり好きだった。
…今でもちゃんと覚えてる。私が、好き、って言ったときの、ちょっと困ったような、頬を染めた彼の顔を。

ちなみにご飯は食べてない。だって食べたら出したくなるじゃない。こんな何もないところで、……嫌すぎる。
そんな理由で数週間はもう何も口にしていないけれど、この体は飢えるだけで、腐ることは無かった。
これも、あの日、人を殺してしまった力の影響なのか。


「いつも、ありがと」

「あぁ」

「でも、いらない」

「……そう言うな。」


食わないと死ぬぞ、と彼はいつもと同じセリフを言った。
最初こそはかなり必死になっていたけれど、数日、数週間、私が何も口にしなくとも生き続けられると彼も気がついているはずだ。
今では挨拶のようにこの会話をしている。

それから今日あったこと、みんなの様子とか特訓の内容とかを事細かに白竜が教えてくれるというのが、いつものスタイル。
別になんの意味もないのだろうけれど、今となっては唯一の会話相手である、彼が一緒にいてくれる時間が私にはとても嬉しかった。
でも白竜、なんだか今日はそわそわしてる。…私はいつものように話しかける。


「どうしたの?」


落ち着かないね、って、決して大きな声ではないけれど、静寂に満ちた部屋にはやけに響く私の声。
その問いに、白竜は真剣な顔つきで私を見据えた。


「なまえ、ここを出ないか」


って。


「出る? どうやって」


出たって私は生きて行けないのに。生きて行けないからここに縛られているのに。


「…無理だよ。私は、ここで生きてここで死んでゆくの」


それが、私にとっての「当たり前」。なのにどうして、貴方はその「当たり前」のことに、悲しそうな顔をするの。
何だか今にも泣き出しそうな顔に、触れたいけど、触れられない。仮にこの手錠が外れたところで、彼に触れたらきっと殺してしまう。
釣られて私も何とも言えない顔になっていたかもしれない。
白竜はそっと目を伏せて、ポケットから何かを取り出した。


「?」


なんだろう。ちゃりん、という音。薄暗い中で、よく見るとそれは何かの鍵のような形をした、


「その手錠の鍵だ」

「え、」


驚いた。だってそれは、教官が管理していたはず。あの強面の教官から一体どうやって。
や、その前に、それを使って、何を。
私が口を開く前に、もう1度白竜は尋ねてくる。


「外に、出ないか。」


俯いていた顔がすっと上がって、その紅い瞳が私を見つめる。


「ま、…待って。無理だって!」

「大丈夫だ、何とかなる」


何とかなるってどっからその言葉が出てくるの。なるわけないじゃない。だって私が地上に上がったら、また、あの悪夢が。
だけど私の答えなんか気にせずに、白竜はゆっくりと歩み寄ってくる。問いかけておいて初めからこちらの意見を聞くつもりはなかったのか。


「やだ、止まって!」


鍵を握った手が、私を繋ぐ手錠に触れそうになった時、慌てて声を上げた。久しぶりに大きい声を漏らしたものだから、白竜の手が一瞬止まる。


「大丈夫、だ」

「は、白竜、やめて、死んじゃう!!」

「っ…、」


だって「大丈夫」なんてなんの根拠もない。肩だってこわばってるのに、それでも私に手を伸ばすの? …どうして。
…たった独りの、私の話し相手。たった一人の…私が、好きだった人。ううん、今でも、愛してる人。愛せる人。
失いたくないのに、やだ、怖い、


「触らないで…!」


私に触れたら貴方は死んでしまう。
そんな気がした。だって過去に死んでいった人たちはみんな私の目の前で、血を吹いて、…それで。
私がいくら言っても白竜は止まってくれない。鍵を持っていた手は下げ、代わりに、もう片方の空の手をゆっくり、ゆっくりと私に近づけてくる。
怖くて息を飲んだ。歯を食いしばって目を瞑る。


「っ、」


と、頬に暖かい何かが触れた。
え、触れ…、?
怖い、けど、確かめたい。
恐る恐る、そーっと…まぶたを開けてゆくと、そこには何ら変わりない白竜が、ふっと笑っていた。


「ほら、大丈夫だろ」

「な…んで、ど…して…」


声がかすれた。…痛く、ないの? …我慢しているようには見えない。じゃぁ本当に?
混乱している私に、白竜は私の頬を撫でながら、


「まぁ、あれだ、愛の力じゃないか」


なんて何でもないように笑ってくれた。
…理由になってない。つまる話、本当の所は白竜もわからないんだろう。…だけど、死なないんだ。私に触れても。
今起こってるその事実がただただ、嬉しくて、泣きそうになった。

それから鍵で手錠を外してくれて、重心の取り方がわからなくなってよろけた。まぁしばらく吊るされた腕に体重をかけていたから無理もない。
そんな私の肩を支えてくれる白竜。それに乗じて彼の背中に両手を絡めてみた。…久しぶりの人の体温。すごく暖かい。


「行こう、なまえ」


強く私を抱きしめてから、そっと離れて私の手を取る白竜に、私は笑顔で頷いた。




(外に出たら、みんなが居た)
(それに混じって知らない少年もいくらか)
(あれ、剣城君はいつから黄色と青のユニフォームになったんだろう?)





題>マダムXの肖像様


SSCが過去で発見された話。革命が終わってゴットエデンが封鎖されることになったから外に出れた、みたいな設定だったり
…本当はヤンデレを書くはずだったのですが気がついたらこうなってました(;´∀`)
ていうか、流石に食べないと辛いですよね…捏造すいません…


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