鮮やかな夢の欠片


※ちょっと長い

●夢主視点

違う。そんなわけない。絶対に、違う、違うったら違う…!
そんな事を呪文のように唱えること早9分。いや、今10分たった。設定を解除しない限り5分ごとに鳴り続ける目覚ましをいい加減解除して、私はようやくベッドから足を出した。

どうしよう。学校に行く前の朝、変な夢を見てしまった。同じクラスの雨宮君の夢。
何故見てしまったのかは分からない。とにかくこのせいで、今まで大して気にしていなかったのに今日からいつも通りに出来る自信が無くなってしまった。もはや皆無だ。

雨宮君といえば新雲学園では知る人ぞ知るサッカー部のエースストライカー。
何でも10年に1度の天才だとか何とか…自分はサッカー部の関係者ではないので詳しいことは分からないけど、お手洗いで女の子達が噂していたのを少し聞いた事がある。

入学初期から療養していて、この間ようやく退院したということで注目を集めていたんだけど。
正直まぁその…格好、いい…と、思う。あまり芸能とか恋愛とかに興味のない自分から見てもやはりそう思う。
とりあえず「優しい」のはよく知っている。この間なんて荷物を持ってくれたという思い出が…。

というのも私は図書委員で、その日は放課後少し遅い時間まで本の整理をしていた。担当の先生に頼まれて別の部屋から本を運んでいたのだけど、部活が終わったのか休憩なのか、たまたま廊下で居合わせた雨宮君が「大変そうだね」なんて言って半分以上、いやほぼ全部を一緒に運んでくれたのだ。
彼にそんなことをする義理はないのに。だってただのクラスメイトだし話したことなんて1度もなかったと思う。
他の生徒が部活や帰宅などで外に出てしまった中、静かな廊下を2人で歩いて無性に緊張してしまったリアリティがなんだか今でも残っている。

…いや、まぁ、だって、雨宮君ってそういう性格なんだろうし。
廊下で1対1になって無視するのも気まずいだろうし、…うん、きっと特別な理由なんてない。そんなことは分かってる。
わかってるけど、男の子にそんなことをしてもらったのが初めてだったためその日から何かと落ち着かない日々が続いていた。

そして本日ついに夢に見てしまったという…。しかもその内容が…っ
色々否定したけれど。でもやっぱ心のどこかで気にしていたから夢に見たのだろうし…
そもそも、気になっていたからこそ、夢に出てきたぐらいでこんなに慌ててしまうのかもしれない。
……いやいやいやそんな訳。好きとか。あり得ない。私が彼を? …いや、無い、無いに決まってる。だって釣り合わないし、私じゃ。
例えるなら月とすっぽん…というと卑下しすぎて自分が可哀想な気もするが、そんな感じだ。
彼は美しいお月様。強いて言うなれば、真冬の寒い時期にみんなに暖かな光をくれるお日様、みたいな、そのぐらいの存在感がある。
対して私は教室の隅っこのほうが落ち着くタイプ。休み時間は読書をするのが好きな人間だもの、いつでも誰かと笑っている彼とはまるで違う。
…たった1回、少し優しくしてもらっただけだ。たったそれだけで意識しちゃうとか自分が恥ずかしくなって、できるだけ考えないようにしていた。
だって向こうは私のことなんて、ちっとも気にしていないはずだから。


***


食事をとって服を着替えて、それでもまだ今朝見た夢が頭をもやもやと惑わせる。
ばしゃばしゃと大げさなぐらいに顔を洗ってから、電車に乗って、下駄箱で上履きに履き替えている今もそれは変わらなかった。
…困った。
そもそも「いつも通り」というのは「接点の無いこと」で、私の記憶が正しければあの本を運んでくれた1回きりしか話した記憶がない。
こんなに気にしているのが可笑しい、ってぐらい関わりがない。だから気にしないでいたい。
気にしないように気にしないようにって思えば思うほど気にしてしまうのはどういうことか。あぁもう別の事考えよう、……だめだ無理だぁ!
とにかく教室に入るまでにこの気持ちを断ち切らねば。平常心が保てないあまり何か犯してしまいそうで怖い。

どうしてこんなに慌てるか。だってあんな夢…、その、なんというか、いわゆる、き……キ、キっ……自分でも驚いてるよ。まさか夢の中で男の子(それもクラスの)とその…き、キスするなんて。
そういう願望があったのあだろうかと一瞬考えて慌てて振り切った。まさか!!
夢は夢だ。そう、何かの少女漫画のネタが、たまたまクラスの男の子で再現されただけだろう。前に少し優しくしてもらったので確かに印象には強く残っていたわけだし。
それに夢って記憶の整理とかいうし…だからそうつまり気にしないのが吉だ。気にしないが…


「みょうじさん」

「えっはい!?」


無理だ、気にする。あぁ……消えたい。
驚いてつい素っ頓狂な声を上げてしまった。うわ…微妙に周りの視線を浴びてる気が…。もう土をかぶせて埋めてやりたい、自分を。ていうか誰か埋めて! 穴があったら入りたい…!


「驚かせちゃってごめんね、急に」


そう言って笑うのは例の雨宮君だった。
何故! 今日に限って! だって全然話したことないのにどうしてまたていうか何の用だろう私はどうすれば、…って慌てていたら彼は自前の笑顔で一言、


「おはよう」


…おはよう? 何を言われるかと思いきや挨拶……って、答えなきゃ。


「お…はよう…」


なんだか元気の無い声になってしまった。
うわぁぁだめだ今朝見た夢のせいで絶対顔みれない、そもそも夢を見ていなくともこの美貌は見れない気が…! いやクラスの男の子に対して美貌ってなんだよとにかく落ち着け私…!!
平然に平然を装っても中々落ち着けない。あぁいっそ嘘ついて休めばよかったとすら思っている。無理か。
そんな私をよそに、雨宮君はまだ話しかけてきた。えっまだ何かあるの…


「あのさ、これも急で悪いけど」

「え、?」


そう言って何かを差し出された。…ホーリーロード…あ、中学サッカーの大会だっけ? そのポスターだ。日付と日時が書いてある。
新雲は…次の試合で雷門ってところと戦うんだ。
でこれを見せてどうしようというのだろうか。意図がわからずとりあえず応答を待っていると、雨宮君はこんなことを言った。


「良かったら、見に来てくれないかな…。」

「えっ、」


…どうしようさっきから驚いてばっかだ私。だって見に来て……ってどうして、私に。
…と思ったけど、よくよく落ち着いて周りを見渡せばクラスのほぼみんながそのポスターを手に持っていて、見るなり話すなりしていた。
なんだ…。


「うん、見に行くよ。頑張ってね」


そうだよ、私が特別なわけ無いじゃない。何故かホッとした私はやっと落ち着けて、「いつも通り」答えることが出来た。
大丈夫、彼と私が関わることはもうきっとないから。
なんて、もらったポスターをバッグにしまっていると、彼がその場を動かないでまだ何か言いたそうにしているのに気が付く。


「…?」


何だろう。私の顔に何かついているだろうか。今日は本当に慌てていたからもしかしたら制服の裏表が逆だったかもしれない、と思ったけどそんな事はないし…
不思議に思いつつも軽くスルーしていると、彼らしくない、控えめな声でまた話しかけられた。


「それと、さ…」

「?」

「そのー…、試合が終わったあと、空いてる?」


打ち上げでもするの…かな。どうせ私なんてのは年中本を読む予定ぐらいしかないけれど、正直これ以上気にしたくない。


「ごめん、その時間は」

「そ、そっか、なら次の日は?」

「えっ」


次の日? 何故わざわざ。何か用があるんだろうか。理由もなく断るのもなぁ…


「うん、翌日は大丈夫だけど…」


どうしたの、って聞こうとしたら、お日様みたいな笑顔を向けられて、それ以上何1つ喋る事ができなかった。
それから時間を尋ねてくる彼に私はただ頷くことしかできない。…ダメだって今の反則…!
そんなこんなであっという間に週末の予定が決まってしまった。
…用ってなんだろう。別に期待なんかはしてないけれど。


(きっと何でもない事だ)
(…きっと。)





題>Mr.RUSSO様


実は両思い(笑)

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