張り巡らされた罠 [ 8 ]

「………んー………アレ!?何も見えない!なんで!??」

「……おー。起きたか。」

「ナツ!??…どこ!?どこにいるの!?」

「…ここ。」


ルーシィの目の前に炎が灯される。
真っ暗で何も見えなかった視界から手の平に炎を浮かべたナツの姿が浮かび上がった。
案外すぐ近くにいたナツの不機嫌そうな表情が見え、ルーシィは安堵する。


「そういえば……私落ちて……あれ、ナツも落ちたの?」
「………おう。」

「じゃあ、早くハッピーを……」
「呼べねぇよ。埋められた。」

「…はい?」
「てか呼んでも来ねぇだろうし…。」

「…なんで?」
「………知らねぇよ。」

「…埋められたって誰に?どうゆうこと!?」
「だからあいつらに。……嵌められたんだよ。」

「あいつらって!?誰!??」
「だからグレイとエルザと!…ハッピー?……と……リサー…ナ…?」

「…えぇぇ!??なんで皆が!??」


ナツは、ルーシィの問いに言葉を返さず立ち上がり、闇に向かって歩き出した。暗闇に灯る光が遠のいていく。


「………ちょ…っと……待って!…………待ってたら!!」
「……ルーシィ声でけぇ。モグラが気付くだろ。」

「あんたが離れたら何も見えなくなるんだから勝手に行かないでよ!……って、ここって…モグラの…」
「おう。そうだろうな。」

「ちょっと……モグラって穴に落ちてきた獲物を食べるのよ?私たちやばいんじゃ………」
「人間は食わねぇだろ?」

「そ、そんなのわかんないじゃな」 ≪イヤァアァァアアアアアーーーー!≫

「きゃぁぁぁあああ!??」
「うぉお!?」


自分達の足音が聞こえるだけの状況の中、突然ルーシィの背後から奇声が発せられた。
横を歩くナツに向き合う形で不安の言葉を漏らしていたルーシィは、背後の奇声に押されるように
目の前のナツにしがみ付いた。いきなり抱きついてきたルーシィにナツは慌て、声を上げる。


「る、ルーシィ、落ち着け!!」
「何!??今の声!?……も、モグラ!??」

「モグラじゃねぇだろ!……それにこの声、というかこの音…どっかで……」

「え?……なに?…どうゆうこと??」
「……あ。これだ!」


ナツが隅に置かれた小さな人形のようなオモチャを手にとってその頭を捻った。
耳障りな奇声が止まる。


「これ…………昔ハッピーとおもしれぇからって買ったオモチャだ。目にラクリマが入っていて前を通り過ぎると音が鳴る仕組みなんだ。
……これでギルドの皆を驚かして遊んだんだよなー。懐かしいな……なくなったと思っていたのにどこから見つけてきたんだ?」

「……なんでそのオモチャがこんなところにあるのよ!?」

「やっぱりハッピーも……俺らを嵌めたってことだろ?てか歩きにくい。早く離れろよルーシィ。」


未だにビクビクとナツにくっつくルーシィに、ナツが鬱陶しそうに言い放つ。
その言葉にルーシィは我に返り、ビュンと音が鳴るような早さでナツから離れた。

「な、なによ!あんたもびびってたくせに!」 ≪ギィヤァアアアァアアーーーー!≫

「…きゃぁぁぁあああ!??」
「……うわわわ!?」


再び聞こえてきた奇声。ルーシィはパニック状態で再びナツにしがみつく。


「ルーシィ!これもさっきと同じオモチャだ!!おおおお落ち着け!!は、離れろ!!」


ナツは、抱きついてくるルーシィを引き摺るようにして慌てて隠すように置かれた人形を探し出し、先ほどと同じように頭を捻って音を止めた。


「はぁ………ルーシィーー、次からこの音の正体はわかったんだから、もうびびるなよ。」
「な、なによ!わ、わかってても怖いのよ!?てゆうか、あんたもびびってるじゃない!」

「びびってねぇよ!!」
「うわうわ、言ってたじゃない!」

「あれはそうゆうのじゃ…とにかく次やったら切れるからな!!」


理性が。とは付け加えないナツ。ルーシィはその言葉を言葉のまま受け止めてしまい、唇を噛んだ。


(……なによ!こっちだって怖いのを我慢してるのに!!)


進む先は、何も見えない暗闇。振り返っても何も見えない。
巨大モグラがいつ現れるかわからず、周りを警戒することに神経をすり減らしている状況で突然奇声が聞こえてくる。
この状況でびびらずに落ち着けだなんてルーシィには無理だった。


「おい……マフラー引っ張るなよ。」
「………無理!仕方ないでしょ!」 ≪プーーーーン!!!プンプンプン!≫

「きぃやぁぁぁああ!?」
「わわわわ!?」 ≪ププン?ププン?≫

「いやーー!!もういやーー!!」
「落ち着けルーシィ!これはどう聞いてもプルーの声だろ!?」 ≪プン?ププププーン!≫

「私プルー呼んでないーー!!」
「前にオレとハッピーが面白がって録音したヤツだ!お、落ち着け!」

「…ほ、本当に!?」


不安でナツを離せないままルーシィは辺りを見渡すが、音の出所がわからない、何も無い。
ルーシィは、奇声が止んでしんと静まり返る暗闇に怖くなり、無意識に抱きつく腕に力を込める。


「…っ…」
「な、ナツ、本当に録音したのよね??本当よね??」

「…おぅ…。」
「で、でも何も見当たらないんだけど……」


ルーシィは不安になり、カタカタ震えながらギュウッとさらに力を込める。
不可抗力の事態だとわかりつつも、いつもキャンキャンうるさいルーシィが不安そうに自分を頼ってくる
この状況に、ナツはいつもの調子が出せなくなり始める。

ルーシィが悪い。不安そうにそんなに密着してくるから。振り払う口実や文句が思い浮かばない。
いつもなら、からかって馬鹿にしてかわすことができるのに。ルーシィの感触に頭がグラグラする。
頭の中によからぬ妄想が駆け巡る。そんなことをしたらだめだと理性が警笛を鳴らし続けるが、
少しだけならと、いつものように最後はからかって何事もないように振舞えば大丈夫だと、甘い考えに侵食されていく。


(こ、怖がってるから落ち着かせるためだ。それで、いつものようにからかったことにすれば……)


自分の行動を正当化するための言い訳を揃える。いつもそうやってルーシィにばれずに上手くやってきた。
いつものように笑って見せれば何てことはない、いつも通りに………いつも通りに……していいんだっけ?


(……とゆうかいつも通りになんのか?オレの気持ちばれてるのに。)

(またいつも通りに戻していいのか?このままでいいわけじゃねぇのに。)



――― 好きなんだって!伝わったらきっと意識してくれるよ!? ―――



ナツの頭の中にリサーナが言ってくれた言葉が木霊し始めた。


(あぁ……そっか……そうだった。)


気持ちを伝える。
伝わったら意識してくれる。
気持ちを伝える。
伝わったら……


頭の中で何度も繰り返す。



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