にらめっこ

「ルーシィ、暇。」

「突然なんなのよ!人の家に上がりこんで、お茶とお菓子食べ散らかした上に言うセリフじゃないでしょ!
…たまには労いの言葉ぐらい言ったらどうなの?」

「ルーシィ、オイラも暇。何か芸でもしてよ。」

「………あんた達、私をなんだと思ってるのよ……?」

「ルーシィはルーシィだろ?…んなこと聞いて……ルーシィバカか?」


平然と言って退けるナツにルーシィは殺意に似た黒い感情を抱く。
とりあえず、この手の中にあるカップをすごく投げつけたい。


「そうだ!にらめっこして遊ぼうよ!オイラ得意なんだ!ナツもすごいんだよ!」
「………にらめっこ?……確か、面白い顔を見せて笑ったら負けって遊びよね…。」

「ん?もしかしてルーシィやったことないのか?」
「…うん、本でそうゆう遊びがあるってことは知ってたんだけど。」

「じゃあ、オイラ達が初めてだね!ルーシィの初めてはオイラがもらうよ!」
「そのセリフ、ハッピーじゃなかったら違う風に聞こえちゃうわね……。」

「ルーシィ、エロいな。」
「あい、昼間から卑猥だね。」

「あんた達…どの"初めて"を想像してるのよ!…いや答えようとしなくていいから!?」


突っ込んだ途端、答えを言って退けようとするナツとハッピーの口を慌てて塞ぐルーシィ。
いつも想像の斜め上を行くこのコンビだから、なんて答えようとしたのか確証など持っていないのだが、
それでも反応に困る単語が返ってくるかもしれなくて……。


「自分から言っておいて、なんだよ。」
「あいルーシィはムッツリスケベだね。」
「…はぁ………なんとでも言って。それで?三人で同時にするの?」

「違うよ!だから、ルーシィの初めてはオイラがもらうの!あと、オイラ達がやってるのはちょっとルールが違うんだ。
どんな顔しても何してもいいんだけど、笑ったり目を逸らしたら負けだからね。」

「何してもいいって、くすぐったりしてもいいの?」

「あ、相手に手を出したら負けだよ。でも、しゃべりかけるのはアリ。物を使って笑わしたり目を逸らせるのもアリだよ。」

「ふぅん。わかったわ。やりましょ。」

「よーし!オイラ負けないぞ!!」


「「にーらめっこしましょ♪…あっぷっぷ!」」





「……ハッピー?今日の晩御飯に魚のフルコース作ってあげよっか?」


早速、目を合わせたまま話しかけてハッピーを揺さぶろうとするルーシィ。
しかし、ハッピーは表情を変えずルーシィの言葉にピクリと耳を揺らすだけだった。


「ルーシィってかわいいよね。」
「え………………そ、そう?」

「うん。オイラ猫だけど、もし人間だったらルーシィのこと好きになっちゃったかも。おもしろいし、かわいいし、やさしいし、
すっごく魅力的だと思うよ。きっとすごい美人なお嫁さんになるんだろうなー。」
「な、何言ってるのよ。…そ、そんなことー////」

「「はい、ルーシィ負け。」」
「……は?」

「ルーシィ弱すぎだろ。そんなんじゃオレには勝てないぞ。」
「あい、瞬殺できそうだね。なんでもすぐ鵜呑みにするんだから。」

「ちょ、ちょっと、今の…………え?」

「よーーし、じゃ次はオレとやるぞーー♪にーらめっこしましょー♪」
「わ、わ、っちょっと待ってって!」


ルーシィの要求を聞かずに始まった、第二回戦。
ナツからあっぷっぷ、の掛け声が聞こえたと同時にルーシィの顔は強張る。
次は何を言われても絶対ににやけない。でもナツから褒められたりすることなんて…もし、かわいいとか言われたら……
ルーシィは想像でにやけそうになる。
平静に。平静に。これは遊びだから鵜呑みにしちゃだめ。
ルーシィは自分に言い聞かせ、ナツの瞳を睨みつけるように見返す。
ナツは、テーブルに頬杖をついて顔を斜めに傾けたままルーシィを見つめている。

ただ、見つめているだけ。真っ直ぐに。

ナツの真正面からの視線にルーシィは体に熱いものが駆け巡っていくのを感じ始めた。
心拍数が上がっていく。心なしか頬も熱い気がする。

(ナツの目。大きくて、目じりが吊り上っていて……猫の目みたい。)

ルーシィは、ドキドキと内側から叩く振動を抑えようと胸に手を持っていく。
それと同時にナツも動き始めた。
ルーシィの目を見つめたまま、じりじりとこちらににじり寄ってくる。
ナツの瞳に映る自分が、大きくなっていく。
ナツは、ルーシィの両側を、自身の両足で挟み込むように座った。


……ドサッ


ルーシィは、背もたれにしていた背後のソファが重みを受けて音を鳴らすの聞いた。
ナツが、ルーシィの両側に手をついている……?
そして頬杖の形にもっていこうとしているのか、そのまま片手の肘を折り曲げ、
ルーシィの背にあるソファに肘を置こうと、更に近づいていく。

目は逸らさない。真っ直ぐに見つめられる。そしてどんどん近づく。


(お…落ちついて、こ、これは遊びよ、目を逸らしちゃ負けになる!)


自分に言い聞かせ、負けまいとナツを睨みつけるルーシィ。
目が泳ぎそうになるのを必死に堪えるルーシィには、ナツに仕掛ける余裕がなかった。
いや、逃げ場すら既に無いのだ。
笑ったら負け。目を逸らしたら負け。手を出したら負け。
このルールである以上、両手両足を使ってナツに囲まれているルーシィに逃げ場はもうない。
避けようと手を出した途端に負けは決まる。
その事実にルーシィは今気づくことができたが、既に遅すぎた。


(どうしよう……!てゆうかこの状態!……無理!!)


ナツは、ルーシィを両手両足で閉じ込めて何も言わず見つめているだけ。
髪も、額も、睫も、触れそうで触れない。でも、吐息は触れる。
このまま意識を手放したいくらいにルーシィにはこの状況が耐えられない。
何分経っているのだろうか?
なぜナツはずっとこんな距離で見つめ合うことができる?
一応、異性でかわいいとそこそこ人気もあるはずの自分に、こんなに近づいて、
何も感じないのだろうか。だんだんとルーシィは腹立たしく感じ始めていた。


「……ナツ。」
「…なんだよ。」


返ってくる声は小声だからか、いつもより低く大人っぽい。そしてすぐ傍で聞こえる。
それにドキリとする自分が悔しくなり、ルーシィは唇を噛んだ。
なんかもう、勝ち負けはどうでもいいからコイツを懲らしめてやりたい。
ルーシィはあらゆる攻撃手法を考え、巡り巡った思考の中である一点に辿り着く。


「…ナツ。」
「だから…なんだよ、るー!??」


ルーシィは右手でナツのマフラーを掴んだかと思うと思い切り引き寄せた。
引っ張られた加減でナツの顔が左に傾く。
ルーシィの突然の行動に驚きながらもナツは、ルーシィの目を逸らさないように傾いた角度を直そうとした、
と同時に、少し湿った柔らかい感触が唇に広がる。


「「……っ!?」」


二人は同時に反り返り、ハッピーが目を見開いてカチンと固まった。


「な、なにすんだよルーシィ!!」
「…なんでこっち向くのよーーー!頬に!そこじゃない!そこじゃなかったの!そうゆうつもりじゃなかったのぉおお!」

「るるるルーシィとナツが!!ちゅーーーしたぁああ!……に知らせなきゃ!」

「ど、どこ行くんだハッピー!?待て!今のは誰にも言うなっー!」
「ハッピー、誰に知らせるって!??今のは違うの!お願い!なかったことにして!見なかったことにしてぇー!」


ルーシィとナツは、どこかに飛び立とうとするハッピーの手足をがっちり掴む。
よく見ると二人とも耳から首まで真っ赤になっている。


「ルーシィのばかやろぉ!今のはルーシィの負けだからな!!」
「わかってるわよ!でもなんで最後まで目逸らさないのよぉ!普通あそこまで近づいたら目閉じるでしょ!頬に!寸止めするつもりだったのに!」

「いや、マフラーに触った時点でアウトだろが!どうしてくれるんだよ!うわぁああ…感触が焼きついて離れねぇえ……。」
「ばっ……ばか!!は、早く忘れなさいよ!忘れてぇー!!」


ナツは、唇に残るルーシィの感触を拭い去ろうと手の甲でゴシゴシ擦る。
ルーシィは、ナツに感触を忘れさせようとナツをバシバシ叩く。
二人はハッピーを離してしまっていた。


「早く…ギルドに行かなきゃ!!全速力!!!」

「うわわわ!しまったハッピー待て!」
「ハッピーお願い!待って!」


ナツとルーシィが慌てて窓から飛び出すハッピーを掴まえようとするもののハッピーの全速力に勝ることはできない。
一瞬で遠く消えていったハッピーの軌跡を呆然と見ていた二人に遠くからハッピーの叫びが、山彦のように聞こえてきた。


≪ みんなぁあああ!ルーシィがナツにぃぃいチューーーーしたぁああああ!!! ≫


「うわぁぁあああ!!!ハッピーやめろぉおお!!!」

「いやぁあ゛あ゛あ!!!にらめっこなんて!…もう絶対にしないぃーー!!……うわぁああ゛あ゛ーーーーーーん!!」





【終】


その遊びに飽きてきたら独自ルールをつけて遊ぶとゆうのが子供の頃の習慣でした。
UNOなんて地方ルールがありすぎて皆のルール全部入れてやったら大混乱でしたけど(笑)
にらめっこも独自ルールがあると結構長く遊べるんですよー。
相手がムキになってきた時が一番楽しくて、その様子を見てニヤけて負けるのがchoコです。

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