恋するということ(デイダラ)

 

とある任務後。時は0時頃だろうか。珍しく疲労していたオイラは誰もいない居間に入り、椅子へ腰掛けた。そこまでは記憶があるものの、自分でも気がつかない内に眠ってしまっていたらしい。
暫くしてから、ふわりと掛けられた何かが刺激となり目覚めると、そこにいたのは椿だった。驚いて飛び起きれば、椿は微笑んでいた。

「おはよ、デイダラ。まだ真夜中だけどね」
「こんなところで寝てたのか……。って、お前は何してんだよ、こんな時間に。うん?」

真夜中だというのに椿は一体何をしていたのだろう。昨日は任務でもなかった筈だし、普段ならとっくに眠っている時間だろうに。
ふとオイラは椿が手に持っているブランケットが目に入った。もしかしてそれを掛けようとしてくれていたのだろうか。ふわっとした物が掛けられて、それで目覚めた気がする。オイラが起きたから慌てて避けたのだろうか。椿はブランケットへ目を向けるオイラに気がつき、軽く俯いた。

「デイダラが風邪引いたら大変だと思って。でも返って起こしちゃってごめんね?」
「……いや、いいんだ。悪かったな、うん」

ブランケットを畳む椿を、まだ寝起きでぼんやりした頭で眺めていた。オイラが部屋に戻っていないことに気づいて居間を覗いてくれたのかもしれない。

「デイダラがこんなところで寝るなんて珍しいね。疲れたんじゃない?」
「まさか寝るとは思わなかったんだがな……久々にこんなに疲れたな、うん」
「まぁ無防備な寝顔が珍しくて、可愛かったけどね」
「なっ……」

平然とした態度で可愛い、なんて言ってきた椿に驚いて開いた口が塞がらない。男のオイラに向かって可愛いってなんだよ。おかしいだろ!
心の中で盛大に反論するが、それでも何故か嫌な気はしない自分にも驚いてしまう。

「デイダラは可愛いよ。かっこいい所ももちろんあるけど。私、やっぱりデイダラが好きだなぁって思った」
「は……?」
「私、デイダラが好き」

真剣な表情で、真っ直ぐ目を見て告白してきた椿。嘘だとか冗談なのかと一瞬疑ったが、余りに真剣な顔に本当なんだと察した。ぼんやりしていた頭が急に冴えたのがわかった。
急に告白されても、どう答えて良いのかわからない。椿のことは大切だしオイラだって好きだけど、椿の好きと同じなんだろうか。今まで恋とは程遠い生活をしてきたせいで、恋するという感情がわからない。こんなに情けない話、あるだろうか。

「困らせてごめん。でも返事はいらないよ。私が伝えたくて伝えただけだから……気にしないでね!」

満面の笑みでそう言う椿。返事のないオイラをどう思ったのだろうか。呆れてしまっただろうか。椿に嫌われたらすげえ悲しいけど、それは恋ってことになるのか?仲間には誰だって嫌われたくないもんだよな。……あーっ、わからねえ!
頭の中でごちゃごちゃ考えていると、混乱から爆発してしまいそうになる。

「それじゃあ、おやすみなさい。デイダラ」
「……ああ、おやすみ」

そう言い残して椿は自室へ戻ってしまった。本当は返事をしてやりたい所だったが、何せオイラは自分の気持ちも理解出来てないのだから、返事をする資格もないのかもしれない。
それにしても恋ってなんだ。抱きたいとはまた違うよな。ただの好き、とはまた違うんだよな。きっと。このモヤモヤする気持ちをどこにぶつければいいのだろうか。恋についてわかる人物は暁にいただろうか。うーん、と首を捻り考えた結果、ある人物の顔が浮かび、早速明日相談しようと心に決めたのだった。








「恋、ね…」

翌日、足早に雨隠れの里へ向かった。オイラが相談相手に選んだのは小南だった。小南と話すと何故かリーダーの視線が気になるのだが、そんな事を気にしてはいられない。何とか二人にしてもらい、ざっくりと昨晩の出来事を話した。そして恋とは何なのか問いかけた。暁で数少ない女メンバーの小南なら、恋の一つや二つわかるのではないかと期待していた。

「デイダラからそんな話が出てくるとは思わなかったわ」
「そんなのオイラだって思わなかったぞ……うん」
「恋って一言で簡単に説明出来るものじゃないわね。でもあなたが椿に恋しているのか確かめる方法ならあるわ」
「っ、そんな方法があるのか、うん!」

早く教えてくれ、と急かすと小南は微笑を浮かべ、

「イタチがね、椿のことを好きみたいなの」

そうとんでもない事を言い出したのだった。オイラは驚きに目を見開き、一瞬言葉が出てこなかった。それと同時にフツフツと湧き上がる怒り。イタチに椿を取られたくないと思う強い気持ち。そんな心情が顔にも出ていたらしい。小南は満足げに微笑んだ。

「どう?腹が立って椿を取られたくないと思ったんじゃないかしら」
「っ、すげえ、何でオイラの気持ちがわかるんだ、うん!?」
「それが恋だからよ。椿を誰にも取られたくない、自分の物にしたい、守りたい、側にいたい。自然といつも椿の事を考えている……そういう感情があるなら、それは恋よ」

驚きだ。小南は恋のプロだろうか。的確なアドバイスに納得出来た。いや恋のプロってなんだよ、と自分に突っ込んだ。

「ちなみにイタチが椿を好きなのは嘘よ」
「はぁ!?」
「あなたを試しただけ」

お、恐ろしい…流石小南だ。けどイタチが椿を好きな訳じゃなくて良かった。事実を知り心底安心している自分に驚く。オイラはいつから椿に恋していたんだろう。全く気がつかなかったし、椿が告白してくれなかったら一生気づくことのない感情だったかもしれない。

「早く椿に伝えてあげなさい」
「おう。小南、ありがとな!うん」

小南に礼を伝え、オイラは走ってアジトにいる椿の所へ向かった。恋だと知れた今、この気持ちを早く伝えたくて堪らなかった。オイラがあんな態度を取っちまったから椿はもう呆れちまったかもしれないけど、それでもちゃんと伝えたかった。

暫し走り、オイラは椿の部屋の前にいた。今日、椿は休みだった筈。ここへ来て急に襲いかかる緊張感。今から告白するという初めての経験に直前になって緊張してきたようだ。ったく、任務ですらそう緊張することはないっていうのに……。
深呼吸を数回し自分を落ち着かせる。そうしてようやく恐る恐る扉を軽く叩くと、扉越しからすぐに椿の可愛い声が聞こえてきた。

「はーい」

ひょっこりと顔を出した椿は、オイラの顔を見て驚いたように目を見開いた。まさかオイラが訪ねてくるなんて思いもしなかったんだろう。しかも昨日の出来事があったから、尚更。意を決してオイラは口を開いた。

「ちょっと話あんだけど、いいか?うん」
「へ……、あ、うん。どうぞ」

驚きの余りあんぐり顔になっていた椿を、愛おしいと感じながら招かれるがまま部屋へ足を踏み入れた。そういえば椿の部屋に入るのは初めてだが、女らしい綺麗な部屋だった。
適当に腰掛けると、何故か向かい合わせになるように座る椿。目の前にいると益々緊張するが、こういう大切なことは目を見て伝えなければならない。

「えっと……昨日の事なんだが、何も返事する事が出来なくて悪かった、うん」
「え、いいよ。私が返事はいらないって言ったんだし……」
「いや……それに返事はしたかったんだ。けどオイラはこの歳になって情けねえんだが……恋の意味がイマイチわかってなくてな、」

そこまで話すと堅い表情だった椿が、和やかな表情になった。愛おしげにオイラを見つめ、何だか照れ臭くなって頬を掻いた。

「けど今日、やっと分かったんだ。昨日までは気づけなかったが、オイラもずっと椿のことが好きだったって事に。意識せずともいつもお前のことを考えてた、うん」

だから、と言葉を続けようとすると、目の前の椿が勢いよく抱きついてきた。まさか抱きついてくるとは思わず、おっと、と後方へバランスを崩しそうになり床に手を着いた。

「嘘じゃないんだよね?夢じゃないよね?デイダラの言葉、信じていいんだよね?」

いきなりの質問責めに戸惑いながらも必死に頷き答えた。夢な訳あるか。オイラが覚悟決めて告白したんだ。夢だったら爆破してやる。
オイラの肩に顔を埋める椿が愛おしくて堪らないのと同時に、高鳴る胸。新たな経験に狼狽えてしまいそうになるが、必死に冷静を保っていた。

「オイラとつきあってくれるかい?うん」

その言葉にようやく抱きついていた腕を緩め、オイラの顔を間近で見つめて「はい」と綺麗な笑顔で答えてくれた。余りに綺麗な顔に、堪らずオイラは口付けた。そんなオイラに一瞬驚いたようだったが、椿も答えるように目を閉じた。それを合図に再び口づけ、椿の頭を優しく撫でた。

「デイダラ、大好きだよ」
「オイラも……大好きだ」

世界で一番好きな奴と結ばれるっていうのは、こんなにも幸せなことだったのか。今まで知らなかった、堪らない程の幸せを噛みしめた。
犯罪者であるオイラが恋をすることが出来たのは、こんなに大きな幸せを与えてくれたのは、椿がいてくれたからだ。アートとは比べ物にもならない。オイラに幸せを教えてくれた椿には、感謝しかない。

椿を一生かけて大切に、幸せにして、どんな敵からも守ってみせる、と心の中で決意したのだった。



fin




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