−それでは私のナンバーワンは…私はどうなるというのだッ…!?

「ナンバーワン?この期に及んでまだそんなこと言っているのか」
「アンタ、俺たちがどんな思いでアンタに従ってたのか分かってないだろ」
「アンタはもう隊長でも何でもなくなる。アンタの命令に従う義務も義理もない」
「東のミカド国へ戻ったら覚えていろよ?
”元” 隊長さん」

フリンの演説後、怒号じみたそれでいて悲しみも含んだような悲痛な声をあげたガストンに今までガストンを東の十字軍隊長と従っていた隊員たちがそれぞれ今までの我慢をぶつけるかのように吐き捨て人外ハンター商会を出ていった。

「ガストンそう気を落とすなよ。そうだ、お前もフリンが言ってたみたいにここに残れば−」
「黙れ!私に慰めの言葉など不要だ!」
呆然と東の十字軍隊員が出ていった商会の出口を見つめながら立ち尽くすガストンに気を使ってか、明るく声をかけたハレルヤだったが、言い終わる前にガストンの怒号で遮られた。

…私は命令通り、東京を去る。

そう言ったガストンにこれからも仲間として一緒に残りルシファー、メルカバーを討伐すると思っていた仲間たちは驚きそれぞれ声をかけていたが、ガストンの心はもう仲間たちの言葉では動かず、意思は変わらないようだった。
そうガストンは言い残し商会の出口に向かおうと足を向けた時だった。

「ガストン隊長」

騒がしい商会の中に凛とした声が響く。
その声がした方にガストンや仲間たちが一斉に振り向くと、そこにはもう誰も残っていないと思われた白い東の十字軍の制服を着た小柄な女性が立っていた。

「君は…」
「名前です。…と言ってもただの隊員。一人一人の名前など一々覚えてはいないとは思いますが…」
「何故君はここに残っているのだ。他の隊員と同じように私を置いてここから出ていけばいいだろう!」
キッと名前…そう名乗った少女を睨みつけ怒号を飛ばしたガストンに臆せず声と変わらず凛とした表情のままガストンを見据えていた。
「わたしは…わたしはガストン隊長について行きます」
「!?はぁ?君は何を言っているのだ…!」
「だから、わたしはガストン隊長について行くと行って−」

「そうではない…ッ!」
ガストンがそう大きな声を出したため辺りはしんと静まった。
「何故だ…!何故私についていくというのだ!?もう私は隊長…ではなないのだぞッ!?君はもう、なにも、私に従う義務も義理もないのだぞ…!」
「…義務や義理で言っているのではありません」
「なに…?」
「わたしは、わたしは自分の意思でガストン隊長について行きたいと−」
「もう”隊長”と呼ばないでくれたまえ!君は何を言っているッ!?義務や義理ではなく私についていきたいだと!?馬鹿馬鹿しい!もう私に構わないでくれ!私はもう出ていくッ!」
「あ…」
手を伸ばしかけた名前の手を振り払うかのよう、荒々しくガストンは商会を出ていった。

「アナタ…」
伸ばしかけた手をそのままに固まっている名前とガストンと名前のやり取りを唖然とした表情で遠巻きに眺めていた仲間たちだったが、ふと我に返ったノゾミが恐る恐る声をかけた。
「ガストンがごめんなさいね。ガストンもいっぱいいっぱいでアナタにあんな酷い態度を…ええと、名前さん?だったかしら?」
「…あっ、はい。隊長も本心で言っているとは思っていないので大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
「本心じゃない…?何故そう思えるの?」
声をかけたノゾミの声で我に返った名前が、ノゾミや仲間たちの方を向き微笑んだ。
「ずっと…ずっと隊長…ガストン隊長を見てきたから。」
そう答えた名前の瞳は何かの意思が篭っているように強く輝いていた。
「…?そ、そう。でも名前さん気を落とさないでね。」
「そうだよ!本心じゃない?とは言ってもあんな酷いこというなんて…ガストンの事であまり思い悩まないでくださいね…?」
「ありがとう。ノゾミさん、アサヒさん。」
名前の言葉に少し疑問を覚えたノゾミだったが、ノゾミの後ろから声をかけてきたアサヒと名前のやりとりを見ていたらその疑問は薄れて消えていった。
「あら。私たちのことを知っているのね?」
「有名人ですから。東のミカド国にもあなた達…ナナシさん達の噂は聞こえてきますよ。」
「へぇ…俺達のことそんなに噂になってんのか」
「ええ。今凄い勢いで強くなってる新人人外ハンターがいるって。フリン奪還や多神連合を討伐したその新人人外ハンターがこんな…男の子だったなんて。」
会話に入ってきたナナシを見た名前はニコリと笑った。
「ちぇっ、子供扱いかよ。」
「気を悪くしたらごめんなさい。そんな凄いことを成し遂げた人だから、もっとゴツイ筋肉ムキムキのマッチョマンかと思ってたの。」
「ブッ…!」
少し茶目っ気を含んだその言葉に一同は思わず噴き出しその場が笑いに包まれた。
「ぷっ…ははっ!名前さんって面白いな!ガストン相手に怯まず堂々としてるからもっとクールな人かと思ってたぜ!」
「それはどうも…?あっ、わたし、ガストン隊長を追って東のミカド国に戻らなきゃ。ごめんなさい。」
「ガストンを追うのか…?」
「ええ。それじゃあみなさん、頑張って。…お互いね。じゃあ、また。」
目尻に涙を浮べ話しかけてきたハレルヤとトキとの会話をそこそこに、ナナシ達に一礼し颯爽と商会を後にした。

「ガストンって東の十字軍の隊長全員に恨まれてると思っていたけど、意外と慕ってついてきていた人もいたんだなあ。しかも女の人なんて。」
「何故だッ!何故女性なのだ!?ガストンにあんな可愛らしい女性が側にいて、しかも慕ってついて行くだなんてなんて健気じゃないかッ!羨ましい!私にもあんな女性が…ぶつぶつ。」
名前が出ていった出口の方を見つめながら、各々名前の感想を口々にする仲間たちだったが今はそうぐずぐずしている場合ではない。
今からルシファー、メルカバー討伐…三種族の最後の戦いが始まる。
ナナシ達は名前のことを頭の片隅に置き、これから始まる戦いの準備を始めた。

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