beautiful monster3 | ナノ



アイツは俺にとって特別。
けれど、アイツにとっての俺は何だろう…?

分からなかった。

そして、それから何年か経った後…あれは小学4年生の頃だった。
俺達の関係に大きな変化が訪れようとしていた。

ある日、近所で有名な廃墟に勝手に小学校の帰りに俺とシンを含めたクラスの男4人で忍び込んだ。
蔦が絡まり、窓硝子も割れていて今にも崩れそうな洋館は幽霊が出るって噂で見に行こうって話しになったんだ。

「つか、マジで中暗すぎじゃん」

「ほんとだよ。懐中電灯でもあんまりわかんねえし、すっげぇ汚い」

連れの二人がヒビりながら、口々に文句を言う。
中に入ると予想通りの荒れ具合。
全体は埃っぽく、シャンデリアや天井は沢山の蜘蛛の巣で覆われていて、床は抜けている部分があったりそこらじゅうに瓦礫が散乱していた。

「レイ、ほんとに大丈夫?」

シンの声にも不安が滲む。

「んだよ!ほら行こうぜ!」

先頭の俺がズンズンと2階へ向かうために階段を登る。皆も後に続く。

バキッーーーーー

すると、突然大きな乾いた音がした。
振り返るとシンの身体が乗っていた部分の階段が崩れて、そのまま下へと転がり落ちてしまった。

「「「おい!大丈夫か!?」」」

慌てて駆け降りて、三人で奴の身体を起こす。

「おい、シン怪我してるぞ!」

連れの一人が

「大丈夫。こんなのかすり傷だよ」

シンは笑っているけれど、長袖の腕の部分にはどんどん血が滲んでくる。
袖をめくるとぱっくりと皮膚が裂けた大きな傷が出来ていた。

「やべぇよ…」

「これ以上は無理だ…」

残りの2人が幽霊の仕業だと怯え始める。

「とりあえず、俺、シン送ってくわ」

結局すぐに洋館を後にし、俺はシンを送ってお姉さんに事情を説明してから家へと帰った。
申し訳ない事をしてしまったという気持ちでいっぱいだった。


次の日の朝、いつもの通学路でアイツと待ち合わせる。
よく晴れた朝の青い空は、俺には眩しすぎて俯く。
待ち合わせ場所の交差点でもやもやとしたままアスファルトを見つめていた。

「レイ、おはよ」

すると、見慣れたアイツの靴が視界に入ってくる。

「おはよ…昨日、ほんとごめんな…」

慌てて顔を上げて開口一番に謝る。

「大丈夫だから気にしないでよ、レイ」

そう言って、何でもないように笑うシン。
なんだかその笑顔が嘘くさくて、釈然としない気持ちになる。
これ以上近づくな、詮索するなって言われてるみたいで…

「おまえさ、そうやって言うけどホントは痛いんだろ?」

とげとげしい言い方をしてしまった。

「痛くないよ?」

意に介せず平然としているコイツにカチンときた。

「嘘つけ!見せろよ!」

「止めろよ!」

珍しく大声を上げて嫌がるシン。
なんだか、やせ我慢してる様でそれが更にイラつかせてムキにさせる。
俺は親友なんだからホントの事を教えて欲しいって、若干逆切れしながらアイツの腕をつかんだ。
自分の目で傷を確かめたくて、アイツに白状させたくて、シンのチェックの長袖シャツの袖をめくった。

「…あれ?なんで…?」

自分の目を疑った。
そこにはあるはずの傷がなかった。
うっすらと皮膚がピンク色をしている部分が確認できて、かろうじて何か怪我をした痕だけが残っている。
けれど、俺も他の奴もあれだけ血が出てたのははっきりと確認したし、そんなものが一晩で消え失せるはずがない。
けれど…

「だから言ったじゃん!大したことないって!」

俺の手を振り払い、慌てて腕を隠すシン。
頭が混乱する。

「でも、昨日のあれは…」

こんな風にすぐ治るもんじゃないだろ――――

そう言いたかったけれど、シンは俺を置いてパタパタと小学校の方へ走っていってしまった。
俺はただ呆然とその姿を見つめるだけ。
足もクラスで一番速いし、普段の俺なら追いつく事なんて簡単だけど足が動かなかった。

あまりに遠い。

それは、今に始まった事じゃなくて、出会った頃からずっと感じていた事。
こんなにそばにいるはずなのになんだかアイツがいつもに遠くに感じて、子供ながらに疑問を感じていた。

そして、俺には言えない何かを隠している事は確信へと変わった。


加えて、シンにとっても俺が”特別”となる事件が起きたんだ。


体育の時間に体育館でバスケットをしていた時だった。

「おい!シン!!」

別のコートで試合をしていたら、もうひとつのコートからそんな叫び声が聞こえた。
びっくりしてその声の方向を見るとアイツが倒れていた。
酷く顔色が悪く、青白くて汗がびっしょりとシンの肌を濡らしていた。

「大丈夫か!?」

「先生、俺、保健室へ連れてきます!」

そう言って、シンの左腕を左肩に乗せて肩を貸して廊下を歩いていった。

「先生、シン大丈夫かな…?」

「そうね。多分、貧血だと思うからこのまましばらく寝てれば大丈夫だと思うわ」

保健室のベッドに寝かせ、保健室の先生に不安を溢すと先生は安心させるように俺の頭を撫でた。

「私、ちょっと出かけないといけない用事があるんだけど、柏原君、斎藤君についててもらってもいいかしら?」

「はい。大丈夫というか、むしろついていたい」

「わかった、じゃあよろしくね」

そう言って、先生は保健室を出て行った。
消毒液やアルコール、薬品の入り混じった何ともいえない鼻につく匂い。
ベッドで眠っているシンの顔を傍らの椅子に座ってずっと見ていた。
真っ白なカーテンで仕切られた、人工的な真っ白な空間。
少し硬くてなじまないベッド。
授業を受けて毎日の生活の一部である学校のはずなのに、此処は別世界なのではないかと錯覚させるように妙に現実味がない。
隔離されたこの空間で、俺はそっと自分の顔をシンの顔に近づける。
さっきまでとは違い、穏やかな顔で寝息を漏らすその唇に自分のそれを重ねようとした。

「…レイ」

寝言のような微かに聞こえる俺の名前。
すると突然、シンが目を開いた。
いつものアイツと違い、鋭くキツイ眼差しで俺を射抜く。
すると、そのまま俺の服を引っ張り自分の方へ引き寄せる。
バランスを崩して俺もベッドへ倒れこむような形になる。

「痛…!?」

すると首筋に激痛が走る。
何かとても鋭いものが俺の皮膚を裂いて侵入してくる。
そのまま、力が抜けてきた。
俺が流れ出ていく感覚に身体が痺れる。
初めて味わうこの奇妙な感覚に恐怖を覚える。

「何すんだよ!!」

そして、動物的な勘が危険信号を発し、本能的に奴を突き飛ばした。

「…レ…イ…」

乱れた呼吸を整えながら、視線をシンの方へ向けると、今までにない姿を見た。
口許に伸びた牙、唇の端から滴る血液が一筋の線を描いている。
シンの瞳は怯えて震えていた。

あぁ、そういう事だったんだ。

頭の悪い小学生でも分かるような実に単純で明快な答えがそこにあった。

だからあんなに綺麗だったんだ。
だからあんなに人間離れしていたんだ。

シンの抱えていたものと距離感の意味を知った。

「うわあぁぁ…!」

アイツは泣きながら、ベッドを飛び出してそのまま何処かへと行ってしまった。


prev/next

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -