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何処まで逃げても無駄だよ。

僕は必ず探し出して捕まえる。

君の匂いを嗅ぎ別けて、まるで細い糸を手繰り寄せる様に近付くんだ。



「「「社長、お疲れ様です!」」」

「あぁ、お疲れ様!また今日も残業?あまり無理し過ぎない様にして下さいね」

仕事を終えて、退社をする際にすれ違う社員皆から挨拶をされる。
僕ももちろん挨拶を返すし、労いの言葉も忘れない。

「おあいて社長、いつみても素敵よね」

「ホント!あんなにカッコイイのに真面目だし。浮いた噂もないものね」

そんな僕を見た女子社員達の反応に、人知れず口角があがる。

完璧だーーー

"能ある鷹は爪隠す"

なんてことわざがあるけれど、僕はそれを地で行っていた。
擬態して本性を隠して、そしらぬ草食動物どころか高貴な聖者のふりをして生活している。



「ただいま。なまえ」

「おかえりなさい、おあいて」

高級物件と名高い自宅のマンションに帰宅すれば、飼っているペットのなまえが出迎えてくれた。

それを見ると安心する。

僕にとって唯一の女であり獲物だからだ。

出迎えた君を玄関で抱きしめて、深くキスをする事は最早、毎日の日課となっていた。


「なまえの料理はどれも美味しいね」

「ありがとう」

「今日はね、会社で会議中に突然さ…」

スーツを脱いで、ジーパンにニットというラフな格好でダイニングへ向かえば、既に食卓には彼女が作った料理が並んでいた。
2人だけのディナーが始まる。
今日一日の僕の話や、今度の週末のデートの話題で盛り上がる。
彼女は僕の話をいつも嬉しそうに微笑んで聞いてくれて、それが心地よかった。

この生活が始まってからは、なまえの手料理以外は食べる気が起きなくなっていた。
仕事の付き合い以外で、外食をする事はほとんどなくなった。

その位、このなまえとの生活は僕にとって幸せなんだ。
 

そんな大切な彼女との出会いは大学時代に遡る。
同じサークルの同級生で一度付き合っていたけれど、なぜだか僕は振られてしまった。
当時から彼女を深く愛していたから心配で、毎日毎日何度も連絡をしたり、逐一誰と何処にいて何をしてるのかも報告させる様にしていただけだったのに…

どうしてかわからなくて、納得がいかなくて、その後も頻繁に連絡をしたり、待ち伏せしたりして復縁を迫ったけれど、決して彼女は首を縦に振らなかった。

しかも、そんな僕の気持ちを知りながら、今度は後輩と付き合い始めてしまった。
奴はガードを固めて、僕からなまえを遠ざけたんだ。

けれども、僕は待ち続けた。

そう、ずっと。
まるで、草むらに伏せて獲物を狙う獣の様に。
息を殺して、存在を消して。

そりゃ、時には他の女の子をつまみ食いする事はあったけれど、それじゃ飢えを満たす事は出来なかったんだ。
そして、その度になまえじゃないと駄目だと思い知らされた。
いつも、彼女の影を追って彷徨っていた。
まるで、歯を剥き出しにして涎を垂らしながら血に飢える狼みたいに渇望していた。

そんな最中、社会人になって何年か経ってから彼女の両親の経営する会社が傾きかけていると知ったんだ。

これ以上にないチャンスだと思った。
今度こそ仕留められるって。

この時ほど、自分の家に感謝した事はなかった。
いわゆる財閥の御曹司で、子会社の社長だったから、資金力は有り余っている。

彼女に会社の援助の代わりに申し出た条件は僕のペットになる事。

なまえは二つ返事でそれを受け入れた。

逃げられた獲物を再び手に入れた瞬間だった。


「まだ、アイツの事忘れられないの?」

「…んっ」

すでに半分勃っている雄を舐めさせる。
毎日奉仕するペットの舌使いも慣れたもので、ちゃんと主人である僕のツボをついている。
それに満足感が込み上げ、脈打ち大きく膨らむ。

「ずっと見てたよ…僕のなまえ…」

懸命に奉仕する恋人の頭を優しく撫でる。

そう、部下に調査させて、毎日の君の行動を追っていた。
だから、後輩と相変わらず上手くいってる事も、会社でも結果を出して順調にキャリアを積んでる事も何もかも僕は知っていた。
スマホにもなまえの画像フォルダがあって、そこには何千枚という写真が記録されている。
会社や自宅のパソコンの壁紙も君で、いたるところになまえの存在が感じられる様にしてある。

お気に入りは友達の結婚式に出席している君の写真。
ドレスアップして普段より華やかな美貌を振り撒き、おまけに自分の幸せであるかの様に他人の幸福を祝っている笑顔が印象的だった。

けれども、それは標本と同じで綺麗に整えられて飾られている死骸と何ら代わりない。

足りないよ
それだけじゃ

言葉を交わす事も触れる事も許されないのであれば意味が無い。
君の匂いをそのしなやかな肉を触れて感じて自分だけのものにしたいんだ。

恍惚に浸りながらそんな事を話して、なまえの喉の奥に熱を打ち付ける。もちろん、僕の放った熱はそのまま彼女の喉の奥へと流れ込んでいった。

「おあいての…そういうところが怖かった…だから私は…」

それ以上聞きたくなくて唇でその口を塞ぐ。
自分の欲望の痕跡が残っていて、苦い味がした。

「なんで?僕はただ、君を愛してるだけだ。
  求めてるのはなまえだけなんだよ?」

そう言って、自身を彼女の中に埋め込んだ。

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