キラーチューン1
「え〜!なまえ、カラオケ行かないの?」
「うん。今日は帰るの」
ゼミの忘年会の二次会が終わり、店の前で皆と集まっていた。
賑わしい繁華街―――
ネオンが光りサラリーマンや若者で活気が溢れているけれど、夜も更けてかなり気温は下がり、友達と話をしているだけでも息は白くなる。
あまりの寒さに、早く解散して帰りたいなぁなんて思っていた。
「あ〜!しまった!」
すると、同じゼミ生のおあいて君の大きな叫びが聞こえてくる。なんだか慌ててるみたい。
「おあいてどうしたんだよ?」
友達との会話もそこそこに、その声の聞こえた方へ視線を向けると、酔っぱらいで上機嫌な彼の親友のおあいて2君がいつもみたいに彼に抱きついている。
「終電逃しちゃったんだよ!マジでヤバイ!」
「なんで?これからカラオケでオールだからいいじゃん」
「ばか!明日朝からバイトだから帰らないとヤベェんだよ!お前が酔っぱらって絡んでくるから…」
子泣きじじいみたいに背中に張り付いているおあいて2君をひっぺがして、しまったと頭を抱えている彼。
「あ、なまえちゃん!」
私に気づいた彼の親友が手招きする。
「どうかしたの?」
呼ばれるがまま、他のゼミ生を掻き分けて2人の元へ足を運んだ。
この2人はグループワークが一緒で仲良くなったこともあり、プライベートでもご飯に行ったり遊んだりする男友達。
「確かなまえちゃんのマンションってここから近いよね?コイツの事泊めてやってくれない?」
彼らの元へたどりついた途端、おあいて2君がいきなりとんでもない提案をしてくる。
「えっ…?」
「ちょっ…!お前!」
いきなりのお願いに驚いて固まっていると、当事者のおあいて君も驚いている。
「だって、おあいてが終電ないって困ってるからさぁ…」
「なまえちゃんも困ってるだろ?さすがにそれはまずいって。ごめん!冗談だから気にしないで!」
私にニコニコと笑いかけているおあいて2君を遮って、両手を合わせて謝ってくる。
「でも…ほんとに困ってるんだよね?」
「だからって、女友達の家に二人きりで泊まる訳にはいかないでしょ?」
「大丈夫だよ?私も今日はこれで帰るから」
そう申し出るとびっくりして私を見つめる彼。
「おあいて君は仲良いし、ただ寝るだけならいいかなぁって思っただけだったんだけど…」
以前、ゼミのグループ発表の前日に家で皆で徹夜で作業した事やおあいて2君達と家で飲み会をしたり、何度もおあいて君も来たことがあるから抵抗はなかった。しかも、一人暮らしだから、そうやって誰かが遊びに来てくれるのは嬉しかった。
それに、私は明るくて人気者の彼の事が好きだったから…
「お邪魔しまーす」
結局、おあいて君が家に泊まりに来ることになった。
おあいて2君はいつもより2割増しの笑顔で大きく手を振って見送ってくれた。
「散らかってるけどゴメンね」
「どこが?いつも思うけど、ほんときれいでかわいい部屋だと思うよ」
部屋へ通すと、中を見渡しながら彼が笑う。
何度も来てるけど、こんな風に二人きりは初めてだから緊張してしまう。
「ま、もちろん何もしないから安心して?」
ラグの上であぐらをかいて、ニヤッと意地悪な笑顔を向ける彼。いつもこんな調子でからかったり冗談を言ってくる。
「だよね!おあいて君はもっとかわいくて
明るい女の子が好きだから私の事なんて
相手にしないもんね!」
それに応える様におどけてわざとそんな言う。
悲しくなるけど、期待しないように。
どの講義に出ても誰かに話しかけられていて、いつも友達に囲まれてる人気者の彼が地味な私を女として見てるはずがないから。
「そんな事ないよ!俺は…」
急に真剣な顔で私を見つめる彼。
「…おあいて君?」
「ごめん…なんでもない」
何か言いたげだった彼が口をつぐんだ。
何だか気まずい雰囲気が広がり、そのまま沈黙が支配する。
「…あのさ…悪いんだけどお風呂借りてもいい?
飲み会のせいでタバコと酒臭いのが気になっちゃって」
沈黙を破ったのはおあいて君だった。
自分の腕や服を臭って顔をしかめている。
いくらお風呂が嫌いと言っても、きれい好きな彼だから耐えられないのだろう。
「あ、うん!用意するね!」
「ごめん、お願い。パジャマは大丈夫だから。
またこの服着るし」
「おあいて君が着れるような服、家にはないよ!」
二人でクスクス笑いあうと、いつもの雰囲気が戻ってきた。
「じゃ、借りるね」
上機嫌で彼がお風呂へ行くのを見送り、一人になるとにやけてしまう。
何だか、ほんとに恋人同士みたいで嬉しい。
彼の上着をハンガーに掛けて、お風呂から出てきた時に食べれるように、帰りにコンビニで二人で買ったお菓子を用意する。
座ってテレビを見ながら、彼を待っていた。
「なまえちゃんありがとう」
お風呂から帰ってきた彼の声に振り返る。
「 おっ!しかもお菓子と飲み物まで用意してくれてるし!さすが!」
嬉しそうに濡れた髪をバスタオルで拭いながらのタンクトップ姿。いつもより露になってる彼の身体にドキッとしてしまう。
「あ…うん…」
これ以上は何だか見てはいけない気がして目を反らす。
「どうしたの?…あ、こんな格好だからか」
おあいて君が自分の姿を見て、納得する。
「ごめん。ちょっと調子に乗りすぎたよな。
なまえちゃんもこんなの見せられても困っちゃうよね」
そういって、元のパーカーに袖を通そうとする彼。
「ダメ!違うの!」
「えっ!?」
「タンクトップのおあいて君がかっこよくて…」
そう、見とれてしまったのを隠そうとしただけだった。
ダンスサークルでメインで踊ってるだけあって、ほんとに身体が鍛えられていた。
細いけれどそれだけじゃなくて筋肉のラインが綺麗に浮き彫りになっていて、本当に素敵だと思う。
「マジ?」
おあいて2君みたいにぽかんと口を開けっぱなしのおあいて君。
「うん…だからそのままで大丈夫…」
「ふーん…」
私が恥ずかしそうにそういうとニヤニヤし始める意地悪な男友達。それは、いつも相方とイタズラを考えてる時の顔だった。
「そんなに好きなら脱いで見せようか?」
「!?」
いきなり上半身裸になった彼。
白い肌に刻まれた胸筋や腹筋のライン。
思わず目が釘付けになってしまう。
「ちょっと触ってみる?」
近づいてきて、突然私の手を自分の腹筋にのせた。
「えっ…!こんなのダメだよ…」
「大丈夫だから」
手を離してくれない彼。むしろ、手を引っ張って押し付けてくる。
「どう?すごいでしょ?」
「わ…硬い…ほんと…すごい…」
おあいて君が力を入れると硬くなるそれに驚く。恥ずかしいけれども拒むことなんて出来ない。ドキドキしながら上目使いに彼を見つめると、目を丸くして驚いていた。
「なまえちゃん、俺の事誘ってるでしょ?」
大好きな彼が突然顔を覗き込んでくる。
「反応も触り方もヤラシイんだよね。
ほら、俺のこんなんになっちゃった」
私の手を下へ運び、自分の中心へと導く。
すると、ジーパン越しなのに、そこが主張しているのがわかった。
「やっ…これって…」
「なまえちゃんのせいだよ?責任取って?」
低い声で耳元で彼がそう囁いた。
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