白夜1



きっかけは些細な事だった。

「おあいてなんて大キライ!顔なんて見たくない!もう別れる!」

大好きな彼氏と口論をして、その時に思わず発してしまったこの言葉。
こんな酷い事を言ってしまったのは今回が初めてだった。

しかも、喧嘩の原因も大した事じゃない。
ただ、彼が私が買ってきて欲しいものと違うお菓子をコンビニで買ってきたっていう、ただそれだけ。

でも、おあいては私がどれだけ感情をぶつけても、いつもニコニコしたまま優しく宥めるだけで、そのいわゆる大人の余裕にも実は少しずつ不満が溜まっていた。
私だけが喚いて怒ってるだけでは対等じゃない気がして、それだけじゃなくて、なんだか私と向き合ってくれてない気がして不安になっていた。
それで、口論になった時に、今まで言ったこともないようなあんな事が思わず口から出てしまった。

最悪な休日。
仕事で最近あんまり会えてなかったから、今日はおあいてのマンションで久しぶりのデートだったのにどうしてこんな事になってしまったのだろう。

でも、今更後に引けなくて。

そのまま部屋を後にしようとすると、不意に腕を掴まれた。

「何処行くつもり?」

「何処だっていいじゃん!関係ないでしょ!?」

その手を振り払おうとするも、ぐっと力を込められて腕に痛みが走る。

「離して…!」

叫びながら振り返ると、私を見下ろす恋人の視線が鋭すぎて言葉を失う。
こんな無表情のおあいてを見るのは初めてで、怖くて、まるで凍らされた様に足が動かない。
年齢より若くみられる可愛らしい顔立ちに、笑顔を絶やさない人だからどうしていいかわからない。

「許さない」

そんな風に戸惑っていると、感情のない冷たい声が降ってくる。

「僕を嫌いなんて言うのも、勝手に出ていこうとするのも許さない…」

いつもよりも数段低い声で唸る様にそう言うおあいて。
私を真っ直ぐ見つめるその瞳は暗く澱んでいる。

「なまえ、さっき言ったこと取消して?」

「え…?」

いつもと違う不穏な雰囲気。

「だから、僕に向かって"大嫌い!別れる!"って言ったことだよ。早く取り消して?
 それで、いつもみたいに僕の事大好きって言って?」

そんな事、今さっきまで喧嘩してたのに言えるはずもない。
それに、おあいての様子がいつもと明らかに違う事にも違和感を覚える。

「何言ってるの?おあいてどうしたの…?なんか怖いよ…」

さっきまでの怒りなんて何処かに飛んでしまった。
その豹変ぶりに言いしれない恐怖を感じて離れようとするけれど、掴んでいる手の力は強くてびくともしない。

「ねぇ、早く取り消してよ…」

優しい口調だけど、いつもとは違うのは明白でどうしていいかわからなくて答えあぐねてしまう。

「…さっさと取り消せよ!」

すると、大声で怒鳴りながら私を引き寄せて床へ押し倒した。


「やっ…!」

先程の剣幕が恐くて、抵抗できない。なされるがままに脱がされた服が無造作に散らばっていく。
フローリングに身体は押し付けられて、固い床に肩甲骨が当たり痛みが走る。

「僕はなまえの事を愛してるんだ。
だから、別れるなんて許さない」

私の身ぐるみを全て剥いで、馬乗りになったおあいては自分自身のシャツのボタンも外していく。

「悪いことを言ったこの口はお仕置きだね」

するとそのまま、昂った自身を無理矢理口に捩じ込んできた。苦しさに嗚咽を漏らす私にお構いなく喉の奥まで貫く。粘膜を擦り、段々と舌が苦味に支配されていた。ぐちゅぐちゅと口の中を掻き混ぜられていく。

「なまえ、苦しいでしょ?早く終わらせて欲しいでしょ?」

その言葉に見上げれば、おあいては私の苦しむ様子を楽しそうに見下ろしている。

「ちゃんと舌を動かして、僕を気持ちよくさせなきゃ。じゃなきゃ、ずっとこのままだよ?」

笑顔の圧力を受けて、言われた通りにすれば、自分の唾液とおあいてから滲んでくる先走りが混ざって濃くなっていく。
次第におあいての吐息が荒くなり、大きく雄が跳ねた。
その直後に、口の中に生臭い匂いが広がる。

「ごほっ…!うぇっ…んっ!?「駄目」」

噎せてしまい吐き出そうとしても、彼が口を塞いでそれを許さない。そして、膝立ちになって、視線を合わせた彼は満足げに微笑んでいる。

「飲んで?」

首もとに手をかけられて、にっこりと微笑まれる。首筋を優しく撫でられるそれは脅迫に等しかった。
えもしれぬ恐怖に私は言われるがままに、彼の体液を身体の奥へと流し込む。
おあいては私の喉が上下に動く様を見て、笑みを深めていた。


「はぁっ…嫌っ…」

「どうして?いいじゃん。せっかくなんだから仲直りにこのまましようよ」

耳許で囁くおあいてはそのまま首筋に顔を寄せて舌を這わせてきた。
時折みせるこういう強引さは、いつもは甘えてくれてるって思って嬉しかったけれど、今日はそんな風には思えない。
まるで、段々と白い霧が立ち込める様に もやもやと疑念が心の中で広がっていく。

「ほら、こうされるとなまえも気持ちよくなるでしょ?」

「ひゃあっ!?」

すると、いきなり胸の先端を強く摘まみ上げられて身体がぴくりと跳ねる。

「少し乱暴にされた方が感度良くなるよね。君ってば」

クスクスと揶揄するように笑うおあいてはそのまま、私の下半身へと手を伸ばして花びらへと指を忍ばせる。
いつもと同じ様に好きな場所を刺激されれば、簡単に登りつめてしまった。

「さっきはごめんね。普通に考えれば、僕と別れるなんて無理だったのに酷い事しちゃって…」

達して涙にぼやける視界がおあいてで一杯になる。

「…っ…どうして?何で無理ってわかるの?」

何が"無理"なのか、その真意が掴めない。

「だって僕は何でも知ってるからさ、君のこと」

その微笑みに今まで感じたことのない戦慄を覚えた。



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