lean on2



「なまえ、俺とこんな事して本当にいいのか?」

「何言ってるの?今更…」

ソファの上では私が座っている彼に跨り、奥までしっかりと雄を納めていた。
成り行きで自分自身を慰める様に互いを求め合う私達。
脱げかけのブラウスと捲り上げられたスカートを纏っている私とおあいてはカッターを肌蹴させてズボンは履いたままの状態で繋がっていた。

「っ…お前締めすぎだろ…」

「んっ…だってイイんだもん」

この男はやっぱり派手な女関係があっただけの事はあり上手いと思う。
感じる場所を見抜き、的確に刺激してくるから腰の内側から痺れて蕩けてしまう。
下から突き上げながら、首から鎖骨にかけて吸い付いて紅い所有印を残していくおあいて。

「も…ダメだよ…」

「ほら、イケよ」

潤んだ瞳で見つめれば、嬉しそうに目を細めて腰を掴む手に力を込めて更に律動の速度を増す。
冷たく淡白な印象が強かったけれど、それは間違いだったと思い知らされた。
その厚い氷の向こう側に蠢いていた激しい情熱がぶつけられる。
飛んでしまいそうな理性の中で考えているのは、これがあの人だったらという妄想で。

「おあいて2…!」

思わず達する時に叫んでしまった。
そして、力が抜けてしまいおあいての胸へと雪崩れ込む。

「っ…!」

そこで感じた違和感。
呼んだのは別の男の名前のはずなのに、胎内でドクンと脈打ち質量は増す。
驚いて怠い身体を起こして、彼の顔を見つめれば困った表情を浮かべていた。

「…変態みたいだよな」

腰に手を回したまま、自分自身に呆れた様に溜め息を吐くおあいて。

「でも、本当に好きだったんだ…」

分かってるよ。
言わなくても。

「俺はいつも一人だった…母親は弟にばかり愛情を注ぐし、父親も会社の経営の事ばかりで俺になんて興味を持ってなかった。近づいてくるのも、俺のステータス目当ての奴等ばかりだったんだ…」

だから、彼はいつも他人に対して冷やかでキツく当たるのか。
何年も一緒にいたのに、初めて知る事が多くて戸惑ってしまう。

「そんな中、アイツだけは違った。初めて本心が明かせる、大切な存在だった。それは友情じゃなくて…独占したい、想いを通わせたいとそんな気持ちを抱いてたんだ」

太陽みたいに輝き周りを明るく照らすおあいて2に惹かれない人間なんているんだろうか。

彼の寂しさや辛さは私以上だったのだろう。
女である私と同じ男であったおあいてとはその感情を男に抱くと言うのは全く意味が違うから。

返す言葉なんて見つかるはずもなくて…

薄い唇から紡がれるその独白を黙って受け止める事しか出来なかった。


「んっ…あぁっ…」

寝室に移って今度はベッドで身体を重ねる。
二人とも一糸纏わぬ姿になり、おあいてが正面から私を貫いていた。

「なまえ、馬鹿だお前は」

額から汗を滴らせながら、溜息を溢す。

「俺と違って可能性があっただろうに、どうして…」

お前なら、俺は…

そう、苦しそうに呟くおあいて。

「俺はお前に託していた。自分の気持ちを。何度もお前とおあいて2がうまくいくようにとチャンスを与えてたのに…」

そうだ、今から思えば、おあいてはいつも3人だけになると私とおあいて2が二人きりになれるように仕向けてくれていた。
その時は何も気づいていなかった。
正直、おあいて2と二人きりになれる事に舞い上がっていただけだった。
例え、彼に素敵な恋人がいたとしても。

「彼女の為のプレゼント選びに付き合わされている時点で望みなんてなかったよ…苦しくて辛くて…でも、おあいて2が幸せそうに笑うから…」

そう言えば、おあいては何も言わなくなる。
その薄い唇に自ら唇を重ねた。
全部忘れさせて欲しいと願いを込めて。

察したおあいてが最も奥に先端を押し付けてくる。
重なる肌は熱くて、しっかりと筋肉のついた腕で私を抱き締めた。

それなのに、与えられる甘い刺激にも溺れきる事が出来なくて、浮かぶ理性で考えてしまう。

よき理解者でいいと思っていた。
側にいれればいいと思っていた。

けれどもそれは、自分を誤魔化すための嘘で。

本当は私だけを見て欲しかった。
こんな風に身体を重ねたいと思っていた。

寂しさを埋める為に
傷を舐め合う為に
身体を重ねる私達。

決して、それが癒える事はないと知りながら。

「私もあんな風に想われたいとどれだけ思った事か…」

「なまえ…」

泣くなと言うかと思えば、上から私の顔を覗き込む彼もまた泣きそうな顔をしていた。

私の涙を拭ってキスをする。
優しくて、哀しい口付けだった。

それでも、その瞬間だけは満たされた気がした。



「…どうするんだろうね?残された私達がこんなことして」

行為を終えて、ぼんやりと二人でベッドに横になりながら天井を見つめていた。
ただ、横に並ぶだけの私達。
恋人達とは違い、まるで友達同士で真夜中の草原に星を見に来たような、妙な爽やかさと秘密を共有した絆が私達の間を満たしている。


「付き合うか?」

「冗談でしょ」

おあいてが顔だけを私の方へと向けてニヤリといつもの意地悪な笑みを浮かべるから、私も笑い返す。

「まぁな。到底アイツの事を忘れられる訳なんてない」

自嘲気味にそう呟きながら、天井を見つめる友人。

「無理に忘れようとすると余計に苦しくなるから、自然に任せるしかないよ」

「そう言って、お前、ずっと想いを引き摺ってきたんだろ?」

「今そーゆー事言う?ほんと、性格悪い」

「悪かった。そういう性分なんだよ」

二人でクスクスと笑い合う。

どうしてだろう?

想いは伝えられなかったのに、気分は何だかすっきりしていた。

そんな時、不意におあいてに抱き寄せられる。

「ちょっ!?どうしたの?急に…」

動揺する私を他所に彼は黙ったまま、そっと私を包み込む。

お前を愛せればよかったのにな…

ぽつりとそんな事を呟いて、彼は眠りへと沈んでいった。


2015.11.8
天野屋 遥か



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