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「あっ!くそっ!なんだよ!」

大学の構内で歩きながらスマホでゲームをしていた。時間限定のダンジョンに失敗してイラついて、リセットボタンを押す。

「あ、おあいて君!」

そんな時、不意に背後から名前を呼ばれた。
思わず固まる。
一瞬何が起きたか分からなかった。

懐かしい声。

慌てて振り返り、その姿を確認する。

「久しぶり!元気?」

そこにいたのはかつての彼女のなまえ。
あの頃よりも髪の毛は伸びて、服装も以前のふわふわしたかわいいものよりも少しシックで大人っぽくなり落ち着いている。

二人が離れてしまった時間の長さと、以前は呼び捨てで俺の名前を呼んでくれていた君との距離を改めて感じさせられた。

もう一年も経つのか。


「…おあいてもう無理だよ…お願い…別れよ…」

あの夜、久しぶりのデートの帰りに君の家の前で言われた言葉。
君は泣きながら俺に別れを告げたんだ。

当時、俺はサークルで中心メンバーになってしまい、忙しくてなまえとの時間を取れなくなってしまっていた。
ダンスが楽しくて、自分達でイベントの企画もしたりと充実してて後回しになっていた。
メールも返さない、電話も適当、デートもドタキャンなんてざらにあった。

そのくせ、自分が辛い時だけ連絡したりして、呼び出して肌を重ねるなんて最低な事をしていた。
そして、とうとう君が耐えきれなくなって、別れを切り出されたんだ。

気づかない内に寂しい思いをさせてしまって、いつの間にか傷付けていた。
俺はなまえの事が好きだったけれど、サークルを優先したいって気持ちもあってそれを了承したんだ。


「やっぱり3年になると全然会わないよね。大学来るのも減るもんね」

「まぁ。学部も違うから余計にそうだよな」

よくある久しぶりに会った知り合いと交わす典型的な会話だけれども、それでも嬉しい。

別れた直後は忙しかったし、寂しかったけれどそこまで辛くはなかった。
けれどしばらくしてから、まるで禁断症状の様に君に会いたくなって声が聞きたくなったんだ。
そして、何度も連絡をしたけれども、なまえからは全く返事は来なかった。それで俺は全てを悟って、自ら連絡を絶ったんだ。

その後、酷く落ち込む俺を心配した周りは女の子を紹介してくれたり、何度か女の子からアプローチ受けた事もあったけれど乗り気になれなかった。

心にずっとなまえが残ってた。


「もうすぐ、就活始まるけどもうどんな方面か決めた?」

「大体は。メーカーの営業っていいかなぁって思ってる」

「そっか!営業!おあいて君なら人当たりもいいし真面目だし向いてると思う!」

あの頃と変わらない笑顔が向けられる。
何だか照れくさくて、俯いてしまう。
またこんな風にしゃべれる日が来るなんて思わなかった。

俺さ、別れた後で気づいたんだよ。
君がいないと何もかも上手くいかないって。
疲れた時、落ち込んだ時に俺を癒してくれていたのは君だったんだって。
一緒にいてくれるだけで頑張れたって。
どんなに生活を充実させてもどこかにまるで風穴が空いているように、気持ちが満たされることなくしぼんでしまう。

なまえは本当に大切な女の子だったんだ。


近況や思い出を話してくれている君の顔をただ見つめる俺。

あぁ、ヤバい。
涙出そう。

ずっと、平気なふりをしていたけれど、実際はボロボロでいつ崩壊するかもわからなかった。
それでも、誰にもカッコ悪いところは見せたくなかった。
だって、人づてで君に俺のそんな状態を知られたくなかったから。
いつ君が戻ってきてもいいように。

君はこの一年どんな気持ちでいたんだろう?

もう疲れた。
なまえを思う事も、出会った頃に帰りたいと狂いそうな位に願うことも。
だったら…

「あのさ…俺…」

しばらく世間話をした後、意を決して、この1年の自分の想いを伝えようとする。

「なまえ―――」

「あっ!ごめん待ち合わせしてたんだった!」

ところが、君を呼ぶ別の男の声に遮られてしまった。
少し離れた所に、俺とは正反対の落ち着いたいかにもインテリって感じの背の高い男がこっちに向かい手を振りながら立っている。

"じゃあ、またね!"ーーーーーー

俺にさよならを告げて、ソイツの元へと走っていった。

街路樹に陽の光が当たりキラキラと輝いている道を大好きだった彼女が違う男と楽しそうに歩いていく。
俺は茫然とただその姿を見送るだけ。

あぁ、きっと二人は…

もう、君は俺の事なんて吹っ切れてたんだね。
現実を目の前に突き付けられた。

神様は残酷だよ。

戻す事が出来ないなら、いっそ、この気持ちすら全てをリセットしてほしい。
ゲームみたいにボタン一つで楽しかった俺達二人の思い出も、真夜中に恋しさに一人で流した涙も何もかも全てを消し去る事ができたなら、これ以上に哀しくて幸せな事はないだろう。

お願いだから、戻ってきて…

言えなかった言葉。
ぐっと飲み込んで、自分の奥底へと沈める。
2度と浮かんで来ないように、深く深く。

そして、俺は幸せそうな二人に踵を返した。



2014.9.16
天野屋 遥か


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