その代償2



「おあいて…はぁっ…!うぁっ…!」

身体を起こされて、床に座ったおあいての上に向かい合うように跨がり喘がされていた。
肌を叩きつけられる音と二人の荒い息遣いが玄関に響いている。床には二人の繋がりの証の淫らな液体が垂れ流しになっていた。


「許さない…許さない…」

譫言の様に呟きながら、私の腰をきつくつかんで、自らの肉杭を深くまで打ち込んでくるおあいて。動かされる度に、腰の中が強い刺激に震える。 冷えていたはずなのに、二人とも今や汗ばんでいた。

「ごめんなさい…でもいきなりあんなことされて…抵抗出来なかったの…」

激しい突き上げに理性が飛びそうになりながらも、何とか事情を分かって欲しくて説明を続ける。

「…無理矢理された?だから何?」

すると、腰の動きを止めて地を這う様な声で唸るおあいて。

「他の男とキスした事に変わりないだろ!?
しかも俺の目の前で!違うの!?」

「ごめ…ん…おあいて…!」

早口で大きな声で私を芯から揺さぶりながらまくし立てるおあいてが怖くて、泣きながらそれでも感じてしまう。肩に歯を立てて、奥まで容赦なく貫いてくるそんな彼氏の姿を知らなかった。

「はぁっ…!あぁっ…うぁ…!」

悲鳴に近い声を上げて、彼の首にしがみつく。がつがつと奥を抉られて、猛々しく暴れるおあいてに、胎内が反応し段々と痙攣が激しくなる。直接子宮に届きそうな位に亀頭が迫ってきた。

「やっ…も…無理…!!」

とうとう彼の上で腰を大きく跳ねさせて、再び絶頂を迎えてしまった私。膣肉が彼の肉棒を締め上げると、中に熱い液体が放たれる。

「っ…あっ…」

おあいてが吐息を漏らしながら、自身を抜くと中から熱が溢れ落ちるのを感じた。



「ほんとに…ごめんなさい…
どうしたら許してくれる…?」

項垂れて、彼の肩に頭を預けながら救いを求める様に彼の背中に腕を回す。

「お願いだから許して…何でもするから …」

朦朧とする意識の中で、言葉を振り絞った。

おあいてを愛してるから。

彼に縋るために。

おあいての笑顔や優しさが大好きで、少し考えが足りない部分があるけど、一生懸命な彼が本当に愛しくて…だから早く仲直りしたかった。
キスをしてしまったのは事実だけど、本当に友人とはそんな関係じゃないって事を分かって欲しかった。
優しいから、夜道を一人で歩くのを心配して今日もわざわざ迎えに来てくれたのに…
こんな事になってしまって、お礼も言えなくて…何もかもがうまくいかなくて。
掴もうとしても、砂の様にさらりとすり抜けてしまうおあいてとの気持ちのすれ違いに涙は止まらなかった。

許して欲しい。

それだけを望んで、彼に誠心誠意気持ちを伝える。


「何でも…?」

すると、おあいての声色が変わる。

「うん…おあいてのためなら何でもするよ…」

そう見つめると何かを閃いた様に目を見開いていた。

「消毒しなきゃ…」

「えっ…?」

そして、唐突に思い立った様にそんな事を言い始めた。そのまま私を抱き上げてベッドへ運ぶ。

「なまえが汚れちゃったから。もっともっと中まで全部俺で満たして、綺麗にしてあげるね…」

先程とは打って変わって、不安を取り除くように丁寧に優しく私を抱くかわいい彼氏。いつもと同じ様に私に触れる指は軽やかで慈しみに溢れてる。

「おあいて…」

「なまえ…」

正面から繋がったまま、落とされるキスは柔らかくて甘い。さっきまでの激しさが嘘の様。嵐が去った後の様な穏やかで澄んだ空気さえ感じる。私の反応を見て、大切に愛してくれる彼は鮮やかに高みへ私を導いてくれた。

「愛してる…」

そう囁く彼の声はいつもと変わらず、すでに怒りは微塵も感じられなかった。私はおあいてが分かってくれたのだと安心して、身体を預けた。


長い夜が明ける頃、窓から射し込む光がベッドにいる私達を照らす。
一晩中繋がっていた私達も、今はベッドに二人で沈み微睡んでいた、
射し込んだ光がおあいての黒い髪や長いまつげを照らし、キラキラと輝いて見える。
それは柔らかくて無邪気でとても綺麗な光景だった。

「…とっても簡単な事だったんだね」

「急にどうしたの…?」

私をそっと包むおあいてが普段の口調で囁く。仲直りをしてすっかり普段と同じに戻っていた私は、いつもの調子で彼の頭をそっと撫でる。

「なまえが此処から出ない様にすればいいんだ」

「えっ…?」

彼が放った言葉に耳を疑う。

「なまえ、ずっと俺の側にいて?
一分でも一秒でも離れないように…」

私の手を取り、自分の頬に嬉しそうに撫で付けるおあいて。

「何言ってるの?
そんなの…無理だよ……」

「なまえが言ったんでしょ?
"何でもする"って…俺を騙したの?」

震える声でそう伝えると、おあいての瞳に一瞬にして広がる闇。
あの冷たい瞳で私を捕らえるその眼差しは、命の危険すら感じさせる様な狂気を孕んでおり、戦慄が走った私はただ頷く事しか出来なかった。
明けない夜があると知った瞬間、彼の澱んだ闇に足を取られてしまった。

「浮気なんて出来ないようになまえがここに
ずっといればいいんだ。なまえの世界が俺だ
けだったら、そんなこと出来ないもんね?」

普段と変わらずにこにこと楽しそうに笑う彼はもう壊れているんだろう。
乾いた嗤い声が哀しく部屋に響く中で、その腕に抱かれる私。
聞こえる鼓動は遠くて、触れ合う肌も冷たいい。それはまるでガラス越しの様。

愛した彼はもう此処にはいない。

けれどもそのまま、私はこの鍵の無い部屋に閉じ込められた。


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