呪文の様に教授の言葉が教室中をぐるぐると廻る、退屈な大学の講義。

真剣に講義を受けているアキの横で、 欠席してた分のノートを彼女から借りて写していた。

その合間に前を見ている彼女の横顔へ視線を送る。

長い睫毛につぶらな瞳。
すっと通った鼻筋に知的な薄い唇。
長い髪を1つに束ねていて、そこから見える肌は雪の様に白かった。
息を飲むくらいに綺麗で。
思わず見惚れてしまっていた。

確かに、一緒に仕事をする女達の方が容姿は整っているとは思う。
けれども、そんな事じゃない。
もっと別の…
言うなれば、滲み出ている彼女の内側に秘められた、その心の美しさに強烈に惹きつけられたんだ。


「こんな風に静流君にノート貸す日が来るなんて思わなかった」

「えっ?」

すると突然、アキが僕の方へ顔を向けるから驚いて我に帰る。

「静流君は私の憧れだったんだ」

「憧れ…?」

こんな僕の何処に魅力があるというの?
君に比べたら僕は…

「前の彼氏に振られて落ち込んだ時にたまたまTVを観たら静流君達が歌番組に出てたのね」

彼女が話を始める。

「静流君のキラキラした笑顔みてたら、すごく元気を貰えたの」

…痛かった。

僕を見つめる君の瞳があまりに真っ直ぐで、純粋過ぎて。

視線を外したいのにどうしてだろう?
目が離せない。
まるで、磁石に吸い寄せられる様に君は離してくれない。

「私、将来TV局で働きたいの。
 楽しい番組作って、皆が元気になるお手伝いがしたい」

私が静流君の笑顔から元気を貰った様にーー

なんて、嬉しそうに話す彼女の笑顔から今の生活の充実感が溢れてて羨ましかった。

夢の為にと真剣に講義を聴き、黒板を見つめる眼差しはとても強くて尊い。

でもね、それを見ると悲しくなるんだ。

だって、僕達のいる世界
君が行きたいと望んでる世界はそんなものじゃないんだよ?

それに、僕は君が思ってるような人間じゃない。

モヤモヤとした嫌な感情が広がり
釈然としない気持ちを抱えたまま講義は終わった。


2014.8.12
天野屋 遥か


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