月の裏側 | ナノ








▼ 青い月-後編-1

「覚えてるでしょ?ねぇ?」

左の耳許に顔を寄せて囁き、そのまま耳朶をそっと啄む。
その何とも言えない感触に肌が粟立ってしまう。

「頭の良い晴陽ちゃんが忘れるはずなんてないよね?」

おまけに右の指先で首筋から鎖骨をなぞり、そのまま身体のラインをねっとりと掌で撫でつけるように下がりトップスの裾を掴まれた。

「知らない!離して!」

纏わり付いてくるその言葉一つ一つをき消そうと叫ぶ。
けれども、そんな事は微塵も気にせずに、服をめくり上げた理人君はまじまじと自身で晒した肌を見つめてきた。

「綺麗だなぁ。真っ白で」

飴色を蕩けさせたようなうっとりした瞳で、ほぉっと溜息を吐いて胸元に顔を寄せる。ちりっと焦げ付くような痛みが肌を刺し、視線を落とせば胸元に紅い花びらが浮かんだ。

「止めてよ!」

「どうして?ちゃんと僕のものって目印付けて置かなきゃ」

無視して何度も印を刻む理人君。

「やだ…!やだ…!」

抵抗しようとすれば両手を頭上でひとまとめにされて左手で手首を捕まれてしまう。そうして彼は、胸の先端に吸い付きながら、右手を腰に這わせて太股を撫でたかと思うと、中心に手を伸ばした。

「晴陽ちゃんも往生際が悪いね」

足を動かして阻止しようとするけれど、足を割り込まれて閉じることが出来ない。
そのまま、スーツのパンツのチャックをあけれられてしまった。
軽く彼が指をかけただけですとんとパンツが下がってしまい、ストッキングを破られ、ショーツに触れられる。

「僕、これでも怒ってるんだよ」

口角を上げて一切の乱れのない歯列を覗かせた彼の目は笑っていない。それどころか、冷たく私を見下ろしている。そして、ショーツの横から指を滑り込ませていきなり

「やぁっ…」

蕾をかりかりと爪で引っ掻きながら淵を指先でなぞったかと思うと、そのまま中心に滑りこまれた。

「抜いてよ!こんなの犯罪だよ!」

「犯罪?だったら君の方が先に罪を犯してるよ。こんなに君を愛している僕を避け続けたんだから。これはそんな君への罰だ」

私の訴えに真っ向から対立し、腰の中を探るように指を動かし始めた理人君。
浅い部分を擦られれば、奥から蜜がとろりと流れてくる感覚がして力が抜け始める。


「晴陽ちゃんが悪いんだ」

ゆるゆると中を探るように粘膜に指を這わせてくる。

「だって、普通嫌になるでしょ!?私のゴミを漁ってるなんて気持ち悪い!理人君だって、もし好きでもなんでもない人にそんな事されたら同じ反応するでしょ!?」

一気にまくし立て、息を切らす私とは対照的にきょとんと目を丸くする同僚。

「確かに、驚くけど…僕はちょっと嬉しいかな」

少し考えた後、照れくさそうにはにかむ同期の反応に目を疑う。

「え…?」

「だって、そこまで僕の事を考えて知ろうとしてくれてるんだよ?それって嬉しい事じゃない?嫌われるよりはよっぽどいいよ」

瞬間、ぞわりと全身が震えて鳥肌が広がった。

心底ぞっとした。

どうしてそうなるんだろう。
私の常識がまったく通用しない。
同じ空間に存在して、
同じ空気を吸って、
同じものを見ている筈なのに。

まるで、違う次元で生きているとしか思えないほどに。

「晴陽ちゃんはどうしたら分かってくれるの?」

分かるわけなんてないよ。
何もかも。
私はただの仲の良い同僚だと思っていただけなのに。
他の同期と同じように接していただけだったのに。
どうして、こんな風に執着されないといけないのか。
どうして、愛情と呼べるのかすらも不確かな歪な感情を押し付けられないといけないのか。

人間が恐怖を感じるのは対象の正体がわからないからで、その正体が分かってしまえば恐怖という感覚が消えるという話しをどこかできいた事があった。
でも、正体が分かっても消えないそれは今までに味わった事のない真の恐怖だと思う。

震えとともに、得体の知れないそれに怯え、抑えきれない恐怖に涙が溢れてくる。

「あれ?どうしたの?僕の愛情の深さに感動した?」

嬉々としてを伝う水滴をそっと舐めとるその仕草にも虫酸が走る。

「ひっ…!」

「可愛い」

怯え、嫌がる私を見つめる琥珀色の瞳は蜂蜜が滴るようにどろりと甘く絡み付く。
まるで身体の動きを封じ込める様な重い液体が浴びせられる感覚。

「止めてよ…理人君…おかしいよ…」

もう、ひとり言のように呟くことしかできない。

「おかしい?僕は至ってまともだ」

先程までの笑みは消えて真顔になった理人君。

「僕から言わせてもらえば晴陽ちゃんの方がどうかしてるよ?」

漆黒の前髪の間から捕らえた獲物に今にも喰らい付かんばかりの獰猛な獣みたいに興奮を宿した瞳で顔を覗き込んでくる。

「周りに僕ほど仕事が出来る男がいる?僕より格好いい男がいる?僕ほど毎日君の事を気遣ってる男がいる?」

ぐちゅりと指の腹で奥を撫でられる。

「ひゃっ!?」

その刺激に強い電流が走り、思わず大きく声を上げて腰が跳ねてしまう。その姿を目にした彼は整然とした歯列を覗かせた。

「いないよね?」

探り当てられた敏感な場所をまるで、罰だとでも言わんばかりに強くなんども指で擦り上げてくる。

「ねぇ?」

息を荒く、捲くし立てる様に指の動きを早めてくる同僚。

「やだっ…!やだっ…!」

小さく飛沫が上がり、太股に水滴がつく。
中を擦り上げながら、固くなった蕾を親指で執拗に引っ掻いてくる。
強烈な刺激に腰が浮いてしまう。

「あぁっ!」

意に反して快感の渦に巻き込まれ、極まってしまった身体は大きく仰け反る。
壁に骨が食い込んで身体を軋ませる痛みが、これが現実だと突きつけてくる。

無理矢理に達せられてしまった事実と疲労で呆然としている私。

ジャケットとネクタイを床に放り投げて、カッターをはだけさせて自身を取り出す彼。
既に天を仰いでピクピクと脈打つそれは凶器にしか見えない。
身体が言うことを聞かなくなってしまっている私の左脚を持ち上げて膝の裏に腕を通す理人君。

「嫌われたくなかったけれど、勝手に異動も希望出して、引っ越しまでして…離れようとするなんて許さないよ」

「や…それだけは…」

膨らんだ先端が花びらを押し広げてぬぷりと侵入してきた。



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