Live for the night | ナノ








▼ 新人ホスト襲来編1

「うわっ!!」

いつも通り仕事帰りに来店し、扉を開けて中に入ろうとしたところでいきなり何かにぶつかる。
ドンと大きな音を立てて尻もちをついてしまった。

「痛ったぁ…」

「大丈夫デスカ!?申し訳ありマセン!おケガはありマセンカ!?」

床に座りこんだ私に合わせる様に、ぶつかってしまった相手である金髪の大きな男性もしゃがみこんで心配そうに覗き込んでくる。
整った顔立ちをした彼は、ライトブルーの瞳を不安に潤ませていた。

「大丈夫ですから!ほら!」

瞬時に立ち上がって元気だとアピールする。

「本当デスカ?スミマセン。ワタシがぼんやりしていたせいで…」

それでも 、私に合わせて立ち上がった彼は眉をハの字に下げていた。

「はい!この位何ともないので!」

実際に大したことはなかったし、そんな捨てられた子犬みたいな顔をされたらむしろこっちが悪い事をした気分になってしまうから笑顔を向ける。
すると、ホッとしたのか彼の表情は柔らかいものへと変化した。

「本当にゴメンナサイ。よろしければお詫びにお席までご案内させていただけマセンカ?」

深々と頭を下げる丁寧な対応に好印象を抱いた私は、そのエスコートの申し出を快諾し名前を告げる。

「コチラでございます。足下をお気をつけ下サイ早苗サマ」

すると、カウンターでリストとテーブルの状況を確認した彼はそっと私の手を取った。

「そういえば、お名前伺ってもいいですか?」

「申し遅れました。ワタシは九条申しマス。最近、この店に入った新人ホストデス」

背の高い彼を見上げて問いかければ、切れ長の瞳を細めて親しみやすい笑顔で自己紹介をしてくれた。

「そうなんですね!初めまして」

政宗みたいな真っ白なスーツに黒のカッターシャツを身に付け、アクセントにゴールドのネクタイをしている九条さん。
少し長めの金色の髪を揺らして歩く姿は美しいだけでなくどこか浮世離れした外国の王子様といった風貌をしているのに、微笑みながら話すと、可愛らしい八重歯がこぼれた。

「早苗サマのお席はこちらでゴザイマス」

いつの間にか腰に手が回され、優しい手つきで身体を支えられたまま席へと導かれた。

「ありがとうございました…?」

私がソファに座ったところでお別れかと思いきや、なんとソファに彼も座ってくる。

あれ?指名してないぞ??

なんて不思議に思っていると、いきなり距離をつめて密着までしてきた。にこにこと愛想のいい笑顔だから全く嫌じゃないけれど、違和感は否めない。

「…九条さん?」

「九条とお呼びクダサイ。
 政宗はあちらのテーブルで接客中、弓月もまだ出勤してマセン。
 早苗サマ、どうか少しお話ししてクダサイ」

どうやら、あの二人が来るまでの間、私の話相手になってくれるらしい。

「有名なお客さまなので、ワタシもぜひどんな方かずっとお話をしてみたかったのデス…」

その言葉に目を丸くする。

「有名!?どうしてですか!?いつも色気のないスーツで来てるとか、安いものしか注文しないとかそんな事ですかね!?」

「違いますよ。あの政宗と弓月オーナーがご執心という事で有名なんデス」

めちゃくちゃ恥ずかしすぎると一人でパニックに襲われる私の様子が面白いのか、クスクスと笑いながら誤解を解く九条さん。

「はぁ?そんな事で?」

ところが、彼の言葉により頭の中にますますはてなマークが一杯になった。
政宗なんてNo12のうだつの上がらないホストだし、オーナーの弓月は道楽者っていうイメージしかない。

「…確かにとてもチャーミングだと九条も思いマス」

そんな失礼な事を考えていた私に顔を近づけて、すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いではうっとりとそう呟く新人ホスト。
いつの間にか私の手が温かいもので包まれている感覚。
視線を落とせば、九条の両手が私の手を握っていた。

「もし、早苗サマがよろしければ今後はこの九条も指名しては頂けマセンカ?
 まだ、新人でお客さまもいなくて…」

握った手の力を強め、寂しそうに眉を下げる九条。
人懐っこいゴールデンレトリバーがしょんぼりした様な印象を受け、こっちまで悲しくなってしまう。

「そっか、それなら…「駄目だ。ならんぞ、九条」

絆されて指名の約束をしようとしたところ、 いきなり飛び込んできた聞き慣れた声。
テーブルの正面に視線を向ければ、いつもの様にお酒とおつまみを持ち、濃紺のスーツで立っている弓月の姿。
口角は上がっているけど、普段と違い張り付けた様な作り笑いに恐怖を感じた。

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