Live for the night | ナノ








▼ 同僚センセーション編

「美味しかったね。料理」

「まぁな。幸村は今日は酒よりも飯ばっか食ってたな」

今日は金曜日。
会社の歓迎会の後、一次会で抜けてきた私と同期の栗川は駅に向かって歩いていた。
通りは私達と同じような歓迎会帰りのOLやサラリーマンで溢れかえっている。皆、活気に満ちていた。

「あの店のご飯美味しいって有名だったから楽しみだったんだ!ほんとにおいしかった」

「だろうな。課長のデザートまでもらってたのを見たぞ」

「ちょっ!隅っこにいたくせになんでそんなとこちゃんと見てんのよ」

「たまたま見えただけだ」

そういって、ふっと笑う同僚の笑顔に思わず胸が跳ねてしまう。
生来の浅黒い肌に色素の薄めの茶色の髪の毛でよくチャラいと間違えられてしまいがちな外見とは違い、無口で真面目な性格の彼。普段は無表情で淡々と仕事をしてるし冷静に私の行動にツッこんでくる癖にこうしてたまにみせる微笑みは反則だと思う。
そのギャップには分かっているのにドキドキしてしまう。

「早苗じゃないか!」

そんな中、突然、前から聞き覚えのある声で威勢よく名前を呼ばれた。
正面を見ると、見知った男が歩いてきていた。

「奇遇だな。こんなところで会うとは!」

私の名前を大きな声で呼んだのは、ドン〇ホーテの黄色の袋を両手に持って、いつもの真っ白なスーツに身を包む政宗だった。
友達といる時に出会いたくない奴no1に出会ってしまった。
仕事帰りのサラリーマンやOL達が沢山歩いている中で、その美しい容姿に明らかな夜の匂いを纏っているこの男は目立ちすぎだ。

「…おい、なんだこの派手な男は。知り合いなのか?」

同じスーツでもグレーのオーソドックスなものを身に着けている同僚が不審な眼差しを向けてくる。

「いや?知り合いというほどの知り合いじゃ…」

「おい、何を言い出すんだ君は!俺達は客とホストを超えた深い仲じゃないか!」

「ちょっ!?大声で変なこと言わないでよ政宗!」

殴りたい衝動を抑えて、とにかくそのおしゃべりな口を塞ごうと奴に飛びかかる。

「…客?…ホスト?深い仲…?」

わたわたと政宗とバトルしてる最中、それを見ながら栗川は不審そうに眉をひそめていた。

「幸村、ホストクラブに通ってるのか?」

「まぁ…たまに気分転換に」

何とか政宗の口を両手で塞ぎながらそう言った瞬間に、眉間の皺が益々深くなる。

「いいか?ホスト通いなんて止めろ」

強い眼差しで真っ直ぐ見つめる彼の言葉は真剣そのものだった。
慣れ合いを嫌い、仕事以外で自分からあまり他人と関わらない彼がこんな風に言うなんて…
本当に心配されているんだと実感し、自分の状況がそこまでヤバイものなのかと冷静に考え始める。

「いや、そんなお金かけてないから大丈夫だよ」

けれども、よくよく考えても、別に言う程のお金はかけていない。
気分転換にお酒を飲むのに適した程度の金額だけだ。
この政宗は微妙な人気のホストだし、特に本人も上を目指している訳じゃないから、月に何度か店に行って、自称見習いホストの弓月と三人でお酒を楽しく飲んでいるだけだ。
というか、それよりも前回の件から二人が私のマンションにまで勝手に来るようにさえなってしまったのが悩みになりつつある。

「そんなのコイツらの手口に決まってるだろう。段々と値段を吊り上げられて金をむしり取られていつの間にかボロボロにされて捨てられるのがオチだぞ」

「酷いなぁ。俺を何だと思ってるんだソイツは。彼女は自分で言った通り、適度に遊んでるだけだぜ?男の嫉妬ほど見苦しいものはないぞ?」

大きな袋を道に置いて、口を塞いでいた私の手をよけて反論を始める政宗。
おまけに、栗川を挑発するように私の肩を抱き寄せた。

「いちいち腹の立つ奴だな…!」

「君も大変だな。こんな短気な奴が同僚なんて」

大きく舌打ちをして、猫が毛を逆立てて威嚇するみたいに怒りを露わにする栗川を軽くかわし、呆れたように私の耳元で囁くこのホストは本当によい性格をしている。

「いや、別に」

どうでもいいから、早く帰りたい。
それで頭はいっぱいで、どうやってこの状況から逃げようかと考えていた。
政宗の距離が近いのはもはや慣れたものだけど、道行く人の視線が痛い。

「まぁ、どうせ、君は会社の彼女しか知らないんだろう?見たところ無愛想だし、奥手そうだから女からは誘われても自分で誘う事は苦手そうだからな」

「政宗!言い過ぎだよ謝って!」

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて失礼な言葉を並べる政宗を思わず叱る。
栗川は寡黙だけど、真面目で顔立ちも精悍ないい男だ。
普段はあまり自分からコミュニケーションを取ろうとしない一匹狼な存在だけど、周囲の事はよく気配りをしていて、仕事で困っている人がいれば、さりげなく助けたりしている。そして、もちろん、自分の仕事も丁寧で正確で早いときているから、職場でも男女問わず評価が高い。
流石に、そういう魅力的な友人をそんな風に言うのは我慢ならなかった。

「おい!もう行くぞ!」

沈黙を守っていた栗川が珍しく大きな声を上げたかと思うと、おもむろに政宗から私の身体を引き寄せる。
そのまま政宗を一切見る事もなく、私の腕を掴んだままずかずかと大きな足音を立てて駅へ向かって歩き始めた。

「じゃあまた店でな!弓月と待ってるからなー!」

そんな私に大声で暢気に手を振って見送る政宗。
その後、駅までの道中に栗川に散々尋問されて説教されたのは言うまでもない。


2017.4.4
天野屋 遥か



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