眩暈(後編)2
「ほら、休んでる場合じゃないぞ。次は俺の相手をしてくれ」
今度は四つん這いにさせられて、後ろからおあいて2が侵入してきた。
腰に腕を巻きつかせて肌を密着させてくる。
鍛えられた熱くて固い筋肉が背中を覆う。
「も…やだぁ…」
「可愛らしい嘘を吐くんだななまえは。下の口はしゃぶりついて離さないのに」
恥ずかしい事を囁かれ、中を探るように自身を動かすおあいて2にいいところを見つけられてしまう。
「あぁっ!!だめぇっ!」
「此処か?なまえは此処が良いのか?」
嬉々とした声を上げて執拗にその場所に張り出したエラで擦り付けてくる。両腕で私の腰を抱え込みねっとりとした腰使いで、ひだを磨り潰すかの様に太くて硬い自身で強い快感を与えられてしまう。
「あぅ…兄さん…」
どうかなりそうな刺激に耐えるように布団のシーツを握り締める。
「可愛いな。突けば突く程俺に絡み付いてくるぞ」
肩に顔を置いて耳許でそんな恥ずかしい事を囁かれ、左手はいつの間にか胸を掴んで揉みながら固くなった先端をくにくにと指で押し潰される。多方から与えられる快感にぐちゃぐちゃになってしまう。
「ねぇ、なまえ。僕のも舐めてよ」
目の前に突然、昂ぶったおあいての分身が突き付けられる。先程達したと言うのに、既に固さを取り戻してそそり立っていた。唇に先端を押し付けられ、ぼんやりとして判断力が失われている私は言われるがままに舌を這わせる。
「うーん、足りないなぁ」
先端を口に含んで舌を這わせていると、少し不満足そうに首を傾げる弟。
彼はそのまま、私の頭を撫でたかと思うと両手で掴んだ。
そして、先端が喉の奥につくほどに侵入させた。まるで先程の行為の様に、腰を再び打ち付けてくる。
「なんだ。なまえは乱暴に扱われるのが良いのか」
嘲笑の中に含まれる加虐心を背中に溢すおあいて2兄さん。締め付けが強くなり、快感が増したらしい。
「うん、そうみたい。兄さんに犯されてるのに僕のもちゃんと咥えて離さない」
正面にはおあいてがいて、私の口の中を容赦無く犯してくる。
「おあいてもっとやれ。可愛い妹の中が俺をきゅうきゅうと締め付けて堪らん」
気持ちよいといった様子で、うっとりと呟く兄さん。
彼も自身を先端のぎりぎりまで引き抜いて、最奥まで貫く。腰を打ち付けられる度にその根元の袋の部分が当たり卑猥な音を立てていた。
「だってさ、なまえ。僕なんかよりもずっとずっと信頼してる兄さんのお願いなんだから、応えない訳にはいかないよねぇ?」
艶やかに吐息を零す紅く色付いた唇から牙の様な犬歯を覗かせて、瞳を肉食獣の爪の形に細めるおあいて。
されるがままの私は余りに強すぎる快感の波に飲み込まれて眩暈がする。その渦の中で翻弄された私の喉奥と子宮の奥にゴポリと音を立てて、二人の欲望が放たれた。
「あれ?なまえ、寝てる場合じゃないよ。今度はもう一度僕の番なんだから」
散々弄ばれて精根尽き果てた身体を休める事すら許されず、おあいては私を布団から起こして、胡座をかいている自身に跨がらせた。
「ほんとにこれ以上は無理…」
「だめだよ。まだまだ足りない。もっと頂戴よ」
涙を溢して懇願しても、頬に口づけをする彼の直下立った雄を花弁に埋め込まれ、再び抱かれる。
そのまま、だんだんと遠のいて意識を手放していった。
「兄さんもとんだ偽善者だよね」
自室のベランダで煙草に火を付けたおあいてが、隣で同じく紫煙を薫らすおあいて2に挑発的に切り出した。後始末を行い、何事も無かったかの様になまえをベッドに寝かせたふたりは彼女の部屋を後にしていた。
「さぁ?何の事だ?」
「とぼけないでよ。なまえの信頼を勝ち得たのは、こうしたいと思ってたからでしょ?何も知らずに健気に実の兄みたいに信じ切っている姉さんが可哀想で仕方ないよ」
「お前位だよ。俺にそんな事をいう奴は。お前もわかってるだろ?なまえはよく出来た女だ。だからこそ、傷付かない様に守ってやりたいと思っているだけだ。そして、まぁ俺のものになればいいと思っている事は否定しないけどな」
口調はいつもと変わらず淡々と、おあいて2はただ口元を少し上げるだけ。
望んだものを手中に納めた安堵が少し滲んでいる。
「怖いなぁ。兄さんにそんな事を言われたら、逃れられる訳ないじゃない。なまえ、かわいそうに…」
「その言葉お前にそっくり返すぞ。お前も思惑通りだっただろう?祝いが欲しいだのなんだのほざいていたが、褒美に望んでいたのはアイツの身体だった癖に」
「まぁね。だって、僕もずっと好きたんだよ?初めて会ったときから。でもさ、ガードが固かったんだよね。姉さんさ、僕が高校生の頃から距離を取るようになってたんだ」
「それ、知ってたぞ。大方、お前の本性がバレただけだろうと思って放っておいたけどな。手を下すまでもなくライバルがいなくなるのは有り難かったし」
喉の奥でくつくつと笑うおあいて2に、おあいては眉間に皺を寄せながら灰皿に吸い終わった煙草を押し付けた。
「本当に兄さんは性格悪いよね」
「お前には言われたくない」
「確か、あの当時に僕が他の学校の生徒を恐喝してるとこかなんか見ちゃったんだよ。それからおかしくなったの。姉さん、隠してたつもりだったかもしれないけど、バレバレだもん。僕を見る視線に顔色を伺う様な怯えが混じってた。だから、信頼されてる兄さんがいてくれてよかった」
月光に照らされたおあいての口許からはその鋭い犬歯が覗く。
「それはお互い様だ。俺にとってもお前がいて丁度よかった。俺達2人が手を組めば、なまえは逃げる事なんて絶対に出来ないからな。なまえを手に入れる上でお前が一番厄介だった」
一方のおあいて2の漆黒の瞳に映った夜空の月が妖しく揺らめいていた。
「…なまえ、目を覚ましたらどうするだろうね?僕達の事、嫌いになっちゃうかなぁ?」
「馬鹿言え。夢だと思わせれば良いだけだ」
愚問だとでも言うように一蹴し、そう続けるこの男の言葉はまるで氷が割れる音の様に冷たく響く。
ふたりの男は少しの間沈黙し、互いに見つめ合いながら再び口角を上げた。
「それにしても、ほんとに相性良かったなぁ。今までで一番気持ち良かったし、もっと欲しくてたまらなくなっちゃったよ。閉じ込めて僕だけのものにしたいくらいに」
「…抜け駆けするのか?」
「まさか。そんなこと出来るわけないでしょ?僕達が本気で喧嘩したら、兄さんも俺も互いに殺しにかかるじゃん。僕は姉さんを傷つけて悲しませたい訳じゃないし、あの人が望むなら仲良し兄弟であるべきだと思うんだ」
「まぁな」
おあいての言葉に一瞬目を見開き、その後何事もなかった様にいつもの冷たい表情に戻り同意するおあいて2。
「今度は一日中ずっと抱いてみたいな」
「奇遇だ。俺も同じ事を考えていた」
そして、同じ思惑を互いの瞳の奥に見つけた彼等は一層笑みを深める。
自身の持つ力と比例し、この2人の男達の性質は何とも我が儘で欲の強いもの。
クスクスと微かに響く兄弟の笑い声は闇に吸い込まれていった。
2017.3.6
天野屋 遥か
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