gift(後編)2
「はぁっ…おあいて君…あぁっ…」
二人分の体重がかかり、ギシギシと激しく軋むベッドで彼に正面から貫かれていた。
窓から射し込む夕陽に照らされた壁に私達の影が浮かぶ。
「あっ…!あぁっ…!」
抵抗なんて出来なくて、彼の律動に合わせて喘ぐばかりだった。
腰を掴まれて浅い場所を先端のエラで擦られたり、奥を擦られられば、粘膜は嬉しそうに彼に絡み付く。
「なまえさん、どう?いい?」
綺麗な顔には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。白い肌は薄く桃色に色付き、汗ばんでしっとりとした輝きを帯びており、男の色気を発している。
あの時とは比べものにならないくらいに上達してて、余裕のないのは私の方。
こんな状況で過ぎて時の流れを実感させられるなんて…
けれども、そんな悲しさを塗り潰す様に彼は快感を与え続けてきた。
枕を握りしめて、その甘い責め苦に耐えていく。
「ひどいよ…なまえさん…」
日が沈んで辺りが紫に色づいた頃、不意に彼が動きを止める。
涙で滲んだ視界の中の彼の顔は酷く寂しそうで。こんなに近くにいるのに、まるで大平原のずっと向こうにいるみたいに遠くて儚かった。
「僕はずっと貴女の事が好きだった…」
そのまま、瞳を臥せて唇を重ねてくる。先程とは違い、何度も唇を啄むだけの柔らかい口付け。
「…本当の事を言えば、あの時、クラスの女子に失恋したなんてのは嘘。貴女の同情をかいたくてそんな事を言ったんだ」
「え…?」
「あれは、なまえさんの事だったんだ。あの日、おあいて2のケータイにあったなまえさんと彼氏とアイツの3人で撮った写真を見ちゃったんだ…それで落ち込んで…」
明かされた衝撃の事実。
落ち込んでいた理由は確かに失恋だったけれど、その重みは全く違った。
まさか、自分自身に対するものだとは思いもしなかったから。
「だから、あの時嬉しかった。僕の初めてが貴女で。小さい頃からずっと大好きだったから」
その言葉に、あの時、私は取り返しのつかない事をしてしまったのだと確信する。
彼を繋ぎ止めてしまう様な愚かな所業をしたのだ。
後悔の念が押し寄せて私を浚っていく。
「なのにあれから、貴女は僕を避けて、会ってくれなかった…!」
自分自身が混乱している中、お構いなしにおあいて君は言葉を続ける。
「悔しかった…だから、いい大学に行って僕が優秀であることを見せ付けて、貴女なんかよりももっと綺麗な女と付き合って、それで見返してやりたかった!!」
大きな瞳からは水滴が零れてくる。
その雫は私の頬までをも濡らした。
「けれども、どんなに他の女と付き合っても貴女を忘れられなくて…」
心が内側から寂しさに食い潰されていく感覚がして怖かったと言う彼の悲痛な叫び声は私の心までも抉ってくる。
「ひどいよ…僕はなまえさんを忘れられない所かもっと恋しくなって…」
身体を震わせて泣いている彼の姿は、小さい頃と変わらなくて…
「おあいて君…」
言う事を聞かない身体を何とか起こして、遠い昔していたみたいにそっと、頭を撫でようと腕を伸ばしたーーーーー
パンッーーーー
その瞬間、乾いた音が妙に大きく響く。
彼が私の手を振り払ったのだ。
「それなのに…貴女は僕の気持ちなんて無視して他の男と婚約するなんて…」
そのまま、独り言の様に言葉を続けていく。
「おあいて2から聞いた時、頭が真っ白になった」
俯いた君の表情は何も見えなくて、私はただ、困惑するばかり。
「僕以外の男と結婚するなんてそんなの絶対に許さない…!」
すると、次の瞬間、叫んで顔を上げたおあいて君の表情は怒りに満ちていた。
「きゃあ!?」
強い視線で再び私をベッドへと縛り付けて無言のまま覆い被さるおあいて君は身体全体を押し付け、首筋に頭を埋める。
そして、しがみ付く様に私の頭を抱き締めて、再び貫いたのだ。
深い突き上げに、身体の芯から痺れていく。
「ねぇ、あの頃みたいにおあいてって呼んでよ」
「あぁっ…!あぅ…」
ガツガツと奥まで抉られてしまうと、その激流に飲み込まれて、虚ろな返事しか出来ない。
「ねぇ…ねぇってば…」
耳許に唇を寄せてそんな私に甘えるようにねだりながらも、腰の動きを弱める事はない。
「うぁ…おあいて…おあいて…」
朦朧とした意識の中で聞こえた単語を虚ろに繰り返せば、私の中で蠢く雄が硬さと質量を増した。
「僕はずっと…小さい頃からずっと好きだった…貴女の婚約者よりも想ってきた…」
快楽に無理矢理沈めさせられた身体だけでなく、心まで苦しいまでの彼の想いに、まるで水の中に沈められて行くようなそんな感覚。
既に暴かれてしまった、感じる場所を執拗に擦りあげれられれば、膝は笑い始め、段々と身体が痺れていく。
「やぁっ…!あぁっ…ああぁっ…!」
とうとう、堪えきれずに達してしまった。
身体は大きく跳ねて、粘膜は彼に絡み付いていく。おあいて君はそれでも、動きを止めることは無かった。
「っ…なまえさん…僕もそろそろ…」
その言葉と胎内で彼が震える感覚に、ゾクリと背筋が凍った。
「やっ…!それだけは…!お願い!」
逃れようとしても、腕の力は強くなり身体を更に押し付けてくる。肌のぶつかる音は一層大きく響くばかり。
「はぁっ…なまえさん…」
名前が呼ばれると同時に、どくどくと脈打ち温かい液体が胎内へと広がっていく感覚。しかも、それだけでは足りないのか、そのまま先端を子宮の口へと押し付けてくる。
「子供が出来れば、僕と結婚するしかないでしょ?」
その言葉に何も返せない。
飛び散った理性を集める気力はなく、目を見開いたまま、呆然とそれを受け入れるしかなかった。
身体の奥に熱が溜まっていくのと引き換えに、望んでいた幸せが零れ落ちていく。
それはもう、二度と戻ってくることはない。
「おめでとうなまえさん。プレゼントは僕だよ。結婚しよう?幸せにしてあげるから」
放心している私の中で果てた彼は、思い出の中と同じ無邪気な笑顔で嬉しそうにプロポーズをした。
2016.5.8
天野屋 遥か
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