だけど僕は(前編)2



「おあいて君。ごめんね…」

待ち合わせの駅前で会った瞬間された謝罪。
相変わらず、俺にビビってる。
そんななまえに少しイラつきながらその顔を見れば、目を泳がせる。

「気にすんな。むしろ、おあいて2が悪かったな」

「いいよ。おあいて2君、仕事忙しいからよくある事だし…」

そう言って何も知らずに笑うコイツの顔に、胸が痛んだ。

「それより、今日は弟の誕生日プレゼント選ぶとかって聞いてんだけど」

「そうなの。私じゃ何がいいかわからなくて、男の人の意見を聞きたかったの」

話を聞けば、どうやらまだ学生の弟は俺と同じでゲームが好きらしい。二人で色々店を見て回って、俺が選んだ最新作のソフトにした。

「ありがとうね!ほんと助かった!私だけじゃ選べなかったから。お礼におごるから好きなもの食べて!」

「別にいいって。んな事くらい大した事じゃねぇし。ここは俺が出すから気にすんな。俺に奢る位なら弟に誕生日ケーキ買ってやれよ」

休憩に入ったカフェでなまえからお礼を言われる。
大分打ち解けたコイツは、おどおどする事もなく自然に話をする様になっていた。
俺達はお互いの近況や、ここにはいないおあいて2の話で盛り上がって、楽しい時間を過ごした。


「おあいて2君もおあいて君もすごくカッコよくなっててびっくりした」

駅へ向かう帰り道、二人で並んで歩いていればそんな事を言うなまえ。

「いや?別に普通だろ」

照れ隠しにそっぽをむく。

「小学校の時から二人ともカッコよくて人気だったけど…」

とうとう、お互いに触れてこなかったキーワードが出てきた。

今、言わなければならないと思った。


「なまえ…」

足を止めて、彼女の方へ向き直る。

「ん?」

「忘れてる訳ないよな?俺が昔、お前にした事…」

けれども、俺は自他共に認める不器用でどう話を切り出していいのか判らなかったから、率直に言葉を投げ掛けるしかなかった。

「大切な顔に怪我の痕も残しちまって…」

俺の顔を驚いた様な表情でずっと見つめているなまえ。
通りは車のテールランプが流れ、周りも通行人が歩いて行く。

俺達だけがまるで時間が止まった様だった。

夕方特有の必要以上に冷たい風が頬を撫で、次の言葉を急かす。

「お前があの時…あの階段から落ちたのは…」

正面からのなまえの強い視線に、口が噤んでしまう。

やべぇ…言葉が上手く出てこねぇんだよ。

だけど俺は、ここで言わなけりゃきっと一生謝る事はできない。

これは最初で最後のチャンスだ。


「俺のせいで…本当に…」

ごめんーーーーーー

言葉を振り絞り、そう深く頭を下げればなまえは慌てる。

「おあいて君…顔上げて…?もういいから」

「でも、俺はお前に…」

「大丈夫!昔の事だし、おあいて君もわざとじゃない事わかってたから。それに、傷もうほとんどわからないんだよ?ほら!見て?」

なまえが前髪を上げたそこを見れば、もう何も残っていない。

流れた歳月は、俺達のわだかまりを溶かしてくれていた。

「よかった…俺、なまえにずっと謝りたいって思ってたんだよ」

「そんな…もう何年も前の事だから大丈夫!気にしないで?」

薄い紫色の空の下、俺に赦しを与えて堂々と微笑むお前は凛として涙が溢れそうになる位に美しかった。


「おあいて君、ほんとにありがとうね!じゃあ、また!」

「おう。気をつけて帰れよ」

罪悪感から解放されて清々しい気持ちになって、改札の向こうに笑顔で消えて行く同級生を見送った俺は満足感で一杯だった。


2015.6.30
天野屋  遥か


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