chapter1 | ナノ








▼ 1-1

「え!?お見合い!?」

その言葉を聞いた瞬間に、思わず座っていたソファから身を乗り出してしまった。
白衣を身に着けたマダムがティーカップを口に付けながら優雅に微笑んでいる。

「そう!ウチの息子も適齢期なのに全然彼女いないらしいの。
で、みょうじ先生なら丁度あの子と同い年だしお付き合いしてる男性もいないんでしょ?
だったら丁度いいと思って」

突然、病院の院長室に呼び出されてしまい、何事かと思えばまさかのお見合いの打診。

まぁ、確かに結婚適齢期と呼ばれる年齢ではあるけれど…

正直まだ考えられない。
やっと研修医の期間が終わり、これから更に医者として専門性を身に付けてもっと患者さんのために治療法を学んだりしていきたいという気持ちが強いから。
自分の目標はたくさんの患者さんを救える医者になる事で。
この大きな病院に就職出来て、優秀な先輩たちに囲まれて切磋琢磨している毎日はとても充実しているし、まだまだその夢への道は始まったばかりだと思っている。

「……」

上司の前だというのに、思わず黙って考え込んでしまった。

なぜなら、医者としての道だけでなく、もう一つ私には大切なものがあるから。

私は昔からずっと歌手としての音楽活動を続けている。
趣味と言われればそれまでだけど、最近は、招かれて歌を披露する機会も増えてきて、音楽家としての活動も増えてきたところで公私共に非常に充実している。

そんな恵まれた環境にいるから、彼氏はいない事を寂しいと思った事なんてなかった。
だから、心から好きだと言える人、一緒にいたいと思える人が現れない限りは恋愛が出来ないだろうとなんとなく自分でも分かっているし、ましてや結婚なんて考えられない。

「まぁ、堅く考えないで?一回会ってみるだけでいいから!ね?まぁ、私としては貴女が娘になってくれれば嬉しいけど…」

私の様子から何かを察した院長は、そんな言葉を付け加えてくれた。この美人の院長は、中々強引で言い出したら聞かないところがある。

「そうですか…会うだけなら…」

ここへ就職してから何かと目をかけてもらっている尊敬している人からの頼みを断ることなんて出来ない。


こうして決まってしまった突然のお見合い話。


次の日曜日、顔合わせのために院長と息子さんと私で会う事になった。
急な話のため、遠くに住んでいる両親は都合がつかず、院長も話が進んでからでいいからという事で軽く食事会のつもりでいいからと言われたのに…

迎えのタクシーで連れて来られたのは、まさかの高級料亭。

院長先生の言葉信じて、少し畏まったワンピース着てきただけだった事を非常に後悔した。

「あ、いらっしゃーい!」

廊下を歩くと外に広がる優雅な日本庭園に圧倒されながら座敷の一室に通されれば、着物の院長が迎えてくれる。
が、彼女だけで息子さんらしき人はいなかった。

「うちの子、なんか急に会社に呼ばれちゃったらしくってちょっと遅れるらしいのよ!ごめんなさいね」

「いえ。大丈夫です。それにしても息子さんもお忙しい方なんですね」

「そうなのよ。商社勤めでね。海外出張とかも結構多いみたいで忙しくしてるのよー」

申し訳無さそうに、頭を下げる恩人にこちらが恐縮してしまう。
そのまま、用意されていた座椅子に座り、二人で雑談をしながら息子さんを待つ事になる。
すると、10分程経ったところで廊下から足音が聞こえてくる。障子が開くと、仲居さんと眼鏡をかけたビジネススーツの背の高い男性が立っていた。


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