chapter1 | ナノ


▼ 02

「平熱ですし、順調に回復していますね」

朝の回診の時間。
病室を回り担当の患者さんの健康状態を一人一人チェックする。

「先生、俺もうすぐ退院ですか?」

あるベッドに足を運ぶと人懐っこい笑顔で朝から元気に話かけてくる男性がいる。
この方はみょうじ2さんという、ウチに入院している同じ年齢の患者さん。
数日前に検査に訪れたところ、検査結果に異常がありそのまま入院となっていた。

「そうですね。このままいけば週末くらいには退院できますよ」

「そっか…寂しくなるなぁ。俺、なまえ先生ともっと一緒にいたいのに」

「またそんな事言って。早く完治させる事が何よりも大切なんですから、そんな事言わない様にしてくださいね」

苦笑いしてみょうじ2さんのベッドを後にした。


「みょうじさんかっこいいですよね!」

「ねー!ほんと爽やかだし」

看護師さん達のそんな会話をが聞こえる。
みょうじ2さんは、入院した時からカッコイイと女性スタッフの間で話題になっていた。
確かに、優しそうな大きな瞳と口元が印象的で、細身でスタイルもよい。
爽やかで、人懐っこい子犬みたいな笑顔を浮かべて同室の他の患者さんとも仲良く話をしている姿も何度か見かけた。
コミュニケーション能力の高い人なんだろうとは思うけれど、どうしてもチャラチャラした印象が強く、私は構えてしまう。
職務上、関わらなければいけないので当たり障りのない会話はするけれど、苦手意識が強かった。


「あ!なまえ先生!」

休憩の際に廊下を歩いていると、みょうじ2さんに不意に声をかけられる。

「…おあいてさん?」

振り向けばみょうじ2さんの隣にも知っている顔があって驚きを隠せない。
二人で陽当たりのよいテラスのソファに座り談笑をしている様子だった。

「どうも」

軽く会釈をするおあいてさんに私も頭を下げる。

「えっ!?何?おあいて、お前なまえ先生と知り合いなの?」

「まぁ、ちょっとな」

驚いているみょうじ2さんを軽くいなすおあいてさん。
何となく、お見合い相手だとは言いづらいのは同じで、お互い示し合わせた訳ではないけれど、先日の件については一切触れなかった。
あの日に連絡先は交換したものの、その後、特にメッセージを送ったり電話をすることもなかった。

「あ、そうか。ここお前のとこの病院だからか知っててもおかしくないか」

弁解をする前にみょうじ2さんは一人で納得していた。

「みょうじ先生、おあいて2の奴、調子はどうですか?」

「回復してきてますよ。最初の検査の時にはあまりの検査結果の悪さに驚きましたが」

「そうですか。コイツ、最近ずっと働きづめで、食欲が落ちたりしてたから心配だったんですよ」

「もしかして、おあいてさんが検査勧めたんですか?」

「はい。このまま放って置くとマズい事になるんじゃないかと思って…」

「自分でもびっくりでしたよ。過労でこんな事になるなんて」

「お前、笑い事じゃないだろ」

溜息を吐くおあいてさんとのんきに笑うみょうじ2さん。
まるで正反対な二人。
話をしていると、どうやら二人は会社の同僚でよく飲みに行ったりと仲が良いとの事だった。
今日はおあいてさんが出先から帰る前にお見舞いにきたらしい。

「そういえば、なまえ先生って、またここで歌ったりしないんですか?」

そんな会話の中、不意にみょうじ2さんに尋ねられる。

「どうして知ってるんですか?」

音楽活動の話はみょうじ2さんにした事ないのに。

「歌手として活動してるんですよね?この間、看護師さんから聞きましたよ。数年前に1度、病院のイベントで歌ったことあるって」

「病院で歌う予定はないですよ。たまにコンサートに出させてもらって歌う事はありますけど…」

「コンサートに出るんですか!?ぜひ見てみたいです!次はいつですか?教えてください!」

「1か月後ですけど…そうしたら、今度、チラシ持ってきますね」

「ぜひ!お願いします!」

私の言葉にかなり食い付いてくる彼に戸惑いながらも、趣味の活動に興味を持ってもらえた事は素直に嬉しかった。

「そういえば、おあいても確かピアノやってたよな?あれ?今も続けてたっけ?」

「たまに弾く位だな。気分転換に」

おあいてさん、ピアノをずっと続けてるんだ…

自分自身も歌手として音楽活動をしている事から、不意に知った新たな事実に親近感を覚える。
もう少し話を聞きたいと思ったけれど、時計に目をやればミーティングの時間が迫っていた。

「すいません!この後ミーティングがあるのでこれで失礼します」

二人に引き留めて申し訳なかったと謝られ、大丈夫だと答えてそのまま急いで会議室へと向かった。
そして、1時間ほどの会議の後に上司から指示を受けたので今度は院長室へと足を運んだ。


「今年、この病院が100周年を迎えたのって知ってるわよね?」

「はい、もちろんです」

私が訪ねた時には丁度、院長先生はデスクで仕事をしている最中で、その前で立ったまま話を聞く。

「それに合わせて患者さんのために記念のリサイタルコンサートを開くから、またそこで歌ってくれないかしら?他にも楽器を弾ける先生達にはそれぞれ演奏を披露してもらうように依頼はしてあるの。で、もちろんあなたにも出て欲しくて…」

「私が出ていいんですか?」

「何言ってるの!むしろ出て頂戴!前に歌ってくれた時も患者さんから好評だったのよ!出ないって言ったら院長命令で無理にでも出すところよ」

いつものあの豪快な笑い声でそんな冗談を飛ばす。
確かに、回診とか廊下で会った患者さんに褒められてすごく励みになった事もいい思い出だったし、あの頃よりもさらにうまくなっていると自負しているから折角なら披露したい。

「わかりました!ぜひ歌わせてください!」

私の返事に満足そうに笑みを浮かべて頷く院長先生。
ところが、事態は急展開を見せる。

「それでね、おあいてにピアノ弾かせるから、二人でコンサートに出てね」

「え…?」

突然のその言葉に驚いて固まってしまった。


2017.1.12
天野屋 遥か



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