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▼ 04

あの日以来、ミノルを見かけないから安心していた。
陽菜の話だとたまにしか会わないって言ってたし。
アイツは”優しくて面白くて大切な友達”と言っていたけれど、あーゆーチャラしい男とは喋るなときつく言い聞かせた。
最後には渋々ながらも、ミノルとはもう会わないと約束までさせた。

口の巧い男にロクな奴はいないんだよ。
今まで、優しくて温かい人たちと接したことのない妹は人を根底から疑う事を知らない。
そんな温室で育てられた花の様なアイツを汚させる訳にはいかないんだよ…!
だから、絶対に近づけさせたくなかった。

今日もいつもの通り、病院の中を病室へと向かっていた。
人通りのない廊下を進んでいると、後ろから足音が重なってくる。

「お久しぶりです。皇海さん」

振り返れば、ミノルが立っていた。
まぁ、他店であっても俺の方がキャリアが長いから、わざわざ挨拶をしてきたらしい。
…もちろん、それだけでないのはわかってる。

「ずいぶん元気そうじゃねぇか。刺された割に」

「まぁ。傷も浅かったんで」

ヘラヘラと笑っているその様子に神経を疑う。
客の女をそこまで追い詰めておいて、反省の色すら感じさせないってどうなんだよ。
まぁ、この商売には向いているってことなのかも知れないけど…

しかし、改めて見るとホントに派手だよな。
スウェット着て、松葉杖ついてるだけなのにモデルみたいにキマッてやがる。
俺みたいな小柄の男とは訳が違う。
それすらもイラつかせる。
この世界に入ってから、女を騙すのには容姿なんて関係ないって思ってたのに…

「そういえば、皇海さん、陽菜ちゃんと知り合いなんですか?この間、たまたま廊下から外見てたら二人で仲良さそうに歩いてるの見たんですけど…」

「…俺の妹だよ」

そのイラつきに任せて、丁度いいと言わんばかりに本題を切り出す。

「え!?陽菜ちゃん、皇海さんの妹さんだったんですか?」

驚いたかと思うと、その口許が楽しさを隠しきれないように緩み始める。

「そっかぁ…妹かぁ」

奴がしみじみと呟く。

「そうだよ。だから二度と近づくな」

「陽菜ちゃん、悲しむんじゃないんですか?だって、俺に嬉しそうにお兄ちゃんは大きな会社のエリート社員だって自慢してたんですよ。優秀で頼りがいのある大好きなお兄さんだって」

俺が睨みつけると、その大きな口を開けてケラケラと心底楽しそうに笑う。

「頼むから、余計な事言うなよ。アイツに負担をかけたくないんだ」

「まぁ、気持ちは分かりますよ。陽菜ちゃんかわいいし、守りたくなりますもん」

「嘘つけ。お前、今まで何人も上手いこと言って女騙してきた癖に。だから、今回の事件が起きたんだろ?」

「そう思ってても構いませんよ。でも、俺、あの子本当にいいなって思ってるんです。今まで俺の周りにはあんなに真っ直ぐで優しい子なんていなかったから」

「今回の事件はお前は一見被害者だけど、本当の原因はお前がその客を追い込んだからだろ?だから、お前が仮に本気だったとしても、許すわけがない」

「よくそんな事が言えますね。皇海さんだって何人もお客さんフーゾク送りにしてるんでしょ?より貢がせるために。ほんと、ホストの鏡だなぁ」

それはそれは楽しそうに声を弾ませるミノル。
こいつ、本当に性格曲がってんな。
人当たりのよさで女は騙されるかもしんねぇけど。
最悪だ。

「うっせぇよ…!」

俺が腹から絞り出した声が地鳴りの様に低く廊下に響く。

「あ!稼いだお金、ひょっとして陽菜ちゃんの治療費に全部当ててるんですか?」

「…だとしたら、何だよ。お前に関係ないだろ」

「いや、そんな事知ったら彼女がどんな反応するか心配なんですよ。もしも、優しいあの子が女に貢がせたお金で自分の治療費が払われてるって知ったら…っとしまった!」

そこで、慌てて言葉を切るミノル。
その視線は俺を通り越した向こうを見ていた。

俺もそれを追って、振り向くと…


「お兄ちゃん…」

そこには大きく目を見開いた陽菜がいた。



2016.4.12
天野屋 遥か



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